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別れの季節とケサランパサラン(5)
そうして日常生活ができるようになるまで回復し、退院して、
島の人たちの農作業の手伝いもできるようになるまでになった、ある日、
島の人が嬉しい知らせを届けてくれた。
昨日から補給で停留した船が、日本に行くらしい。
敗戦した日本に、支援物資を運ぶ途中の船だそうだ。
もしかしたら乗せてもらえるのではないか、というものだ。
男の子は島の人と一緒に船まで行き、事情を話すと、
隔離はするが乗せていっても良い。という返事をもらえて、
数日前に日本に帰ってきたのだった。
もう、二度と日本には戻れないのではないか。
そう思っていたのに、いくつもの幸運が重なって、
女の子の元へ戻ってこれたのだ・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・話を聞いた女の子は、ハッとして、
男の子に小さな木箱を差し出した。
「これは?」
「うん、信じられんかもしれないけど、これね、ケサランパサラン。」
「あの?願いをかなえてくれる?」
「うん、この子ね、あなたが帰ってくる直前にね、ぱぁっと光って、死んでしまったんよ。でもね、一年間ずっと一緒にいてくれてたんよ。」
「・・・・そっか、じゃあ、もしかして・・・」
「うん、私がね、この子に一年間ずっと願っとったんはね、も一度、あなたに逢えますように。そう願っとったんよ。」
「・・・願いをかなえて、役目を終えたから命も尽きたんだね。」
「きっとそう、命を懸けてその人の願いを一つ叶えてくれるのが、ケサランパサランだったんだと、私も思った。」
木箱の中の白い綿帽子は、もう、ちょっとも動きません。
けれど、女の子は、その綿帽子が「もう大丈夫だね。」
そう呟いたように感じたのでした。
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・・・・・・という、お話だよ。面白かったかい。」
「うん、ケサランパサラン、すごいね!それでね、その後女の子と男の子はどうなったの?」
「そうだね、ここにその木箱とケサランパサランの抜け殻があるってことは、どうなったんだろうね。」
「う~ん、、、、わかった!女の子はひいばあちゃんだ!」
うん、うん、と頷くひいばあちゃん。
「その後女の子と男の子は夫婦として暮らし始めて、子どもも6人育てたんだよ。そして、その子ども達の中の一人が、ととろんのおばあちゃん。」
「うわぁ、、、、、、じゃあ、ケサランパサランが願いをかなえてくれなかったら・・・・。」
「うん、ととろんのばあちゃんは生まれてこなかっただろうし、そうなると、ととろんもここにはいなかったかもしれない。」
「じゃあ、ケサランパサランのおかげで、僕もいるんだね。」
ひいばあちゃんはにっこりと笑うと、僕の頭をなでてくれたのでした。
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・・・・というお話でした。どうだった?」
子ども達はすぐに感想を話し出す。
「ケサランパサランすごい!」
「先生、ケサランパサランはどうやったら会えるの?」
「僕も会えたら、絶対大事にしよう。」
などなど、大盛り上がり。
怖い話が苦手Tさんも、横の友達と、「一緒に探そう。」と話している。
「そうだね。ケサランパサランは、雪に隠れたり、
タンポポの綿毛に隠れたりしているって話だから、
春になり始めるころには、もしかしたら出会えるかもしれないね。」
子ども達は「やったぁ!」ともう一段盛り上がると、
「先生、見つけた時は、見せに来るね。」と元気に外に駆けだしていった。
春の花がつぼみを膨らませ始めた3月。
この子達とのお別れも、もうすぐだと思うと、
少しだけケサランパサランにお願いをしたい気持ちになった。