悪ふざけの代償は(7)
体育が終わり、教室に上がっていく時間になると、
既に来客は帰っていた。
もっとも恐怖を感じることは、それは知ることができない事から生まれる。
まさに【疑心暗鬼】
子ども達が作り出す空気はいよいよ重くなっていた。
さて、今回ばかりはやらかした二人も、
もうどうしようかという状態になっているが、
いたたまれないのは、残りの子ども達である。
この子たちは、二学期初めに一度僕に担任が変わっている経験もあるので、
その時の不安感や、不意に訪れる絶望感は、
二度と味わいたくないものであることは間違いない。
だが、何よりこちらの心も苦しかったのは、
自分たちの担任が変わってしまう事よりも、
僕が辞めなきゃいけなくなってしまうことに、
子ども達が落ち込んでしまっている事だった。
もう、ここらを落としどころにして解放しないといけない。
さすがに、この意地悪でしつこくて面倒くさい担任も
辛さに耐えきれなくなった。
「みんなは給食の用意をしておいてね。先生はさっきの来客の方のことを確認してくるから。」
そう言って渡り廊下で別れて職員室に向ったのだった。
当然報告書ができていない段で、今回の来客が、
うちのクラスの事件には全く関係していないのはわかっていたのだが、
ひとまず4時間目までの状況を教頭先生に伝える。
「もう、あの二人はともかく6の1の子達は落ち込んどるやろー。そんなことは無いよって、はよ言ってやりなさい。ととろん先生。」
と、教頭先生は、笑顔のままで、子ども達のことを案じてくださった。
教室に上がると、いつもは目を離していると、
ダラダラガチャガチャして長引く給食の準備がすっかり終わっていた。
「先生どうやった?!」
「やめんでよかったと?だいじょうぶなん?」
頂きますより前に、子ども達からの質問が飛んできた。
「ん-、、、、とりあえず今回は、、、、大丈夫でした。」
「やったぁ!もう、なんでこんなドキドキせないかんのよぉ。」
自分自身が、心苦しかったことから解放されてほっと息をつくよりも、
ずっと深い安堵感で、教室全体の空気が彩られていく。
「ととろんが先生辞めるんやったら、明日から私も不登校になってやろうと思ってた。」
Ⅰさんが涙目の笑顔で言ってくれたのが、なんだかうれしかった。
そして、今回やらかした二人も、
まるで爆発物処理がうまくいった時のような焦燥からの解放された顔で
へなへなッと視線を落とした状態になっている。
「ただし、6の1のパソコン使用は卒業まで無しです。もしかしたら学校全体がパソコン室の使用ができなくなるかもしれないほどの事件なのだったのだからね。もしどうしても調べ不足の分については、家で調べてくるか、休み時間にこの教室のパソコンで順番に調べるようにしてください。」
「はーい。」
安心感いっぱいの明るい声で、了解の返事がそろい、
給食をほおばっていると、教頭先生からの放送が入ってきた。
「ととろん先生、ととろん先生、職員室まで来てください。」
何だろう?心当たりがない。
子ども達も少しざわついている。
「やっぱりクビか?」
そう呟くと、さすがに意地悪しすぎ、ととろんいい加減にしろよ。
と言わんばかりに、ぎろっと睨む子ども達。
「早くって来い!もう叱られてきてしまえ!クビになってしまえー!」
すっかりいつもの明るさで、子ども達は笑顔で給食を食べているのだった。