牛乳パックほったらかし事件(1)
「ととろん先生、また置いてある。」
掃除時間になり、KさんとRさんが指したのは、黒板前のオルガンの上、
飲みかけの牛乳パックが放置されている、これで3度目だ。
給食時間、食べ終わるまで離席をすることはない。
また、給食当番が配膳室に片づけに行くまでに、食べれなかった人は、
自分で配膳室まで持って行くのが決まりになっている。
果たしてこの牛乳。だいぶルーズな性格な人が、ほったらかしにして、
そのままにしているような置かれ方なのだ。
オルガンの上に、ストローも刺したままで、中身も半分くらい残っている。
飲めなくて残したのではなく、給食時間が過ぎてもだらだらと飲んでいて、
そのまま友達と、おしゃべりなんかして離席してオルガンの椅子に座り、
ほったらかしにして遊びに行ったようにも見える。
ともかく、一度目二度目のときには、黙って僕が、片づけた。
だが同じくその都度、子ども達全体に注意喚起はしている。
そのため、KさんやRさんも、予鈴の段階で、僕に知らせに来てくれたのだ。
「わかった、今日はもうしっかり話さないとだね。」
掃除時間が終わり5時間目がはじまる。
「授業の前に。この前も話した牛乳が今日も同じ様に置いてありました。」
ざわざわしながら、誰だよと言う空気感が漂う。
36人もいると、この空気感でしれっと隠れやすい状況ができやすい。
「あのさ、飲めなかった、食べられなかったものを、残したらダメとは言っていないのだから、最低限、自分で片づけるくらいはやんなさいよ。と言う事で、前回は先生が片づけましたが、今回は、どうぞ心当たりのある人がちゃんと片付けてください。」
真ん中に牛乳をもってきて、ぐるッと見回す。
「いや、おれじゃねーし。」
「お前、給食当番がいないとき、席たって飲んでたやないか。」
「いや、その後、俺はちゃんと給食室に持って行った。俺給食室に行ったよね、Tくん。」
「うん、O君は来たね。自分でもって来とった。」
「じゃあ誰だよ、ほんとさ。」
と、自分たちで状況を発信し合いながら、
犯人捜しのような流れになってきた。
だが、こうなると、張本人は、出づらくなるので、引っ込んでしまう。
案の定、わいわいと「誰だよ。」と言う喧騒の中で、
誰も片づけに出てこない状況になった。
「あー、わかりました。ちょっと聞いて。先生の考えていることを。」
「ととろん、犯人分かったん?」
「先生、俺じゃないからね。」
「早く出ればいいのにね。」
こちらの呼びかけに反応するように矢継ぎ早に言葉が飛んでくる。
9月の半ばから、6の1の担任として子どもと向き合い始めて、
あっという間に3か月ほどたち、季節は冬になっていた。
毎日を積み重ねることで信頼関係は築いていくものだが、
この子たちは、出会った時からいつも、
初めから終わりまで、しっかりとぼくの話を聞いてくれる。
お説教でも、しょうもない面白話でも。
そして素直に自分たちの考えている事も投げかけてくれる。
本当に素敵な子ども達だ。
「まず、この牛乳をほったらかしにした犯人は、、、」
「犯人は?」
「この中にいる。」
「そんなんわかっとるわ!」