やる気スイッチは、子ども自身でつけるもの(13)
「船長、ありがとうございました。今日のオーディション。」
「いや、ととろも応援団、お疲れ様。応援団のことはととろに任せっきりだから、こっちの仕事は気にせず頑張って。」
と、船長は、自分でも放送の仕事や、演技指導で沢山の役を受け持っているにもかかわらず、
いつもこちらのことを労ってくれる。
一つの大きな行事などの時には、自分だけが大変なわけではない。
その想像力を働かせて、お互いに相手に対してお疲れ様の気持ちを言葉にできる。
こうしたちょっとした気配りや、言葉かけが、疲労が蓄積していく中でも、
頑張るぞ、というモチベーションの維持につながる。
「ところでととろよ、Kさんは大丈夫だったか?」
と、こちらからどう聞こうか迷っていたKさんの話題を、船長から、切り出してくれた。
「昼休み終わって、教室に戻ったら、号泣してました。本人的にはやらかしたと思っているみたいでしたね。ひとまず話を聞いて、落ち着いて帰っていきましたけど。」
と、僕は苦笑しながら伝える。
「そうか、いや、オーディション終わりに、全員に話をしている時にも、涙がこぼれるのを必死にこらえながら、じっとこちらの話に集中していたから、大丈夫だったかな?と気になっていたんよ。そんなに落ち込まんでもいいんだがな。」
と、船長はそう言うと、そのままKさんについて話を続ける。
「Kさんはダンスをミスしたことで頭が真っ白になってしまうところを、すぐに音楽に集中して、修正して踊り切ってな。見事だったよ。そして、あの子は、他のクラスの子の名前と顔を覚えるのが苦手な俺でも、この子はよう頑張っとると、この一週間で名前をしっかり覚えた子だからの。毎日の学年練習でも毎回壇上に上がってみんなのお手本になったり、友達にも明るく一生懸命に踊りを教えていたし。自信を持ってていいのにな。というわけで、ととろも心配しているだろうが、Kさんはセンターだ。」
話を聞き終えて、やっぱり船長は、そういう人だよ。と納得しながらも、
Kさんの落ち込み方に、内心ドキドキもしていたので、僕はほっと胸をなでおろす。
「ありがとうございます。本人はますますやる気になると思います。」
「Kさんのやる気スイッチは、周りの子達のやる気スイッチもどんどん上げていってくれるから、期待してるぞ。楽しみだな。」
そう言って二人でにんまりとしながら話をしていると、
「船長、ととろさん、運ぶの手伝って。」
と姉さんからの呼び出し声が聞こえてくる。
「お、きたか。」
子どもたちがソーランを踊るときに着用する、法被が届いた。
赤・黄・緑・青の4色の法被は、色鮮やかに光を反射させている。
この法被以上に、子ども達のソーランはキラキラして見えるのは間違いない。
「さぁ、ラスト一週間、我々もきばらなぁな。」
船長の言葉に、僕と姉さんはにっこりと頷いたのだった。