初めて田植えが、大イベントになっちゃった(1)
「はい、わかりました、では現地に来られてください。」
電話を切った教頭先生は、にこにこした子で5年生に話を振ってきた。
「今年の田植え、取材3社目が決まったよ。」
おおおお、取材くるんだ。と、その時初めて耳にした僕は、内心驚きながらも、
「子どもたちも喜びそうですね。」
と、船長と姉さんにつぶやいた。
「あの子達よ、何かしでかしたらどうするのかとか、考えてほしいものよ、全く教頭先生は。」
と、姉さんは、ややお怒り気味だ。
船長はというと、まぁまぁといった感じで姉さんをなだめつつ、
「まぁ、取材に来てもらって大丈夫ですと、判断できるほどに、子ども達も落ち着いているって見ているんだろう。いいことだと思おう。」
と、前向きに、その話を聞いていた。
五年生の社会科では、日本の産業を中心に学ぶ。
その中でもまず出てくるのが、米作りに携わる農家の方の仕事についてだ。
それに関連して、5年生は一バケツにひと稲を育てたりする、
という活動をしたりするのを目にしていたことはあったのだが、
この学校では、元PTA会長さんで学校のOBでもある地域の方が、
田んぼを半反貸してくださって、そこで田植えと稲刈りを体験できることになっていた。
地元の方の協力のすごさに、ただただ感謝しかないなと思いながらも、
長年取り組んでいる活動を、今年はうちの子たちが行うと言う事で、
学校行事のことを知っている姉さんに段取りを確認しながら、
運動会の裏では、田植えの日取りを決めたり、
事前指導を行ったりという事が、同時並行で行われていた。
運動会が終わって六月になり、田植えの日にちがだんだん近づいてきたあるとき、
教頭先生が、「もしかしたらテレビの取材が来るかもしれないよ。」
と、そんな話をしに来たのだった。
聞けば教頭先生、そういった、メディアプレスのノウハウをご存じだとかで、
今回の大掛かりな田植えのイベントも、取材してもらったらよいのではないかと、
地元メディアに告知をされていたのだとか。
今まで、夕方の地元のニュースなどで、
小学校の出来事が取り上げられることは何度も見たことがあったが、
まさか自分のところにも来るかもしれないって話もあるんだ。
そう思って、その時には「へぇー。」といった感じで聞いていたのだが、
タイミングが良かったのか、火がたつにつれて取材に来る会社は増えていき、
いよいよ明後日になる頃には、テレビ局が5社と新聞社が2社くると言う事になっていったのだった。
人生初の田植えってだけでも、子ども達は楽しいだろうに。
これは思いもよらぬ、ワクワクしたイベントになるな、子ども達には。
僕はそう思いながら、自分も初めてのことなので、ワクワクしだしていた。
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