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別れの季節とケサランパサラン(4)
「今でます。」
女の子がそう言って、玄関を開けると。
目の前には、死んだはずの男の子が立っていたのです。
「・・・・ただいま。遅くなったね。」
「え・・・・え?・・・・うそ、うそでしょ?うそじゃないの?」
涙をぬぐったばかりの頬に止めどなく涙が溢れだしました。
女の子はそれが嘘じゃないと確かめるかのように、
男の子の腕や体を触ります。
「ちゃんと足もついてるよ。君も生きてくれていてよかった。」
にっこりと笑う男の声。女の子は本当に生きていたのだと確信すると、
男の子に縋り付き、泣きながら言葉をかけます。
「だって、戦死した手紙が来て、もう駄目だったんだって思って。私本当に辛かったの。生きていてくれて、こんなにうれしいことは無いのだけど、なんで?どうして今まで?」
聞きたいことは次から次へと出てきますが、うまくまとまりません。
「ひとまず、中に入って落ち着けてもいいかい?」
男の子はそう言うと、女の子に部屋に案内してもらうのでした。
そしてようやく女の子の涙がおさまってから、男の子は話してくれました。
・・・・戦場は地獄だった。敵も味方も隠れる場所などもない正面衝突で。
ただ、相手はもう進軍の勢いがあり、何より物資の補給が全然尽きない。
如何に気持ちだけ高かろうとも、
銃弾の雨に仲間はあっという間に蹴散らされて、
戦場が遺体で埋め尽くされるのには、そう時間はかからなかった。
何重にも折り重なる兵士の平原は、
もはやだれが生きているのか死んでいるのかなど分からず。
全滅した舞台から本国へ、正確に知らせなど送れるはずもなく、
また敵軍は進軍のために、その戦場をあっという間に去り、
北上していった。
残った死体の山を、一人一人埋葬してくれたのは、
島にもともと住んでいた人たちで。
一人一人丁寧に埋葬し、弔ってくれた。そして、その亡くなった兵の中で、
折り重なる体の下から出てきて、
かろうじて命があったものが、数名見つかったのだった。
その数名の一人が、男の子だったのだ。
それでも命の火はもう消えようとしているので、
島の人たちは、島医者に急いで治療をしてもらい、
僅かな薬品と手術道具しかない島だったが、何とか治療を施し、
回復を支えてくれたのだった。というのも、
島民たちは日本兵が、もともと自分たちの島を占領していた、
別の国の兵士を追い出し、その後、安心して過ごせるように、
色々と工事をしてくれたり、農作業を一緒にしてくれたりしていたことを、
良く思ってくれていたのだという。
島によっては日本兵がひどいことした場所もあった戦時下の中で、
この島にいた日本兵は、そういった類ではなかったらしい。
そうして生き残った男の子は、何とか命をつないだのだった。
だが、十分な治療設備や薬などはなかったため、
島の病院で寝たきりのような状態で、一年ほど過ごしたのだった。
その間に日本が戦争に負けた事などを知りながら、
なかなか回復しない体調に、歯がゆい思いをして過ごしていたのだけど、
その年の秋ごろから、突然うそのように、
腹やももに受けた銃弾の傷跡がみるみる回復し始めたのだ。