桜の雨で卒業を (2)
「今日は卒業式で言うセリフ決めをするよ。そして今日から、音読の宿題は卒業式のセリフの練習です。」
そういいながらセリフのプリントを配っていく。
「1組、2組、3組、の順番でセリフはリレーしていくから、クラス全員、男子全員、女子全員、学年全員以外の所を順番にまずは読み合わせよう。」
いよいよ卒業まで4週間、6の1のこども達の、
卒業に向けての空気感も、ぐんと上がってきたのが伝わってくる。
小学校の卒業式は、街によって若干の違いはあるものの、
中学校以降の卒業式とは違う特徴がある。
まず一番の特徴は、「全員卒業式で直接授与される」ことだ。
一人一人が名前を呼ばれて、返事をして壇上に上がり、
校長先生から卒業証書を受け取る。
まさに儀式的行事の一番だなと思うのだが、呼ばれた後、
どのような動線で移動し、どこで止まり、どのように証書を受け取るか、
その練習も含めて、3月に入ると、卒業式関連の時間が組まれる。
これが、子どもによっては苦痛を耐える時間になる子もいたり、
また、緊張感のバロメーターもどこが満点かもわからないので、
指導する方もされる方もなかなかに疲れるのだが、
そんな折、僕が子ども達に示した、卒業式の意気込みは、
「卒業式の主役は、実は君たちではない。と先生は考えています。」
というものだった。
「運動会や、学習発表会、修学旅行に、児童会のフェスタ。沢山の学校行事の主役は、間違いなく、みんなが主役なのだけれど、」
真剣にこちらを見てくれる6の1の子たち、
「卒業式に関しては、本当の主役は、一番後ろに座っておられるおうちの方だと思っているのよ。」
頷きながら聞いてくれている。
「おうちの人、特に親御さんは、あなたたちが生まれてからずっと、あなたが育つのを見守り、支え続けてくれている。そして、ようやく12年。ランドセル時代の終わりまで、自分の子を育てられたなと言う思いで、あなたたちの『卒業』を感じられると思うのよね。」
「そんな本当の主役に親御さんやおうちの方に、卒業式であなたが見せられるのは、証書をもらう態度と、このセリフ、そして1月からずっと練習してきた校歌しかないんだ。」
「だからこそ、他の誰でもない、自分のことを見届けに来てくれたあなたのおうちの人に、『本当に無事のここまで育ってくれて良かった。』と思ってもらえるように、自分がどんな態度で、動きやセリフで、伝えられるかが大事になってくるんだよ。」
「なので、卒業式に向けての練習が、時にはくどくどして、無駄に長い、何が悪いのかよくわからん、辛い、と感じることがあっても、それを自分のことを見てくれるおうちの人に向っての頑張りだと思って乗り切ってほしい。みんななら、きっと、お家の人を感動させられる一人一人になれるし、結果としてみんなすごく立派だったね、と言われるようになるだろうから。」
と、長々と卒業式の練習に向けての心意気について話してしまう。
だが、子ども達は、静かに聞き入ってくれていた。
「なので先生は、みんながおうちの人に安心と感動を届けられると思って、頑張った演者の主役のみんなには、最後のホームルームでプレゼントを上げたいと思っているんだ。」
神妙に聞いていた6の1の子たちの顔が、ぱっと笑顔に切り替わる。
(ととろん、また何か企んできたのかな?何言い出すかな?)
この12歳よりどこか子どもな担任が、また何かやろうとしているなと、
付き合いも8か月になった6の1の子たちは、
瞬時に勘付いた雰囲気になっていた。
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