桜の雨で卒業を(3)
「そのプレゼントとは、これです。」
小さく切ったピンクのハートを指でつまんで前に出す。
「?なん、それ?」
「ハート?」
「いえ、これは桜の花びらです。」
「作ったやつやろ。」
「そうです。」
「それがプレゼント?」
「そうです。」
子ども達は、なんだかまだつかめていない表情で、
ちょっと拍子抜けしたような雰囲気。僕は説明を続けた。
「これをね、沢山作ります。そして、卒業式後の最後のホームルームで、おうちの人たちにもみてもらっている中で、みんなで歌ってこれを教室中に放り投げて、桜吹雪にしてみようかと思っています。」
「なるほど、いい感じかもしれん。」
「でも、そしたらすごい沢山いるんじゃない?間に合うん?」
「そこは大丈夫。実はこの桜、簡単に大量生産できます。」
と、みんなの前に出したのは、最初に出した花弁と同じ色の上質紙。
それを、花弁に切ったものと、切り抜いたものを子ども達に見せる。
「蛇腹折りにしてね、こんな風に切っていくと、一枚で100枚は切り抜けます。で、一人100枚片ポケットに入れて、両ポケットで200枚。こんな感じで、ジップの袋に入れておいて、バラまくときには、ジップから両手に持ち替えて天井にめがけて、こう、、ブワッと。」
と言いながら天井めがけてみんなに見せていた花弁を舞わすと、
くるくる回りながら落ちてくる花弁や、
ふわふわと波乗りのようになって漂いながら落ちるもの、
その不規則な感じが、また実に桜の花びらの感じで、
「きれい、これいいね。」
「いいね、これ面白そう。」
そんなつぶやきも聞こえてきた。
「これを一人200枚、36人で7200枚、両ポケットに200枚ずつだったら一人400枚、みんなで14400枚の花弁で、6の1を一瞬で桜吹雪、桜満開にすることができます。」
みんな、頭の中でシュミレーションしている様子だ。
「そしてこの花弁、自分の分を作るのは200枚でも5分かかりません。簡単に準備できちゃう。どう?やってみない?」
「いいかもれん。うん、面白そう。」
「でね、どのタイミングで撒くかがタイミングを取りづらいと思うので。」
そういうと今度はリモコンを押してもってきたDVDの再生準備をする。
「みんなとこの8か月過ごしてきて、みんなにぴったりかなと思う、この曲を歌いながら、サビでまき、大サビでまき、歌が終わった時に一番沢山撒いて、最後も6の1のあなたたちにぴったりの明るくて楽しい感じで、この教室を後にしたらどうかなと思っています。」
子ども達に流した曲は、初音ミクの【桜ノ雨】ではなく、
Goosehouseの「オトノナルホウヘ→」という曲だ。
荒川弘さん原作の『銀の匙』というマンガがアニメ化され、
そのエンディングになったこの曲は、ポップで明るい曲だけど、
それぞれの旅立ちを明るく見送り、いつかまた会おうねというような、
桜ノ雨の詩の内容にも似ている、この時、僕が大好きな曲だった。
6の1の中には、アニメ好きの子達も何人もいたので、
「あ、この曲、好き。」
「いいよね、オトノナルホウヘ。」
という声も聞こえてきたのだが、
ここで僕が思っていなかった反応が返ってきた。
「え?何、この曲?幼稚くない?」
「この歌知らないから、別の曲の方がいい。」
「先生、この曲本当に僕らにぴったりですか?」
「歌は、もう歌わんでもいいよ。」
曲がかけてまだ1サビまで行っていない所でのその反応に、
「まあ聞いてみてよ。」
と一度は言ったものの、『歌わなくてよくない?』
の雰囲気が広がっていく中で、とうとう僕の方が先に堪えられなくなった。
「じゃあいい!もうこの計画はなしで!!!」
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