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応援団は燃えて萌えて全力で(3)
「じゃあ、オーディション会場に行こう。」
そういうと僕は、すでに役割が決まった子ども達も含めて、
全員で、音楽室へ向かった。
6の4の教室がある並びの一番角にある特別教室で、すぐに行けて、
机もなく、普通の教室より広く声を出すのにはうってつけの教室だ。
「ではオーディションをします。審査するのは応援団以外のみんなです。」
そう言って僕はオーディションの手順を説明した。
「応援団立候補のメンバーは音楽室の一番後ろの壁について前に向って、自分の意気込みと、『〇組の勝利を願って!!!フレー!フレー!〇組!フレ!フレ!〇組!フレ!フレ!〇組!』の掛け声を目いっぱいの気持ちを込めた声で叫んでもらいます。」
頷く応援団立候補組の子どもたち。
「で、審査員のみんなは、音楽室の一番前の壁に寄って、壁の方を向いて体操座りで顔は膝に付けて座ってください。背中から聞こえてくる声を聞いて、この人が良かったという人に、3回(定員は3人なので)手を挙げてください。その結果で、手が上がった人が多い順に3人が、6の4からの応援団員とします。」
決めるみんなも、真剣な顔で話を聞いてくれている。
6の4の子達は、いつも一つ一つの活動に、全振りで向いてくれる。
こういうところが本当に素敵なところだ。
「立候補者は叫ぶだろうから、声で誰かは判断しにくくなると思うけど、友達だからとかそういう理由ではなくて、このオーディションの審査員として、今年の応援団、この人に任せたいという人に、票を入れてください。もし、3位が同数の場合は、同数の人での決戦オーディションとします。」
「よし、じゃあ、決めるほうも真剣勝負だね。」
「自分たちで決めると思わんかったからドキドキしてきた。」
審査員になることになった子ども達の緊張感も高まってきたようだ。
だが、もっと緊張しているのは、応援団立候補者の子ども達。
「よし!・・・やるぞ!やってやるぞ!」
と、自分に言い聞かせるように何度もつぶやく子や、
「どうしよう、どうしよう。」
と、緊張でおろおろとしてしまう子もいる。そんな中、
みんなに言う意気込みを、繰り返し何度もつぶやいている子がいた。
Hくんだ。6の4のプロローグで紹介したHくん。性格的に几帳面な彼は、
演技係か用具係に行くかと思っていたのだが、
彼は、第一希望に応援団として立候補して来たのだった。
僕は内心驚いた。
役割を果たす基準において、一番曖昧である応援団という活動は、
Hくんの性格では一番ストレスの大きくなる役割になるに違いない。
だがHくんは、この6の4になってからの、1か月ちょっとの生活の中で、
『やるときはやる・やることはやる・やれる限りやる』ことの意味を、
Hくん自身で、しっかりと噛み砕いて自分にとって価値のあるものと考えて
その限界に自分から挑んでいるんだ。そんなふうに感じた。
Hくんを含め、みんな合格にできればいいのに。
少しだけ歯がゆい思いを感じながら、オーディションは始まった。