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桜の雨で卒業を (1)

北部九州の桜の満開が、卒業式の頃に合うことはない。

そんな日常を、少なくとも約二十年、毎年見てきていたけれど、

ある曲を好きになって、

『卒業生を受け持つことになったら、この曲の様に送り出したい。』

そんな思いが心のどこかにいつもあった。

ボーカロイドの初音ミクによって歌われたその曲は、【桜ノ雨】

6の1の子たちを受け持つよりもさらに3,4年前から大好きな、

初期ボカロのレジェンド曲の一曲ともいえるこの歌。


『教室の窓から 桜ノ雨 ふわり手のひら 心に寄せた

   みんな集めて出来た花束を 空に放とう 忘れないで

     今はまだ小さな花弁だとしても 僕らは一人じゃない

        いつかまた大きな花弁を咲かせ 僕らはここで逢おう 』


この曲のように、花弁いっぱい舞う中で、

あの子たちを見送れたらいいのに。見送ってあげたい。

僕の中の6の1の子達への思いは一日一日ごとに、

深く、強いものになっていた。

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どんな心持ちで先生として子どもと向き合うか、人それぞれだと思う。

以前もどこかで綴っていた気がするが、

僕は、決して子ども達には言わないけれど、

「子ども達に『期限付きの片思い』をさせてもらっています。」

と言う心持ちだ。そして、親御さんやご家族には、

「お家の人の愛情に少しでも近づけるように、受け持たせてもらっている間、子育ての支えに感じてもらえるように、精いっぱいお預かりさせてもらいます。」

と、自分の子ども達を預からせてもらている自分の思いを話している。

なので、受け持つことが決まって、出会ったその日から、

実は完全にこちらの完敗なのだという認識で、向き合っている。

子ども達に、自分のできる最大限の愛情と、

大人になっても自分の足で歩いていける、強さと賢さとしなやかさを、

限られた時間の中で、教えられる限り、伸ばせる限り、伝えてあげたい。

そんな気持ちで、受け持たせてもらう子どもたちを、

厳しく叱るときもあるし、無茶苦茶に褒めるときもあって、

泣いて、笑って、喧嘩して、キュンとして、じーんとして、

その間、毎日のように目にとまってしまうのは、

子ども達のありのままの素敵さ、素晴らしさで。

時を共にすればするほど、子どもへの愛情は増すばかり。

全力で向き合いながらも、初日からこちらの完敗で一年過ぎているのだ。

それを絶対に子ども達には勘付かれないようにしながらの毎日を、

子ども達には、学校を含めた日常が楽しいと思ってもらえるように、

関わらさせてもらえる幸せが、この仕事の醍醐味だと思っている。

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そんな気持ちで先生と言う仕事に打ち込んでいるが、

6の1の子達への思いは、例年出会ってきた子達への思いよりも、

ずっと、強いものになっているなと、はっきりと感じていた。

それはこの子達との出会い方が、

普通ではなかったからということも関係しているだろうし、

そのことから6の1子どもたちの良さや素敵さを、

いつもの子ども達の良さを好きになる以上に

好きになってしまっていたからだろうと思う。

『期限付きの片思い』は、4か月も期限が短く、

出会いが普通ではなかったことでより強い思いになり、それが、

「桜満開の卒業を、6の1の子たちにプレゼントしたい。」

という具体的な形になったのだった。

あくまで『片思い』のこのプロジェクトが、

最後の最後まで大嵐を、僕にも子ども達にも巻き起こしていくなどとは、

その時の僕には想像だにできなかったのだった。







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