お泊りミッションを成功させろ(3)
「おはよー、眠い・・・。」
大きなスポーツバックを肩に掛けて、かいくんがやってきた。
眠そうな目をシパシパさせながらも、
いつもより30分以上早い集合時刻にしっかり間に合った。
「大丈夫だよ、かいくん。バスに乗ったら眠れるよ。」
まなさんが優しく声をかけている。
修学旅行当日の朝がやってきた。
県外まで移動するので、出発時間が8時より前で、
その前には出発式もあるため、集合時間は7時30分と、
通常よりも早いので、校区外に住んでいる子もいる仲良しさんクラス、
大丈夫だろうかと思っていたが、心配するほどのこともなく、
みんなしっかりと睡眠もとって、集合時間の10分前の段階で、
大きな荷物を横に置き、列を作って座っている。
だが、一方で、昨日から漠然と頭に残っていた不安が、まだ消えない。
そうくんが来ていないのだ。
昨年の宿泊学習でも、夕方にお母さんに迎えに来てもらい、
宿泊ができなかったメンバーの中に、そうくんも含まれているのだが、
ニ、三日前から、気負いのような、自分にプレッシャーをかけるような、
そんな文言が端々に聞こえてきていた。それだけ、子ども達にとっての、
宿泊を伴う行事は、大きなストレスと向き合うものなのだと思いながらも、
6年生の今回は、それを乗り越える最大にして最後のチャンスだから、
確実に子ども達にここで自信が持てたと感じて、
小学校時代で一番の、楽しい思い出の経験を手に入れてほしい。
その願いは、僕にとっても切実なものになっていた。
残念ながら4月から出席0のこうくんは、修学旅行も行くことが無理だと、
早々と話がまとまってしまったので、それなら7人はなんとしても!
そんな気持ちで臨んでいたからこそ、頭によぎっていた不安が、
何だかどんどん悪い方へ当たりそうな予感になって行ったとき、
あゆ先生が集合場所の体育館にやってきた。
「ととろん先生、そうくんのところから電話がありました。」
「・・・・・・欠席か・・・・・・・理由はなんて?」
「熱が出て、体調がすぐれないからだそうです。」
「うん、、、、ありがとう、あゆ先生。はぁ、やっぱりかぁ。」
「ととろん先生もそう思ってらっしゃったんですね。私もなんか昨日一昨日のそうくんの感じから、これもしかしたら、いけないんじゃないかと思ってたんです。」
「だよねぇ。なんかもう、ほんと残念よ。」
そうくんの気負い感は、僕だけでなく、あゆ先生も見て取っていたようで、
友達同士の会話の中でも、独り言で話している時も、
「やってやるぞ。」
「このクラスのみんなと一緒だから、間違いない。」
など、どうもワクワク楽しみにしているというよりは、
なんか必死の闘いに出向くような感じの発言だったのだ。
その辺りも、お母さんにもお伝えして、
家でリラックスして安心して大丈夫だという話をしてあげてくださいと、
もう一押ししていたつもりだったのだが。
結局そうくんはその電話で欠席となり、仲良しさんクラスの修学旅行は、
6人と僕での出発となったのだった。