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スパコン「富岳」と“お風呂”の意外な関係——TOTO独自のシミュレーション技術【第2話】

今ではTOTOの水まわり商品の開発に欠かせない存在となっている流体シミュレーション技術。

第1話では、大便器の流体シミュレーションが確立するまでをご紹介しました。
 
第2話では、お風呂などトイレ以外の流体シミュレーションの最新状況と、衛生陶器の製造シミュレーションについて、TOTOのシミュレーション技術を牽引するスペシャリストの3人に話を聞きました。

聞き手:TOTO株式会社 広報部 本社広報グループ 桑原由典



大便器とは別世界の流れ

――第2話で伺うシャワーや浴室の床の水流は、大便器と比べてどのような違いがあるのでしょうか?


佐々木 一真(ささき・かずま)
CAE技術グループ 主任技師

佐々木: 2つの“スケール”が、大きく違います。

ひとつは、水の流れ自体のスケールが小さくなることです。

シャワーのノズルからでてくる水流は太さが数mm以下、浴室の床に残る水膜では厚さが1mm以下です。大便器であつかう水流と比べると、スケールが10〜100分の1程度となります。

もうひとつは、水流が及ぶ空間のスケールが大きくなることです。

シャワーから出た水が体に当たるまで、場合によっては1m近く飛ぶことがあります。また、浴室の床に残った水が排水口に至るまで、1m程度の距離がある場合があります。

――スケールの違いは、流体シミュレーションにどう影響するんですか?

佐々木: 水流のスケールは小さくなり、反対に水流が及ぶ空間のスケールは大きくなるというのは、シミュレーションする立場としては、「非常にバランスが悪い」という感覚です。

単純に言えば、どちらも計算量を桁違いに増やす方向に影響します。どのような方法で、いかに効率よく計算すればいいのか……。大便器とは全く違う世界に放り込まれた感じです。

――大便器よりも難易度が上がった、ということですか?

佐々木: そうですね。

もちろん、池端さんが構築した「大便器の流体シミュレーション」という大きな成果があったからこそ、より難易度が高い次のシミュレーション——シャワーや浴室床など——に挑戦できているのは、言うまでもありません。

「表面張力」が無視できない流れ

佐々木: 水流のスケールが小さくなると無視できなくなる力があります。水の「表面張力」です。

――なみなみ注いだコップのフチから水が盛り上がる、あれですね。

佐々木: そうです。

大便器のように水がドバっと流れる場合は表面張力の影響は小さいんですが、薄い水膜のように水流のスケールが小さくなればなるほど、表面張力が水の動きに影響してきます。

池端 昭夫(いけばた・あきお)
技術本部 上席技師

池端: 加えて表面張力は、便器や浴室床などの表面の「濡れ性」とも密接な関係があります。

――「濡れ性」とは、何でしょう?

池端: 物質の表面と水との馴染み度合いです。

撥水はっすい」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、表面が水をはじく撥水は「濡れが悪い」、水となじむ「親水しんすい」の場合は「濡れが良い」ということになります。 

濡れ性自体は便器や床など物質表面の性質ですが、濡れ性に応じて水がペタッと広がったり、玉のように盛り上がったりする、水自体の形を計算するのに表面張力が大きく影響します。

流体解析ソフトはバージョン5.1まで私がアップデートしていて、5.0から5.1の更新で、「濡れ性」も考慮したシミュレーションができるようになりました。

佐々木: 5.0ではうまく再現できなかった小便器ボウル面の水流などが5.1で再現できるようになりましたが、再現しきれない水流が残っていました。

例えば、親水性の特殊処理を施した浴室床を計算してみると、撥水のような結果になってしまったり……。

いろいろと検討してみると、シミュレーションの精度を出すためには、いよいよ「表面張力の計算精度」に踏み込まなければいけない、という結論になりました。

――表面張力の計算精度……。とても難しそうですね。

池端: 2種類の流体が混ざる「混相流」と同じように、表面張力を算出する万能な手法はありません。数値流体解析(CFD)の学会でも、表面張力の計算をどのようにしているのかは、いつも注目されるテーマです。

佐々木: バージョン5以降、メッシュが整っていない「非構造格子」を使っていますが、表面張力の計算にとっては、メッシュがきれいに並んでいる方がやりやすいんです。

TOTOのノウハウになるので詳細はお伝えできないのですが、非構造格子でも精度よく表面張力を算出できる独自手法を考案することができました。

――シミュレーション結果がどのように変わったんですか?

佐々木: わかりやすい例は、TOTO独自のシャワー吐水のひとつ「ウォームピラー」です。

1本の円柱のように静かに流れ落ちる水流が特長ですが、従来の精度だと、表面に実際にはない「乱れ」が生じてしまいました。

表面張力の精度が上がったことで、実際のように乱れのない水流を再現することができました。


水の流れを“粒”で見る

――もう一つのスケールの違い、「水流が及ぶ空間のスケールが広がる」ことは、シミュレーションにどういう影響があるのでしょうか?

佐々木: 一番大きな変更として、シャワーから出た後の水の動きの計算に、全く違う手法を使っています。

これまでは空間をマス目に切って計算していましたが、空中を飛散するシャワーの水流には、「粒子法」を使っています。

――粒子法……。「離散化」にはいろいろなテクニックがあるんですね。

佐々木: シャワーには数十個ものノズルがあって、空間に放たれた数十本もの水流をマス目で再現しようとすると、とても効率が悪いんです。

「粒子法」では、水流そのものを「粒の集合体」として計算します。

――なるほど。糸のように細い水流を再現するために、無数の網の目を空間に張り巡らせるのは、確かに効率が悪そうですね。逆に、トイレの水流を「粒子法」で解くことはできないんですか?

佐々木: トイレのように空気を巻き込む水流=混相流の計算に、粒子法は向いていません。

繰り返しになりますが、流体シミュレーションに万能な手法はありません。手法ごとに得意・不得意があるので、見たい水流に合った手法を適材適所に使う必要があります。

スパコン「富岳」の性能を引き出す

――2020年からスパコン「富岳」も利用しています。「TSUBAME」の利用(2011~2013年)に続いて、TOTOが「富岳」を利用した理由を教えてください。

佐々木: 大便器以上に、計算量が膨大になるからです。

例えば空間をマス目に切るメッシュ数ですが、大便器であれば数百万メッシュで済みますが、シャワーは1億〜数億のメッシュが必要となります。

シャワーや浴室床の水の流れを精度よく再現しようとすると、現状ではスパコン「富岳」のような計算パワーが必要になります。

――「TSUBAME」を使ったノウハウが、「富岳」にも活かされているのでしょうか?

池端: もちろん活かされていますが、「富岳」に合わせたプログラムのチューニングも必要でした。

――スパコンが変わると、プログラムも変えなければいけないんですね。

池端: 「TSUBAME」と「富岳」は、タイプの違うスパコンなんですよ。

計算を実施するロジック半導体が、「TSUBAME」はGPU[※1]、「富岳」はCPU[※1]です。

※1:GPU(Graphics Processing Unit、画像処理装置)、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)ともに、コンピュータの頭脳とも言える構成要素。GPUは高速な画像処理を行うこと、CPUは幅広く汎用的な処理を行うことが目的とされる。

TOTOの流体解析ソフトは、GPUのスパコンに最適化してプログラムしていたので、「富岳」で動かしてみると、思ったようなスピードがでませんでした。

2020年度、2021年度の2年間で、「富岳」のCPUであるA64FX[※2]に適したプログラミング手法を理解し、A64FXの性能を活用できるプログラムに改良しました。

※2:富士通がARMと共同で開発したスーパーコンピュータ向けのCPU

――どのくらいスピードアップしたんですか?

池端: 約2.5倍です。

スパコン特有の並列計算[※3]でも、240個のCPUをつかって約200倍の計算性能を引き出すことができました。

※3:複数の計算装置が協調して1つの処理を行うこと。流体シミュレーションに必要な大規模なデータ処理を高速に行うことができるが、並列計算を適切に実行するためのプログラムを組むことは容易ではない

令和3(2021)年度 富岳産業利用による成果

佐々木: 池端さんが「富岳」向けにチューニングしたプログラムは、すさまじく速いです。私も学生時代からスパコンを扱っていましたが、まだまだ勉強不足です。

――「コンピュータ・オタク」な池端さんの、本領発揮ですね。

池端: そこが私の生きる道ですからね(笑)。

格子→粒子→格子で、シャワーを再現

――シャワーのシミュレーションは、どこまで実現しているんですか?

佐々木: 商品開発に活用できるレベルのシミュレーションができるようになってきました。

シャワーの水流を
 ①シャワーヘッド内部の流れ
 ②ノズルから吐出された水滴の流れ
 ③水滴が体に着水するときの流れ

の3段階に分け、①と③は非構造格子、②は粒子法で計算しています。

――節水と浴び心地を両立させるTOTO独自の「ウエーブ吐水」も、シミュレーションで再現できたんですか?

佐々木: 再現性に若干の課題は残っていますが、浴び心地の判断に使えるレベルでの再現ができています。

ウエーブ吐水のノズル6つと、通常のスプレーシャワーのノズル数十個で構成されているオーバーヘッドシャワーのシミュレーションをご覧ください。

――薄い円盤状のシャワーヘッドの中を、こうやって水が流れているんですね!   
       

佐々木: 流れを可視化できることが、シミュレーションの醍醐味の一つですね。

また、シャワーの水滴が体に当たる範囲や水滴の大きさ・スピードなども、シミュレーションで定量評価できるようになりました。

表面張力を壊す“水はけ”も再現

――TOTOのシステムバスルームの特長である、「ほっカラリ床」のシミュレーションは、どこまで進んだのでしょう?

佐々木: シャワーと同じく、かなりリアルに再現できるようになりました。床に刻まれた溝に水が引き込まれて、素早く水がはけていく様子をご覧ください。

実験とシミュレーションの比較がこちらです。

全体的な排水スピードが実際と少し違いますが、実験の「a」とシミュレーションの「b」を見比べてみてください。水はけのパターンを、かなり再現できていると思いませんか?

――確かに! ジワジワと水がはけていく様子が、シミュレーションで再現できたんですね。

佐々木: 「ほっカラリ床」は敢えて「溝」を刻むことで水の表面張力を壊し、水はけを良くしています。

水の動きを表面張力が大きく支配している現象なので、先程お話した「表面張力の精度向上」が、シミュレーション精度を飛躍的に高めてくれました。

より広い範囲でシミュレーションした結果を、動画でご覧ください。メッシュ数は0.36億メッシュですが、20秒間の様子を再現するための計算ステップ数は130万を超えています。

――ここまで大規模なシミュレーションとなると、計算時間はどれくらいになるんですか?

佐々木: 「富岳」を使って、約7日かかりました。

これは試験的に広範囲のシミュレーションをやってみた結果です。実際の商品開発ではもっと狭い範囲で十分なので、社内の計算環境をつかって、実用的な時間内で計算できます。

1/1000mmオーダーのミストシャワーも再現

――直近では、2023年10月から2024年9月までの1年間、「富岳」を産業利用していました。その成果は?

佐々木: 2024年8月に発売したシャワー新商品の新しい吐水、「ミストシャワー」のシミュレーションをしました。

――ウルトラファインバブルを含むミスト状の吐水ですね。

佐々木: 水玉の大きさが、従来のシャワーはmm単位ですが、ミストシャワーはμm(マイクロメートル[※4])単位まで小さくなります。

※4:1mmの1000分の1が1μm。シャワーのシミュレーションでは、従来シャワーの直径を1.5mm(1500μm)、ミストシャワーは300μmとして計算している

ここまで小さくなると、今度は「空気抵抗」が無視できなくなります。
 
――表面張力の次は、空気抵抗……。リアリティ追求のために考慮すべき要素が、新たに加わったんですね。

佐々木: ノズルから出たあとの水玉に、空気抵抗の影響を加味する数式を加えて計算することで、このようにミストシャワーの吐水を再現することができました。

ミスト自体が生成される過程も、シミュレーション結果に基づくものです。

旋回流がノズルから放出されると、ホロコーン(円錐)状の水膜が生成されます。水膜が先端から分裂することで、ミストが発生します。

この一連を再現するために、3.7億メッシュを使って計算した結果がこちらです。

さらに、ミストシャワーの「汚れを落とす効果」についても、シミュレーションで検証しました。

「汚れ」をモデル化して、空気・水・汚れの三相シミュレーションを一般的なシャワーとミストシャワーで実施しました。皮膚の溝の形状と汚れを表現するために、格子のサイズは最少2μm、平均約3μmの非構造格子で、メッシュ数は3.2億メッシュとなっています。

一般的なシャワーに比べて、ミストシャワーの水滴は1回の衝突で落とす汚れは少ないですが、水滴の衝突回数が多くなります。0.026秒時点で残った汚れを比較すると、一般的なシャワーが83%に対してミストシャワーでは57%となり、汚れ落ちのスピードに差があることがわかりました。

シミュレーション結果をもとに汚れの除去率が95%になるまでの時間を概算すると、一般的なシャワーが1.09秒に対してミストシャワーは0.15秒と、約7.3倍速いという結果が得られました。

――実験での評価が極めて困難なミストシャワーですから、今後の商品開発にシミュレーション技術が活用できそうですね。

佐々木: 将来的には、ミストシャワーの“浴び心地”の評価に使えるよう、さらにブラッシュアップしていきます。

<参考>
「富岳」利用に関する令和5(2023)年度利用報告書(産業課題 B期)
課題番号:hp230239
課題名:水まわり住宅設備機器のためのミスト状微小水滴飛散シミュレーション

衛生陶器の製造シミュレーションの歩み

――もう一つの大きな柱、重藤さんが30年以上前から取り組んできた「衛生陶器の製造シミュレーション」について、その後の歩みを教えて下さい。

重藤 博司(しげふじ・ひろし)
技術統括部 上席技師

重藤: 途中で中断していた時期がありましたが、2012年から再開しました。

衛生陶器の主要な製造工程――成形工程・乾燥工程・焼成工程――全てのシミュレーション技術開発をめざしました。

――独自のソフト開発にも取り組まれたんですか?

重藤: 市販ソフトでどこまでできるかを追求するのが自分の役割と思い、市販ソフトをベースに技術開発を試みました。

――第1話で、焼成工程については1990年代に目処がついたと伺いましたが、乾燥工程・成形工程は2012年から着手したんですか?

重藤: そうです。

乾燥とは、成形直後に含まれる約20%の水分を0%にする工程です。

途中段階の乾燥度合いをシミュレーションで可視化したところ、乾燥工程の技術者の方々が集まってきて、「こういうのが見たかった!」と声をあげてくれました。

――手応えを感じられた瞬間ですね。再開時は孤軍奮闘に近い状況だったそうですが、何が支えになったのでしょうか?

重藤: 「シミュレーション技術が絶対に役に立つ」という信念です。

衛生陶器の製造現場には、経験に裏打ちされた優れた技術者の方々がいます。技術者の“暗黙知”の継承はもちろん重要ですが、シミュレーション技術で見える化することで、“形式知”にできる要素が沢山あると思います。

――暗黙知に形式知が加われば、1917年のTOTO創立時から続く衛生陶器の製造が、さらに強固なものになりますね。シミュレーション技術の開発は、どのように進んだのでしょうか?

重藤: 主要な3️つの工程のうち、乾燥工程と焼成工程については、2020年までに実用レベルのシミュレーション技術開発ができました。

最後に残ったのは、成形工程でした。

「非ニュートン流体」の泥漿でいしょうにもチャレンジ

――成形工程のシミュレーションとは、どういうものなんでしょうか?

重藤: 成形とは、泥漿でいしょうを型に流し込み、泥漿の水分を型に吸わせることで、型の内側に厚さ約1cmほどの成形体を形成する工程です。

流し込む過程で、二方向から泥漿が流れ込んできて衝突する部分で不具合が生じ、「切れ」と呼ばれる亀裂が入ることがあります。

型の中での泥漿の流れをシミュレーションできれば衝突位置を予測することができ、「切れ」を抑える手立てを検討することができます。

――池端さん・佐々木さんが手掛けている流体解析ソフトは使えないんですか?

重藤: そのままでは使えません。

泥漿は、「非ニュートン流体」といって、水に代表される「ニュートン流体」とは違った性質をもっているからです。泥漿は、原料の石や粘土が非常に細かい粒子となって水に混ざったもので、トロっとしています。

市販ソフトでもある程度は泥漿の流れを再現することができ、不具合解消につながる成果も得られましたが、限界が見えてきていました。

――重藤さんから佐々木さんに、バトンが渡されたわけですね。

佐々木: 市販ソフトでの開発を重藤さんが限界まで追い込んでくれていたので、いよいよ「ソフトを自社開発するしかない」という社内の機運が高まり、私がソフト開発することになりました。

ベースとなったのは水まわりの流体解析ソフトですが、泥漿の性質を組み込む必要がありました。

そこで、泥漿の非ニュートン流体としての性質を見極める実験を重ねて、泥漿の性質を算出する方程式を立てました。

泥漿の粘度測定実験

方程式をもとに、泥漿の滴下シミュレーションを行った結果がこちらです。非ニュートン流体である泥漿の、粘り気のある動きが再現できました。

重藤: 方程式によって、実際の現象をちゃんと“トレース”できるかどうかが肝心です。逆に言えば、トレースさえできれば、ゴチャゴチャと細かな理論を組み立てなくてもいいんです。

とある研究機関の方が、「製品開発に役立つ実用的なシミュレーション技術を、どうしてTOTOは開発できるのか?」と驚かれていました。

――研究機関を上回るようなシミュレーションができるのは、なぜなんでしょう?

重藤: 我々はメーカーのCAE技術者として、具体的なものづくりに役立たなければ存在価値がありません。

我々には、例えば、「衛生陶器の成形工程のシミュレーション技術を確立する」という明確なゴールがあります。その目的達成に向けて、実験と観察を重ねて現象を見定め、適切な方程式を立て、プログラムを組み、コンピュータで計算する……。

その過程で、「現象をトレース」するための最適なモデル化を、常に追求しています。

佐々木: 泥漿は、水と石や粘土の微粒子の混合物です。

ミクロに見ると、「微粒子同士や微粒子と水の分子間距離に応じて摩擦力や電気的な力が発生する……」といえるんですが、成形工程で重要な「泥漿の流れ」をトレースするのに、そんな細かい現象は重要ではありません。

現象をトレースできる最適なモデル化を進めることで、成形工程の泥漿の流れに加えて、着肉についてもシミュレーションできる段階まで技術開発が進んでいます。

統一ロジックの構築をめざして

――最後に、TOTOのシミュレーション技術の今後の展望をお聞かせください。

池端: 世の中のシミュレーション技術は、常に進化を続けています。

2015年からの東京工業大学(現・東京科学大学)博士課程を経て、TOTO独自ソフトに「非構造格子」を導入しましたが、さらに効率的な手法が存在しています。難易度が非常に高く、私には理解しきれない手法なのですが……。

TOTO独自ソフト開発は、佐々木さんを中心とした後進のみなさんへの引継ぎが完了しています。私は、自分の強みである「コンピュータ・オタク」を活かして、未着手の新たな課題に取り組むことで、今後も貢献していきたいと思います。

重藤: 私がTOTOに入社した30年以上前と比べて、商品開発、製造現場で流体シミュレーションが活用される範囲は格段に広がりましたが、課題はまだ沢山あると思います。

後進の皆さんで是非検討していただきたいのは、「衛生陶器」の商品開発から製造まで全般に通底する、統一したロジックの構築です。

佐々木: 重たい宿題ですが、統一したロジックができたら、シミュレーション技術でより貢献できることは間違いありませんね。

――1917年の創立時より手掛けているTOTOの「衛生陶器」が、100年の時を経て、シミュレーション技術で更に進化する……。期待が高まります。

佐々木: 期待に応えていくために、商品開発に貢献する高精度流体解析シミュレーション、衛生陶器の生産効率に貢献するシミュレーション、それぞれを更に進化させていくことは勿論です。

一方、シミュレーション技術の社内活用を進めていくことも課題だと考えています。商品開発や製造に関わるより多くの技術者にシミュレーションを使ってもらいたい……。

そのためには、より使いやすくなるようにソフトを改良したり、他部署の人財育成を進めていきたいです。

重藤: 技術というのは、資料や論文を読んで理解できると思っている方も多いかもしれませんが、人から人へ“技能を受け継ぐ”ことも重要です。

衛生陶器の製造現場では、職人から職人へと技能伝承されていますが、実は、シミュレーションの世界でも同じです。

池端さん、佐々木さんのような、シミュレーション技術における“スペシャリスト”を、これからもTOTOで育んでいってもらえればと思います。

TOTOのシミュレーション技術を支えるスペシャリストの3人
左より重藤、佐々木、池端


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