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【短編小説】百舌鳥の餌

「ねえ、お父さん知ってる?」

美穂が夕食の時に話しかけてきた。

「隣の家の桜の木に、百舌鳥(もず)がいるんだよ」

「百舌鳥?なにそれ?」

美穂の兄の光博が聞いた。

「百舌鳥って、人間の言葉に似た鳴き声をする鳥なんだよ。昔から不吉な鳥とされていたんだって。黒い羽に赤い目、白い胸と尾が特徴なんだ」

妹の美穂は、自然が好きで、よく鳥や虫の本を読んでいた。

「へえ、そうなんだ。でも、なんで隣の家の桜の木にいるんだ?」

そう言って、光博はビールを飲み干した。

「わからない。でも、週に1、2回は見かけるよ。今日も見たんだ。うちの敷地に近いところにある桜の木に止まっていたんだ」

「ふーん。じゃあ、明日見てみるかな」

翌日、光博が出勤時に隣の家の桜の木を見上げると百舌鳥がいた。昨日の夜、ネットで調べた特徴と合致していた。

「あれが、百舌鳥か」

光博はそう呟いた。

百舌鳥は、光博の声に反応した。人間の言葉に似た鳴き声で何かを言い返したように聞こえた。そして、百舌鳥は飛び去った。

その日から、光博は週に2、3回は百舌鳥を見かけるようになった。百舌鳥は何かを咥えてやってくることが多かった。百舌鳥は動物食だ。小さな哺乳類、爬虫類などを襲って食べる。地上の獲物を襲って捕らえ、樹上に運び食べる。時に、獲物を木の枝等突き刺したりする。

最初、百舌鳥は、木にとまり獲物を食べていた。しかし、しばらくしてから、来る度に獲物を枝に刺すようになった。1か月、2か月経つにつれ、枝に刺された小動物らしき獲物が増えていった。そして、時々枝が折れ小動物ごと光博の家の敷地に落ちてくるようになった。



ある日、光博、父親、美穂が庭の掃除をした時、枝に刺された小動物を庭で見つけた。

「なんだこれは」

光博の父親の声に怒りがこもっていた。

「隣の家の百舌鳥がやったんだろうな」

そう言って父親は、枝に刺さっていた小動物を拾った。

「お父さん、気持ち悪いよ。早く捨ててよ」

美穂が顔をしかめた。

「これはなんとかしてもらわないと。見るとまだいくつも枝に獲物が刺さっているだろう」

そう言った後、父親が隣の家に行こうとした。

「親父、俺が行ってくるよ。親父と美穂は家で待ってて」

光博は、そう言って隣の家に向かった。

光博の隣は家も大きいが庭も広い。住人は鈴木という。鈴木は、光博の家族とはほとんど交流がなかった。鈴木は、一人暮らしで、仕事も自宅でしているらしい。光博は、鈴木に会ったことがあるが、挨拶程度の話しかしたことがなかった。鈴木は、いつも無表情で、目が冷たかった。

光博は、隣の家のインターフォンを押したが、返事がなかった。もう一度インターフォンを押したが、やはり返事がない。試しに門扉を押してみた。鍵がかかっていなかった。門扉を開けて敷地内に入った。

光博は、鈴木家の家は奥に広い庭があることを知っていた。庭の手庭の手入れをしているのだろう。スコップで土を掘り返すような音が聞こえてきた。

光博は、庭の奥に進んだ。すると何かを掘っている後ろ姿が見えた。世帯主の鈴木肇だった。鈴木は大きなスコップを持っていた。その横には縦長の穴が掘ってあった。そして、穴の隣には肌が真っ白の一切動くことのない女性が横たわっていた。

「鈴木さん」

光博が声をかけた。

掘る手が止まった。そして、鈴木がこちらを見た。鈴木の顔は、汗と泥で汚れていた。目は血走り、口はひきつっていた。鈴木が光博の顔を見た瞬間、鈴木の顔に恐怖と怒りが浮かんだ。そして言った。

「お前も餌になるか」

(終わり)

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