【ショート・ショート】言葉にしてはいけない
「鈴木くん。新年度の初日から残業?」
鈴木浩太は、同期の大島瑞希から声をかけられた。
「あ、大島さんも残っていたんだ。気づかなかったよ」
「もう、みんな帰ったわよ。残っているのは私たちだけ」
「そうみたいだね」
浩太は周りを見回しながら言った。
「もう20時過ぎたよ。まだ残業するの?」
「来週、プレゼンがあるんだ。初めて任された仕事だから頑張らないと」
浩太は、そう言って伸びをした。
「鈴木くんは、仕事に夢中なのね」
「え?夢中ではないけど、まあ、仕事だからね。大島さんだって仕事だから、こんな遅くまで残ってるんだろ」
「私?私は仕事はテキトーだから、そんなことでは残らないわ」
「え?じゃあ、なんで残ってるんだよ」
「それはね・・・」
瑞希は、座っている鈴木に近づき彼の頬にキスをした。
「え・・・?」
思いもしない展開に鈴木は頬に手を当て呆然としている。
「ほんとは、告白しようと思ったの。でも、今日は言葉にしてはいけない日なの」
「な、なんで?」
「だって、エイプリルフールじゃない。だから、思い切ったのよ。ちゃんと受け止めてね。恥ずかしかったんだから」
(終わり)