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大人の失敗

1

偶然半旗を翻した時に浴びた歓声だけを頼りに生きてきた私は、朝食の作り方もおぼつかないまま大人と呼ばれる年齢になった。
あらゆる予定が目の前を通り過ぎていく中、唯一視認出来たのは発売禁止になったゲームの開発方法だった。
おもむろにPCを立ち上げ、それらしい記号を感覚で入力していくと突然スピーカーから発信音が鳴った。
波形を見る限り何かの音が鳴り続けているが、鼓膜が破れたせいか実際の認知には至らなかった。
無事完成したゲームは発売禁止になり、現在は執行猶予期間を静かに過ごしている。

2

爪を切るのが面倒になって全ての爪を剝がしてから2週間、とても快適に過ごしている。
誰にも教えないでおこうと思う。

3

嘘は墓場まで持っていけば本当になると知り、それならと嘘だけ吐き続ける事にした。
大企業に勤めていると言った。
芸能人と結婚していると言った。
街中に爆弾を仕掛けたと言った。
何でもいいからデマを流した。
何が本当で何が嘘だったか分からなくなる瞬間がとても楽しい。
名前も知らない病院から眺める朝日は今日も綺麗だった。
名前も知らない先生にお世話になっている。
名前も知らない薬を服用している。
名前も知らない病気で。
名前も知らない私が。
最近気が付いた事がある。
あれは嘘だったのだ。

4

最後のバトンを受け取る直前に何者かがグラウンドに乱入し、バトンを奪い取ると一目散にどこかへ走り去っていった。
その人物を探して26年、ついにその人物と思われる方に出会った。
なぜそのような行為に至ったのか聞き出そうにも、彼は聴力を失っていた。
不釣り合いな沈黙の後に鞄から高そうなPCを取り出した彼は、文字を打ち込むと私に画面を向けた。
「歓声を浴びたかった」と入力されていたが、何の事なのかまるで分からなかった。

5

深夜、街中の人々の怒号で目が覚めた。
ベランダから顔を出すとみな鬼の形相で「避難しろ」と叫びながら走り回っている。
全員呼びかけるばかりで、誰一人避難する様子は伺えなかった。
公道では無数の救急車や消防車が渋滞を成してクラクションを鳴らしあっている。
一体、どこで何が起こっているのか。
この季節特有の柔らかい風は向かいのマンションに飾られている半旗をゆるやかに揺らしていた。

6

指が痛くて仕方がない。
助けてほしい。

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