個人のビジョン構想のためのワークショップの検討
第12回 Xデザインフォーラム「カルチャー x チーム x デザイン」にて口頭発表した内容を記事にしました。
外部環境の変化によって個人や企業が向き合う問題は変わり続ける。
何が本質的な問題なのかもわからない、複雑で不確実な社会において、個人や企業はどのような姿でありたいかというビジョンを描くことがより重要になってきている。
ビジョンは個人の想いから生まれると言われるが、自分の想い、やりたいこと、夢を見つけることが難しいという人は少なくない。
そのような背景から、個人のビジョンを構想するアプローチの検討を始めた。
研究のアプローチ
これまでの研究は、ビジョン構想のスキルに関する調査、予備実験を経て仮説をつくり、実験した結果をまとめている。
ビジョン構想のスキルに関する調査
ビジョンの構想について検討するにあたり、問題解決というよりは意味形成のデザインアプローチ、スキルとしては「構想力」という、構想を実現するまでの試行錯誤をやり抜いていく力に着目した。
構想力は、「主観力」「想像力」「実践力」の3つの能力に大きく分けられる。
構想力(主観力/想像力/実践力)を発揮するために必要なことを探るために、文献調査、アンケート/インタビュー調査(5名)と分析をした。
調査結果を分析し、構想力(主観力/想像力/実践力)を育てる要素を大きく3つに整理した。
内省し自分の強みや価値観に気づく
想像したことについて対話する
何事もポジティブに受け入れる
構想力を育てる要素を含むプログラムをいくつか調査し分析した結果、「アーティスト・ウェイ」というプログラムが、構想力を育てる3つの要素を含むことがわかった。
「アーティスト・ウェイ」は、ジュリア・キャメロンという人が創造性を育てる方法論として提唱しており、12週間の中で毎週10個ほどの課題に取り組むプログラムになっている。
ビジョン構想ワークショップに向けた予備実験
構想力を育てる要素を含む「アーティスト・ウェイ」に着目して予備実験をした。
プログラムの第1〜4週まで実験し参加者のアンケート結果から、「内省を促す課題によって自分のやりたいことを見つけ、実践できていることや実践しようとしていることを認識できる」というコメントが見られた。
ビジョン構想ワークショップの仮説
予備実験の結果を踏まえて、創造性を育てる「アーティスト・ウェイ」の課題の中から構想力の要素を考慮し、ワークショップで取り組みやすい課題を選ぶことで、個人のビジョン構想のためのワークショップを設計できるのではないかと考えた。
「アーティスト・ウェイ」の中から、ビジョン構想のための課題を13個抽出した。
そして、課題に取り組む中で内省、対話したことを俯瞰し、ビジョンにつながる想いのつながりを視覚化しやすくできないかと考え、7つのブロックで構成する「ビジョン構想キャンバス」を作成した。
「ビジョン構想キャンバス」を使って、自分自身の過去、現在、未来の時間軸で、自分に影響を与えた人、過去〜現在の挫折、子ども時代のこと、現状と理想のギャップについて内省し、自分の好きなことや夢からビジョンを言語化する。ビジョンに向かうために必要な行動、変化、規範となる人についても書き出し、キャンバス上で内省しチームメンバーと対話することで、共通点を見つけたり、触発し合いながら個人のビジョンを構想していく。
ビジョン構想ワークショップの実験
「ビジョン構想キャンバス」を活用したワークショップの実験をした。
1回目の実験は、事前ワークで参加者が各自課題に取り組んだ結果をキャンバスに書き出した状態からワークショップを行った。
5名がオンラインで参加した1時間程度のワークショップで、各自がキャンバスに書き出したことを発表しながら、発表を聞く人はコメント/質問を書き出す。そのコメント/質問をきっかけにして対話するという流れで行った。
実験の結果、キャンバスを書くのが難しく、普段は考えないような問いによって内省することでネガティブに感じる人もいた。
一方で、他人の発表を聞いて、自分のことについて思い出すことがあったり、何回か課題に取り組むことで内省が進み、納得感が高まることがわかった。
実験結果を踏まえ、答えやすい多様な問いのパターンを用意することで、ポジティブに内省しやすくできないかと考えた。
答えやすい多様な問いのパターンを用意するために、『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』を参考に、4つの問いかけの基本定石を活用することにした。
相手の個性を引き出し、こだわりを尊重する
適度に制約をかけ、考えるきっかけをつくる
遊び心をくすぐり、答えたくなる仕掛けを施す
凝り固まった発想をほぐし、意外な発見を生み出す
「アーティスト・ウェイ」から抽出した13個の課題と問いかけの4つの基本定石を組み合わせて、多様な問いを作成した。
ワークショップではすべての問いに答える必要はなく、答えやすい問いを見つけながらキャンバスに書き出していく。
ブラッシュアップしたワークショップを評価するために2回目の実験をした。
4名がオンラインで参加した2時間程度のワークショップで、キャンバスの中の過去〜現在について内省しビジョンを構想する4ブロックに絞り、ブロックごとに下記の流れを繰り返した。
各自が答えやすい問いを選んでキャンバスに書き出す(10分)
書き出したことを発表しながら、発表を聞く人はコメント/質問を書き出す(1人2分)
コメント/質問をきっかけにして対話する(1人2分)
ワークショップ後のアンケートでは、「自分について振り返る難しさはあるが、自分の原点に立ち返り発散的に内省しやすくなった」というコメントが見られた。
まとめ
個人のビジョン構想のために、創造性を育てる「アーティスト・ウェイ」の課題の中から構想力の要素を考慮して13の課題を抽出した
課題を通じて内省、対話したことを俯瞰し、ビジョンにつながる想いを視覚化しやすくするための「ビジョン構想キャンバス」を作成した
課題に答えやすい多様な問いを用意することで、自分の原点に立ち返り発散的に内省しやすくなった
今後の展開については下記の3点を検討している。
個人のビジョン構想ワークショップの実験を続けてブラッシュアップする
個人のビジョンをもとにチームのビジョンをつくるアプローチを検討する
個人/チームのビジョンをもとに事業/サービスの構想につなげるアプローチを検討する
参考文献/記事
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