【通信講座】 小説「竹刀と彼女(仮)」 講評
うまい。
おもしろい。
「吃音症の剣道部員」という着想にオリジナリティーがあり
エンターテインメントに必要な要素はおさえてあるので
プロデューサー、編集者と打ち合わせしながら加筆修正していけば
さらにいくらでもおもしろくなる可能性がある作品。
(作者より)
気になっている点
・構成やキャラに問題はないか
・ラストに月島と父親との和解のシーンは入れたほうが良かったか
・加筆するならどんなシーンや描写があれば良いか
最大の弱点として描写の弱さは自分でも自覚があります。
元々漫画原作や脚本をメインにしていたため、地の文が状況把握のために必要最低限の情報しかなく小説として物足りないのだと思います。
更に今回はエンタメの公募だったため、あまり描写をいれすぎると話のテンポが阻害されてしまうのでは?と気になってしまい、いつも以上に簡潔すぎる文章になってしまいました。
(今読み返してみたら、ほぼ説明しかありませんでした)
自分でも、小さくまとまっているけど全体的に物足りないという印象です。
プロの方ならどうボリュームを増やすのか、どのシーンにどんな描写を足していけばいいのかお知恵を拝借できれば幸いです。
・構成やキャラに問題はないか
構成は完璧に近いと思う。
「月島」が吃音であるともっと劇的に明かすことはできるだろうし
ラストの地方予選の前には、「梨子」と「月島」の関係性の危機があるべきだし
その他、よりおもしろくするためのアイディアはいくらでも出てくるが
それは、ストーリーの基礎がきわめてシンプルで分かりやすく
堅実にプロットを構築しているからだろう。
キャラクターには
問題がないとは言えない。
「月島」は非常に魅力的で
愛すべき主人公になっているが
一方、ヒロイン「梨子」は
アニメ、ゲームにしか存在しない、善意のみの都合のいい女でしかない。
過去も、内面も、行動理念もなく、あるいはきわめてあいまいで、
ひたすら「月島」に献身的な奉仕をする「梨子」は
生きた人間とは思えなかった。
全編通して、漠然と「月島」に興味を持ち
絶対の好意を示しつづける。
「梨子」も「月島」の吃音と同様、なんらかの課題を持ち
「月島」が「梨子」との交歓で成長したように
「梨子」も「月島」によって変化しなければならなかった。
梨子はシャープペンを唇にあててうなる。そのまましばらく考えて、奇妙な提案を言いだした。
「いいこと考えた! 自分がしゃべってるんじゃなくて竹刀がしゃべってることにしたら? 腹話術みたいに!」
そう言うと、月島の横に置かれていた竹刀を取ってマイクのように持つ。
「コンニチハ。ボクは剣丞くんの竹刀デス。いつも大事に使ってもらってマス」
あまりに珍妙奇天烈すぎる光景に月島は盛大に吹き出した。梨子を変わっていると思っていたが、まさかここまでとは。
この提案が
「梨子」の課題から生まれたものであって
以降の「月島」の成長が
「梨子」にとっても意味があるようにすべきだった。
「梨子」の兄「逸人」もおしい。
全体的に、作者の人柄なのか
悪人、エゴイスト、その他、悪意の人間は登場しない。
「月島」の父親さえ、話せば分かる。
「お兄ちゃん、剣道部のことが気がかりみたい。人数が足りないし経験者もいないし。……それに、インドーを渡してほしいって言ってた」
「引導を渡すって? 誰が誰に?」
「剣丞くんにだよ。剣丞くんが思いっきり活躍してくれれば思い残すこともないって言ってた」
善意以外の行動理念で
ぎりぎりの、生きるか死ぬかの信念の対決として
地方予選をむかえるべき。
・ラストに月島と父親との和解のシーンは入れたほうが良かったか
必要ない。
「月島」の最大の課題は「父親を乗り越える」ではない。
ふと客席を見た時に、逸人は理由を察した。そこには、自分の師であり月島の父が観客席に座っていた。
(父さんが見てる……!)
月島の呼吸が荒くなる。息子と教え子が試合に出ているのだから父が来ているのはむしろ自然な流れだが、月島の頭の中では父が来るという考えがなぜかすっぽり抜け落ちていた。
だから、試合中、父親を発見することで危機がおとずれるのも
あまりよくない。
「セカイ系」のごとく、「梨子」「逸人」「月島」の3人の閉じられた関係性で
ストーリーが展開されていくのがうつくしい。
外部の大人が入ってはならない。
・加筆するならどんなシーンや描写があれば良いか
上記のように、シーンというより
「月島」以外のキャラクターを構想しなおすべき。
最大の弱点として描写の弱さは自分でも自覚があります。
剣豪小説のパロディーめいた
スピード感ある、簡潔な文章と
軽薄なまでに口語的な会話とのギャップが生きていて
とても効果的なのだが、偶然だったのだろうか。
試合の迫力など、「描写の弱さ」はまったく感じなかった。
作者の普段の作風は知らないが
この作品については最高の文体を選択していると思う。
読み返し、打ち合わせをかさねるごとに
おもしろくなる作品であると断言できる。
まだいくらでも改善点は思いつくだろうが
とりあえず、このあたりで。
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