【通信講座】 小説「無人祭祀」 講評
良質なジャパニーズホラー。
構成、文体、リズム、描写、かわいげがないくらいうまい。
(作者より)
私は今まで、専ら純文学やSF小説を書いていたのですが、今回初めて伝奇小説というものを書き上げました。民俗学的な蘊蓄を語り、自分が「雪女」(「日本SFの臨界点 怪奇編」収録のSF小説)や「空の境界」などの作品に感じた、不思議で魅力的で、格好良い雰囲気を伝えることを念頭に置いています。
ただ、この作品には、今まで自分が書いてきたものと決定的に異なっている点がありました。それは、物語が主題に先立っているということです。私が書いてきた小説は、言ってみればテーマを表現するための道具でした。しかし本作では、雰囲気を伝えるという目的はあれど、物語として持っている主題が希薄なのではと考えています。
第三者の目から見て、主題の希薄な本作は欠陥があるのか、主題は作品の価値にどう関わっているのか、そう言った点を是非アドバイスして頂きたいと考えております。
「不思議で魅力的で、格好良い雰囲気を伝えること」には成功していると思う。
作者が思っているほど
「物語」に重点を置いた作品ではなく
「主題」がないわけでもない。
荒木飛呂彦が提唱したところの「『田舎に行ったら襲われた』系ホラー」にすぎず
サスペンス、不気味さ、緊張感をいかに表現するか
という課題は重要であっても
この作品の「物語」は「田舎に行ったら襲われた」につきる。
「主題」も
意図せずして、地域コミュニティー、物質社会への問題意識が表明されている。
作風を完全に把握しているわけではないが
作者の個性を十分に発揮できている作品だと思う。
しいて言えば
あたらしいものはなにも表現されていない。
諸星大二郎、大塚英志のエピゴーネンとしか感じなかった。
害獣よけの電線に注意しつつ、田畑の畦を進んでいく。現れた茂みに足を踏み入れ、いつしか僕は、木々の立ち並ぶ山中を、じりじり歩いているのだった。暗い。静かだ。湿った土と苔の匂いが、都会の空気に毒された鼻を癒やしてくれる。頭上には、高く月が昇っていて、うっそうと茂る枝葉の影から、足下をそっと照らすのだった。
森見登美彦よりよほど趣味のいい書生風の文体は
停滞することなく、心地よく流れていくが
印象に残った描写はひとつもない。
楷書のお手本のようで、うまくはあっても
おもしろくない。
自室の扉は酷く重い。飲みさしのビール。読みかけの本。敷きっぱなしの布団は冷えて、朝との連続性を中途半端に失っていた。
これは少しおもしろい。
夢野久作『あやかしの鼓』にあるような奇妙な執着が
語り手にはきわめて希薄で、まったく顔が見えず
読者として身体的、感覚的な恐怖におそわれることは
最後までついになかった。
この程度の指摘があれば
作品の短所を理解し
次作に生かすことのできる作者だと思う。
ご健筆を。
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