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【通信講座】 小説「音のない懺悔」「孑孑と石楠花」 講評

『【通信講座】 小説「拝み屋雲水の事件簿 拝み屋雲水③ 花鬼」 講評』で

読書体験がこんな苦行であっていいだろうか。
14/131 までしか読めなかった。
耽美的文体を志向しているのは分かるが、あまりにもぎこちない。

と書いた。

それぞれ3/13、2/14 までしか読めなかった。

作者は日本近現代文学を
「むずかしい」「分かりにくい」「つまらない」
という先入観で読み
そのように書こうとしている。

ほとんど全構文が
明白なまちがいであるか
過去現在未来に存在しえない奇妙な表現で
読みすすめるのが苦痛だった。

 かくて三年ばかりは夢の如くにたちしが、時来れば包みても包みがたきは人の好尚なるらむ、余は父の遺言を守り、母の教に従ひ、人の神童なりなど褒むるが嬉しさに怠らず学びし時より、官長の善き働き手を得たりと奨ますが喜ばしさにたゆみなく勤めし時まで、たゞ所動的、器械的の人物になりて自ら悟らざりしが、今二十五歳になりて、既に久しくこの自由なる大学の風に当りたればにや、心の中なにとなく妥ならず、奥深く潜みたりしまことの我は、やうやう表にあらはれて、きのふまでの我ならぬ我を攻むるに似たり。余は我身の今の世に雄飛すべき政治家になるにも宜しからず、また善く法典を諳じて獄を断ずる法律家になるにもふさはしからざるを悟りたりと思ひぬ。
                 森鴎外『舞姫』

このような文章を漠然とイメージしながら書いたのかもしれないが
もしこの作品から
「むずかしい」「分かりにくい」「つまらない」という印象を受けるなら
ただ単に現代口語と隔絶した文体、語彙だからであり
達意の構文に、無駄な表現はひとつもない。
当然ながら、あらゆる作者は
まず、正確に内容が伝わるように意識しながら書いている。

 小説としての散文の上手下手は、所謂文章――名文悪文と俗に言はれるあのこととは凡そ関係がない。所謂名文と呼ばれるものは、右と書くべき場合に、言葉の調子で左と書いたりすることの多いもので、これでは小説にならない。漢文日本には此の弊が多い。
 小説としての散文は、人間観察の方法、態度、深浅等に由つて文章が決定づけられ、同時に評価もさるべきものであつて、文章の体裁が纏つてゐたり調子が揃つてゐたところで、小説本来の価値を左右することにはならない。文章の体裁を纏めるよりも、書くべき事柄を完膚なく「書きまくる」べき性質のものである。

          坂口安吾『ドストエフスキーとバルザック』

まわりくどく、不明確に、もったいぶって、「右と書くべき場合に、言葉の調子で左と書いたりする」べきではない。
そんな文章は芸術表現の手段にはなりえず
まして、「所謂名文」の文体自体が目的であるはずがない。

(作者より)
文体に迷っており、可能であれば長編を一作でなく、短編(必要時間15分程度)を二作ご覧頂いた上で、文体の差異にも触れながらご意見をおきかせ頂きたいのですが、可能でしょうか。
[特に気になるところは]文そのものの表現力と、内容が面白いかどうか、オリジナリティがあるかどうかです。


『孑孑と石楠花』のほうがより読みづらい
という以上の「差異」はない。


 揺れる蝋燭の火を見るたび思います、人生はなんて静かなんだと。
 新品の蝋[燭]を取り出したら、先端に火を点けますでしょう。その時から、蝋が灰となって燃え尽きるという筋書きは、出来上がっています。蝋燭は、それでもほのかな明かりを灯すのです。だから、蝋燭を見るたび、私は人生に思いを馳せます。だって、人もまた、生まれついた時から死を予感していて、死に向かって歩いてゆきますでしょう。

『音のない懺悔』の冒頭が
もっとも作者本来の文体に近いと思う。
非常に表現力ゆたかで、リズムも停滞せず
ねじれ、にごった、不自然な箇所がない。




私はこう思う。
以下、「一文一文を上げて細かい文法のミスを手直ししてあげている」のがどういう意味か
考えてみてほしい。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 所狭しと敷き詰められたシャクナゲが向かいの荒屋の狭小な庭に犇めいているのを見たところ、時期はいよいよ花盛りを迎えたらしい。

「敷き詰められた」「犇めいている」
トートロジーに近い。
「いにしえの昔の武士のさむらいが 山の中なる山中で 馬から落ちて落馬して 女の婦人に笑われて 赤い顔して赤面し 家に帰って帰宅して 仏の前の仏前で 短い刀の短刀で 腹を切って切腹した」


 向かいには、柳のように散り散りの毛髪を一本縛りに垂らした老婆が住んでいる。

「柳のように」が「散り散り」にかかるのは「老婆」の描写としておかしい。
「一本縛りに垂らした」にかかるのなら不正確で意味が分からない。


茶無地のくすんだ襤褸を纏い、おびただしいフケを毛髪に絡めて除かないままにしている老婆は、誰がどう見ても、謹直さや誠実さや、或いは、花を慈しむ少女が持つような純真に満ちた姿から乖離していたが、俺はこの女が毎朝夕の水やりを欠かした所を見たことがない。

「姿から乖離」
 気持ち悪い。不自然。

「欠かした所を見たことがない」
 「欠かした所を見る」とは?


この女のまことに不思議な点であるが花に対してのみ誠実さを発揮するらしい。そしてそれは、先立った花嫁が黄泉の世界で罪を懺悔しながら、愛する人の訪れをひたむきに待つ姿に酷似していた。

「黄泉の世界で罪を懺悔」
 あきらかにキリスト教の死生観。

「酷似」
 気持ち悪い。不自然。


然らば、女の髪を飾るほどのフケは無垢なる花嫁のベールであるし、同時にみすぼらしい花瓶に一輪挿された貞淑の薔薇でもある。そう確信すると、この世にも醜い老婆がいくらか美しく思われた。

「然らば」
 気持ち悪い。不自然。

「貞淑の薔薇」
 一般的に貞淑の花はユリであり
 図像学的に「薔薇」は貞淑を意味しない。
 シェイクスピア『シンベリン』のイモージェンが連想されるくらい。

「そう確信すると」
 気持ち悪い。不自然。


とかく、この老婆がシャクナゲの世話をしているものと見られる。シャクナゲはこの貞節ある老婆に力を得て、言い換えるならこの老婆の血をすすって紅さを増長させているらしかった。血染められた象牙のような過剰な赤々しさの中には、美や趣きというものの持つ一切の要素を押し退けて顔をもたげた、純然たる悪意が窺えた。

「とかく」
 不明。

「貞節ある」
 気持ち悪い。不自然。

「紅さを増長」
 気持ち悪い。不自然。

「血染められた象牙のような過剰な赤々しさ」
 不明。

「美や趣き」
 対句になりえない。



俺の住むこの家屋では今、痩躯の男が壁に背を預けて、おぼろな電灯を見つめながら放心している。

「家屋」
 気持ち悪い。不自然。


その痩腕と冴えない瞳に似つかわしくないほど立派な名前であるが、それ以上に質が悪いのは中身の方であった。

「それ」の指し示す内容が不明。「名前」であるはずがない。



この家の薄汚れた金魚鉢の濁水に産み落とされ、恐らくボウフラのあいだじゅうずっとここに住む俺は、この男の度し難い性格を目の当たりにしていかなければならない。

「性格」そのものは見えない。



どこからどう測ろうと、恋人とするに一つの価値もない男であるが、しかし、女はこの男の、まったく野放しにされた寝癖や、困り果てたときに苦し紛れに出す猫なで声に心を奪われるらしい。

「恋人とするに一つの価値もない男」
 気持ち悪い。不自然。

「野放しにされた寝癖」
 気持ち悪い。不自然。


一人は健康を思わせる褐色の肌を、もう一人は神秘を思わせる純白の肌を持っている。

「健康を思わせる」
 気持ち悪い。不自然。


渋々二人と相対するように南側に腰を下ろして、今度は「今日はいい天気ですね」と、話題転嫁による心の避難を試みたところ、「大和さん、わたし達のどちらかと真剣にご交際なさってください」と冬の方から悲鳴に聞こえるほど引きつった声が聞こえてきた。

「真剣にご交際なさってください」
 気持ち悪い。不自然。


羊水の誤飲を鑑みた看護師がチューブで鼻腔内の水を吸引しようとしたが、ここでも問題は見当たらない。

「鑑みた」
 辞書をひけ。


小学校に上がったばかりのある出来事が朱莉の記憶にひとしお鮮やかに残っている。

「小学校に上がったばかりのある出来事」
 不明。


右手には百玉、左手には陽射しにしたたるアイス棒を持っての行進である。

百円玉?
「アイス棒」はしたたらない。



愛息子と愛娘に惑溺している愚直な母から頻繁に恵まれた駄賃により、その春の日々、二人は駄菓子屋へ通い詰めであった。

「惑溺」
 溺愛?

「愚直」
 不明。



これを、朱莉は兄と画策して駄賃を合わせ購入した。

「画策」
 気持ち悪い。不自然。


兄もこれに偏袒扼腕の暴動を見せ、朱莉を激しく責め立てた。

「偏袒扼腕」
 「怒り」の表現ではあっても
 「暴動」ではない。

一輝はそのとき飴の駄菓子を手に取りながら、二人の会話をばつ悪そうに聞いていた。

どの「二人」か不明。


居間で夕食がてらテレビを見ていた父の修一郎は耳を反応させつつその場を微動だにしなかったが、何かに勘づいた一輝は急いで駆けつけた。

「耳を反応させ」
 気持ち悪い。不自然。


言うに及ばず蟻の大群である。美穂が外を見れば、暗闇の中で目視が難しいものの、蠢くものを認められたので、さらに凝視してみると、そこでは軍隊蟻がおびただしく渦巻いていた。発端を辿ると、透明なプラスチックの外箱から溶け出ているチョコレートがあった。

「言うに及ばず」
 言うまでもなく? (まちがいではない)

「軍隊蟻」
 熱帯雨林地域に生息するが、亜科ごとに生息域は異なり、
  グンタイアリ亜科 - 南北アメリカ大陸
  サスライアリ亜科 - 中央アフリカ
  ヒメサスライアリ亜科 - アジア
 を中心に生息している。
 日本にもヒメサスライアリ属のヒメサスライアリ Aenictus lifuae が沖縄島と西表島に生息している。

「おびただしく」
 「渦巻いていた」にかかるだろうか。

「発端」
 気持ち悪い。不自然。

「透明なプラスチックの外箱から溶け出ている」
 不明。溶けて流れ出ている?

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