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【通信講座】 小説「産まない」他 7編 講評

書くべき題材、書くための文体を持ち
なにより真摯に、容赦なく自己を凝視する目をそなえた作者。
自分自身を形成してきたすべての過去に対し
逃げることなく向き合い、ことばにしようという努力を惜しまなかったのが分かる。

文体は簡潔で的確、本質をつかんだ
おどろくほどするどい表現も散見される。
『産まない』は全7作の白眉で

112人の女子生徒に向かってマイクを使って言った。
温室育ちの111人の女の子達はお人形のように膝を閉じて大人しく座っている。
その下にずらっと選択肢があった。
・結婚したらすぐに仕事は辞めて、夫のことや家のこと、育児を一生懸命やりたい。
・結婚しても子どもが出来るまでは仕事を続けて、子どもが出来たら辞めたい。
・結婚して子どもが小学生になるまでは仕事を続けたい。
・結婚して子どもが中学生になるまでは仕事を続けたい。
・結婚したら仕事を辞めて、子どもが小学生になったら仕事復帰したい。
・結婚したら仕事を辞めて、子どもが中学生になったら仕事復帰したい。
 私は一番下にあった「その他」にチェックを入れて、その他の文字の横にある()の中に「子どもは産まない」と書き込んで提出した。
「その他」を選んだのは、28人いるこのクラスの中で私と水田さんの2人だけだった。
54の目が一斉にこちらを向いた。
31歳の女教師は

このような即物的描写が、語り手のきびしく、つめたいまなざし、
孤独にとぎすまされた、あやういまでに鋭敏な感性をうまく出している。


ほかに、

『なんにもないひと』

会ったこともない彼らの恋人も、私の頭の中の引き出しに「大切なひと」というラベルを貼られて収納された。
大切なものを増やそうとあんなに必死だったのは生存本能だった。



『真っ白とクロ』

作ったものにしてはよく出来てる、この映画の小道具のスタッフはすごいな。



『地域モノローグ』(一昨年、あるワークショップ公演に出演した際に作ったモノローグ)

母は姉の希望はいつもなんでも応援しました。私の希望は6割叶えました。

なども、忘れがたいフレーズ。


しいて言えば
多くは小説以前の題材そのものであり
掌編小説というより
長編小説の断片に近い。
題材を生かすための枠組みが欠けている。


『なんにもないひと』

大切なひとの大事な場所のことで胸を痛めたり嬉しくなったり出来る人間でありたい。空っぽになりそうだと思ったら空っぽになり切ってしまう前に、文章にして踏みとどまりたい。


『かわいいひと』

私は私の言葉で語れる技術と勇気を持っていたい。


『小さな自転車』

 もう、あんな日々は終わりだ。
 私は思い切りペダルを踏み、高校生を追い越した。


これらは小説の文章というより
作品の主題であって
直接、説教くさく言い切ってしまわないために
われわれはストーリーをつくる。


構成能力が欠如しているというわけではない。
この枚数で小説らしく書くのは
ことほどさようにむずかしい。
もっとも無難な100枚程度を目安に
作者の個性的な「書くべき題材」「書くための文体」を自由に駆使してみてはどうか。

期待大。

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