【通信講座】 小説「美ら海に漂う愛」 講評
最近の小説に顕著な
「Twitterマンガ」化がとてもよく分かる。
設定、人物、状況はあるが
ストーリーがない。
関係性そのもの、雰囲気そのものを書こうとしている。
なにも起こらない。
この時間を切りとった理由が分からない。
(作者より)
今のところ、登場人物が4人いて、主人公、その夫、夫の友人、その妻なのですが、友人の妻の存在をもう少し際立たせる感じにする予定です。なので、そのように見せる方法を知りたいです。
「旅のようなお出かけ」がテーマなので、沖縄に行った気分になれる工夫をしたつもりですが、改善できるところがあれば教えてください。
小説の定義は
「多かれ少なかれ特殊な変化を
多かれ少なかれ特殊な書き方で表現する」
ということにつきる。
ライトノベルからハリウッド映画まで
「行って帰る」は物語の基本的な構造で
異世界、宇宙、あるいはこの作品の「うちな〜料理・うふぐすく」であっても
行って帰ってくれば、かならずキャラクターに「変化」(多くの場合は成長)が生じる。
しかし、なにも起きなかった。
「関係性そのもの」は小説の主題にならない。
コンフリクトが生じない関係性は
作品全体の構成に貢献していないため、不要と判断する。
コンフリクトとは
キャラクター間では
不和、衝突、対立であり
キャラクター内では
(異なる信念、感情、動機の間に生じる)葛藤を意味する。
このコンフリクトを解決した結果としての「変化」を書こうとすべき。
クラシック音楽の「ソナタ形式」と同じ。
「提示部」→「展開部」(コンフリクト)→「再現部」(解決、変化)
「Twitterマンガ」的なこの作品で
小説に似ているところがあるとすれば
「提示部」の役割を果たしていると言える。
まるで長編の冒頭で、つづきがあるように思えてならない。
シュワカは一瞬、憧れとは違う何かを心の底に感じたが、気づかぬふりをして注文を続けた。
その後ろ姿を見つめるワカシは嬉しそうだが、少し寂しそうな気もするとシュワカには思えた。
そしてあの人…メリーさんのことを忘れてね、とは口にしなかった。
あきらかに
緊張要因として導入された「メリーさん」が
「ワカシ」「シュワカ」との三角関係を暗示しているにもかかわらず
なにも起きなかった。
授業でおしえている学生たちもそうだが
現代人は心やさしく、コンフリクトのなかに登場人物を置こうとしない。
まずは、作者自身が暗示しているとおりの事件を起こして
「ワカシ」「シュワカ」の関係性をゆさぶればいいと思う。
2人がよりかたい絆でむすばれるようになるのか、結婚が破綻してしまうのか
その「結果としての変化」は作者の好みしだい。
三角関係の構図が明確になれば
それを中心とした全体の構成も見えてきて
おそらく、「メリーさん」との出会いより前は不要になるだろう。
「旅のようなお出かけ」がテーマなので、沖縄に行った気分になれる工夫をしたつもりですが、改善できるところがあれば教えてください。
ここまでで分かるように
「旅のようなお出かけ」そのものはテーマにならないが
そのイメージを意識しながら語彙を選んでいるのは分かる。
単に沖縄っぽいものを羅列するだけではなく
色彩、におい、味など
五感を刺激する描写を心がけてみてはどうか。
目を白黒させている
顔を真っ赤にしながら
タヌキのように膨れた腹をポンと叩いた
このような定型句、生硬な会話は
濃艶な沖縄の空気を表現しようとしての工夫かもしれないが
洋画の吹き替えのようでリアリティーがない。
周囲の事物が沖縄の生命を得ることができれば
釣り合うのかもしれない。
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