【ダニ人】 統失2級男が書いた超ショート小説
研究者ドルートは子供の頃、母親の再婚相手から壮絶な虐待を受けていた。その結果、ドルートは屈折した人間に育ってしまう。そんなドルートは、長年の研究の結果として、ダニ人を生み出す事に成功していた。顔はダニで体と脳は人間。それがダニ人だった。ドルートは生まれたばかりのダニ人を虐待し続けていた。それは余りにも異常で残酷な虐待だったが、一方でドルートの心を癒やす虐待でもあった。しかしある時、ダニ人は警備の隙きを突いて研究所から逃げ出す事に成功する。ダニ人は開放感に満たされながら晴れやかな気分で街中を歩いていたが、悲しい事に不良グループに見付かってしまった。不良グループは、ダニ人の余りにも醜い容姿を見て加虐性が沸騰し、ダニ人をリンチに掛けてしまう。ダニ人は殴られ蹴られ悶絶しながら死んで行く事になった。その後、幽霊となったダニ人は東京の街を宛もなく彷徨い続けた。そんな年月が18年も続いたとある初秋の昼下がりにダニ人は街中の公園で1人の女性から唐突に声を掛けられた。「あなたは何故、そんなに醜いのですか?」ダニ人は驚いた様子で答える。「君には僕が見えるのですか?」「はい、私にはあなたの醜い顔がしっかりと見えます、しかし安心して下さい、私は容姿差別反対主義者です」ダニ人は言う、「僕は
18年間、誰にも見付けられずに孤独な日々を過ごして来ました。この18年間は本当に辛くて長い18年間でした。そこで君に頼みがあります、どうか僕の友人になって下さい、僕の姿が見える君と僕との間には、何らかの縁があるのかも知れません」「あなたの醜い外見は苦手ですが、私は博愛主義者です。私にはあなたの虚しさや悲しさを癒やしてあげるだけの力があるのかも知れません。分かりました、あなたの友人になりましょう」ダニ人は生まれて始めて幸福感に包まれた。その女性は奈美と名乗る多摩地区の大学に通う学生だった。ダニ人はその日、奈美のマンションに招かれる事になった。「私は子供の頃から霊感が強く、これまで様々な幽霊と遭遇して来ました。しかし、あなた程の醜い幽霊に出遭ったのは始めての事です。あなたの瞳には限りない切なさが宿っています。あなたは何故、生まれて来たのですか?」ダニ人は出生の経緯を詳らかに説明する。奈美はその話を聞きながら涙を流していた。その様子を見てダニ人は益々奈美に好意を持つ事になるのだった。奈美は言う、「あなたはドルートに復讐するべきです、今すぐ復讐するべきです」「しかし僕は何の霊力も持たない只の幽霊です、復讐したくても、僕には何の力もありません」ダニ人は弱々しく答える。「それならば私があなたに代わって、そのドルートという男に復讐してあげます、私にはパパ活の実績があります、その実績を活かしてドルートに近付いて、あなたの恨みを晴らしてあげます」ダニ人は涙を流しながら奈美の言葉を聞いているのだった。
奈美は売春で得た金を使って、探偵を雇いドルートの生活状況の把握に成功する。探偵からの報告に依ると、ドルートは毎週水曜日の夜に新宿で街娼と性的関係を持っているとの事だった。探偵から受け取ったドルートの顔写真を手掛かりに、奈美は水曜日の夜に新宿でドルートを待ち伏せていた。30分程して中肉中背で初老の白人男性が視界に現れた。写真の男で間違いない。奈美は早速、声を掛ける。「3万でどうですか?」奈美は高校の時に美人ランキングでクラス2位に選ばれる程の美貌の持ち主だったので、ドルートは簡単に食い付いて来た。ラブホテルの1室で性交を急かすドルートを宥めすかし、奈美は睡眠薬の入ったコーヒーをドルートに飲ませ、ドルートは十数分後、深い眠りに落ちる。奈美は熟睡中のドルートの顔を躊躇う事もなく、また手際良くナイフで切り刻んだ。そして、その上から硫酸をたっぷりと振り注ぐ。それでも眠り続けるドルートを残して、奈美はホテルを後にした。達成感に包まれ街中を歩いていた奈美だったが、ダニ人の待つ多摩のマンションに帰る道中で、信号無視の自動車に轢かれ不覚にも命を落としてしまう。次の瞬間、目覚めた時に奈美はダニ人と同じくダニの顔を持ち人間の体を持つ幽霊に転生していた。奈美はショーウインドウに映る自分の顔を見て錯乱状態に陥ったが、自分が容姿差別反対主義者であった事を思い出すと、気を取り直し平常心に戻った。奈美は自分の新しい顔を春の日差しの様な穏やかな心で受け入れ、幽霊としての新たな生活を送って行く決意を固める。その後の奈美とダニ人は永遠の年月を費やし、確実な友愛の日々を築いて行く事になるのでした。