統失2級
僕は2004年の30歳の冬に統合失調症と診断された男ですが、このマガジンではその闘病記などを7編の記事に纏めています。時間のある時にでも、目を通して貰えると幸いです。
過去には、あれだけ僕の事をいじめて苦しめていた幻聴たちも今ではすっかり無害な存在に変り果ててしまい、今では完全に僕の暇潰しの玩具と化しています。現在の幻聴は僕が話掛けた時に返事をする程度になり、自分から話掛けて来る事は皆無です。僕は退屈な時に気紛れの遊び感覚で頭の中の声で幻聴に話掛けます。「お前は不細工だから天国には行けない」とか、「お前は臭いからベランダから飛び降りて死んでくれ」等と僕は言います。すると、幻聴は「何だと、お前の方こそ不細工だし臭いし死んだ方が良い」と返して来
大粒の雪が静かに降り積もり、街灯に照らされた歩道をクリーム色に染めている。赤村俊哉は歩道の脇で立ち止まり空に向けてゆっくりと息を吐いてみる。白い息は瞬く間に空気に溶け込み透明になって消えて行った。「早く帰ろう」俊哉は1人呟き、滑らない様に気を付けながら歩みを再開する。それから、5分ほど歩いただろうか、俊哉は自動販売機の前で足を止めた。(今朝は無かった自販機だ。新しく設置されたのだろう)俊哉はそう思いながら、目新しさもありコーンスープを買う事にした。見知らぬメーカーのコーンスー
10月も中旬を迎えると日差しはだいぶ柔和な表情を見せ始め、巷間の人々も心地よく生活を送れる様になっていた。その時節の中で猫山真吾もまた束の間の秋に心を和ませる1人であった。猫山は北九州市で探偵事務所を営んでいる。その事務所の規模は小さく探偵は36歳の猫山と29歳で長身の花森弘樹という男性の2人だけだった。それに加え午前中だけ勤務する40代の女性事務員が1人居た。探偵事務所とは言ってもミステリー小説の探偵の様に殺人事件の捜査を行う訳ではなく、主な業務は浮気調査、家出人捜索、結婚
僕の生家は極度の貧困家庭だった。更に僕の不幸だったところは4才の頃から義父に虐待されていた事だった。それに加え、母親は育児放棄をしており僕を含む3人の兄弟は風呂にも入らず服は毎日同じ物を着ていて、そのせいで3人とも学校ではイジメられていた。僕の家庭環境は本当に悲惨で希望など何処にも無かった。それでも、何とか生きていた僕は中学3年生のとある日に僕をイジメているグループの男子が一人で夜道を歩いているところに遭遇する事があった。僕は道端で拾った手頃な大きさの石を片手に握り締め、背後
その男はアホな男だった。だから、何度生まれ変わっても簡単に捕まる重罪を犯しては、その都度死刑になっていたし、その都度50年間にも及ぶ業火地獄も体験していた。地球神は転生待機所で何度も何度も「もう、人は殺すなよ、絶対に殺すなよ」とその男に言い聞かせて、その男を地上に送り出していた。しかし、実は地球神も心の奥底ではその男に期待はしておらず、(この男が地上で重罪を犯すのは火を見るより明らかだ。その度にこんなアホな男を地獄に落とすのは余りにも可哀想過ぎる。一層の事、この男は輪廻転生の
その日もいつも通りの時間帯に仕事を終え、加佐武海は午後7時には一人暮らしのマンションに帰宅していた。シャワーを浴びた後、いか煎餅と冷凍食品のたこ焼きをつまみにビールを飲んでいると、玄関のインターホンが鳴った。恐らく宅配便だろう、そう思い玄関ドアを開ける。すると、リュックサックを背負い緑色の無地のトレーナーを着た20代と思しき男が立っていた。交わす言葉は無かった、その男は押し黙ったまま隠し持っていたナイフを取り出し、武海の腹を4度ばかり突き刺す。武海の31年の短い生涯はこうやっ
「あなたとあなたの恋人は2028年の8月2日に死にます」その占い師は深刻な顔で美紀に告げる。美紀は唖然として黙っていたが、連れの蘭紗が怒りを顕にする。「いい加減な事言って金稼いでんじゃないよ、美紀、帰るよ」そう言うと蘭紗は料金の4千円を机に叩き付け、美紀の手を引いて退店を促す。美紀は占い師にもっと話を聞きたかったが、それは叶わず、蘭紗の剣幕に圧倒されて、占い店を後にするのだった。 ファストフード店で美紀と蘭紗は向かい合って座りながら、ハンバーガーを頬張る。「本当に占いなんて
真夏の苛烈な太陽の下を1人黙々と歩く男が居た。汗で濡れたシャツが体に張り付き不快指数は絶望的に高い。風は吹くが、それは生暖かく森坂の小太りな体を癒やす事は無かった。競馬で負け、電車代も飲料水代も残っておらず、哀れな34歳の男は1人暮らしのアパートまで過酷な行軍を続けるしかない。腕時計に目をやると既に1時間40分は歩いていた。(質屋でもあればこの腕時計を売って電車代とジュース代を稼ぐのにな)と思いつつ辺りを見渡すが、そうそう都合良く質屋がある訳も無く森坂は落胆する。それでも気を
島本晴治はたった今、1つの小説を読み終えたところで狼狽して更には愕然としていた。その小説は『来訪者』というタイトルの小説で、晴治が驚いたのはその小説の主人公の人生が自分の人生と酷似していたからだった。主人公の氏名は山本晴彦と言い晴治の氏名と2文字が共通していた。また、家族構成も祖母、母、2人の姉と主人公の5人家族で、これも全く晴治と同じだった。そして、その4人の家族の下の名前も、1文字ずつが共通していた。作中では1番目の姉が高校生の時に急性白血病で早逝するのだが、晴治の1番目
「我々、古川興業の所属タレントであった宮田真が先日、古川興業を批判する記者会見を開きましたので、我々は宮田との契約を解除致しました。そして、向こう30年に渡って宮田をテレビ業界から干し、更に政府からの助成金である100億円を元手に、手下のタレントやネット工作員を使い宮田の悪評を日本中に撒き散らして行きたいと思っております。ご出席の皆さま方のご賛同を宜しくお願い致します」古川興業の専務を務める眼鏡を掛けた小柄な老齢男性が発言すると、他の出席者たちは異口同音に「異議なし」と返答し
1384年、ドイツのとある地区のとある集落でダヤリ人の会議は開催されていた。その会議に於いて若きアシュカータは情熱的に声を上げる。「我々、ダヤリ人には霊能力がある。なのに何だ、この惨めな生活は、これは全て魔女たちの所為だ。魔女たちの魔力が我々の霊能力の活動を妨げている。魔女たちを排除すれば、我々の生活水準は必ずや向上する」その発言を聞いていた小柄で老齢なカーリシマが、諌める様に発言する。「それは危険な思想だアシュカータ、魔女たちに逆らうのは賢明ではない。魔女たちの魔力を過小評
激しい風が唸りをあげ、容赦ない雨が窓を叩く。光哉は心の中で(停電だけはやめてくれよ)と呟きながら、マグカップ一杯の麦茶をゆっくりと飲み干し深いため息をつく。テレビの予報では3時間後の21時に台風はこの街に最接近する事になっていた。そして、いつもは駄洒落を連発している眼鏡を掛けた細身の中年女性の気象予報士も、この日ばかりは真剣な面持ちでこの台風を「猛烈な台風」と形容していた。光哉は毎週日曜日になると愛車のカワサキに跨り隣県のラーメン屋まで遠征するのを楽しみにしている男だった。し
金里将太はとある年の6月初旬の夜に不思議な夢を見た。それは昔、飼っていて死に別れたオウムのケン吉が出て来る夢だった。3年振りの再会に感激する金里ではあったが、ケン吉の方には特にそんな素振りは見られず、ケン吉は金里の部屋のテレビ台に立ちながら、「これは夢だ、スペイン、スペイン。これは夢だ、スペイン、スペイン」と坦々とそして延々に繰り返すのだった。起床した金里は(奇妙な夢だったな)と思いつつ、夢ではありながらもケン吉と再会出来た事に喜びを感じ、朝食のパンを食べながら1人で笑みを浮
僕は30歳の時に統合失調症と診断された男ではあるけれど、今回はそれ以前の健常者時代の話をしていきたいと思います。 僕は物心付いた頃には既に立派な肥満児で小中高とバレンタインデーにチョコレートを貰う事は一度も無かったが、社会に出てから一念発起してダイエットに成功し、11人の女性とデートする事が出来た。1人は同い年の当時のパチンコ屋の同僚であとの10人はテレクラで知り合った女性たちだった。当時、21歳だった僕はダイエットに成功したとは言っても、腹には僅かな肉が残っており、そのパ
昔々、草原の地にリハーダという名の村があり、その村には2人の兄弟が住んでいた。兄はヨウという18歳の少年で、弟はムサーカという14歳の少年であった。そして、この兄弟の両親は残酷にも侵略者たちの蛮行によって、5ヶ月前に命を落としていた。侵略者たちは50人程度で徒党を組み夜陰に紛れて突然、村にやって来ると、リーダーらしき人物が声高らかに「この土地は神が我々、カヤダ族に与えた聖なる土地である。よって、お前たちは3年以内にこの土地から出て行くのだ。3年後もこの土地に住んでいるリハーダ
札幌市に青田治久という1人の男が居た。青田はかつての製薬会社勤務時代に副作用の殆どないダイエット薬をほぼ1人で開発しており、会社から200億円の報奨金を受け取っていた。その後、青田は会社を退社し、まだ、30代後半の身ではありながらも隠居生活を送る事になっていた。青田には2度の離婚歴があったが、そのいずれの離婚もダイエット薬開発前の出来事であったので、報奨金は納税額を除いて丸々、青田の懐に入っていた。2度の離婚を経験した事によって青田の結婚生活への憧憬の念は完全に消滅する事とな