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苦労しても、期待するもの。進化する「文字起こし」
「文字起こし」と聞いてピンときますか。
もしかしたら、「テープ起こし」の方がわかりやすいですか?
もしすぐにわからないなら、幸運なことに、あなたはあの面倒な作業を知らないのでしょう。
もはやカセットテープレコーダーは使っていないのに。
取材のメモをICレコーダーでするようになって15年にもなるのに。
いまだに「テープ起こし」という言葉が懐かしい世代の元雑誌ライターです。
アナログ時代のヘビーな「文字起こし」
対面の取材で1時間、2時間、録音でメモをしたあとに、ロングインタビューのためにこの内容を「文字に起こす」のは、大変時間がかかる作業でした。
1時間みっちり質問して答えて、話がちょっと弾んで脇道に逸れて……を、音源を聴きながらパソコン入力してテキスト化していく。
この作業は、3時間で終わればいい方でした。
音源が悪くて、相手の話し方がボソボソしていたり、周辺の雑音が重なって入っていたりすると、さらに時間がかかりました。
集中力が必要な作業なので、ぐったり疲れもしました。
話を聞く相手が1人なら楽な方です。2人の場合や、複数人の「座談会」ともなると、同じ時間でも難易度は上がりました。頼りになるのは、録音した「音」だけです。誰が言った内容なのか聞き分けが難しく、席順をメモし、ステレオマイクを使い、準備万端で臨みました。
それでも、話が盛り上がって声が重なっていくと、(ヤバイ、これは聞き取りにくそう!)と、笑顔で司会しつつ顔がひきつっていました。
同業者と話をしていても、この「テープ起こし」「文字起こし」の作業が好き、楽しいという人は、私の知る限りいませんでした。
作業が重いのも大変ですが、何がイヤって、自分の声も延々聞くことになるのがウレシクナイんです。
「自分の声、好きじゃないなあ……」
「この言い方は下手だな。もっとうまい言い方できない?」
「あっ、そこでもっと突っ込んで聞けばいいのに!」
自己反省会をしながら、ずっと聞くことになります。
「締め切りいつですか? どれくらいの長さのインタビューですか? 取材行けるし、その内容なら書けるけど、テープ起こしをする時間がちょっと厳しいですね……」
「ああ、『テープ起こシャー』が欲しい。テープ起こしをしてくれる人……」
大変だけれど、「文字起こし」が終わるころには、ロングインタビューの構成もほぼ頭の中にできている。
話の内容ごとに、あれは本文に、これはコラムに、こっちはプロフィールに……というネタの切り分けも目処がついている。
「テープ起こし」はライティング頭脳に必要な、大切な時間でもありました。
そうやって完成したロングインタビュー記事は、読者に、取材を受けた人の口調や息づかい、弾んだその場の雰囲気も伝えるような、楽しく読みやすい読み物になっていた……と思います。
デジタル時代の即時「文字起こし」は、そのままじゃ使えない!?
今は、スマホのアプリのレコーダーなどでも「文字起こし」ができるんですね。
GooglePixelに入っていた、「Google レコーダー アプリ」で、音声を録音すると同時に文字起こしができます。
実はこれを使ってみたくて、GooglePixelにしました。
ですが、2年ほど前に購入してすぐの時に使ってみたら、機能は今イチでした。
理由は、誤変換が多すぎるから。
自分の覚えメモ程度にはなりますが、誤変換が多く意味不明で、そのまま人に見せられる文章ではありません。
下手すると、自分の発言でも、何の変換違いでこんな内容になってるのか、そもそも自分が何を話したのかわからなくなってきます。
さらに不便なのが、ベタ起こしなので、対話でも話者の区別がつかない。
あれ、これ結局確認のために音源をもう一度確認して、私が全文手作業で直すことになるのでは?
だめだこりゃ。仕事には使えないな……。
適応しなくちゃ!人もアプリももっと先へ
しばらく触っていなかったのですが、必要があって、最近また使ってみました。
そうしたら、なんだか前より変換が良くなったみたいな気がする……!?
いやもしかしたら、限られた時間の中であるものはなんでも使おうという、私のどたん場の瞬発力で、使うコツをつかんだだけなのかもしれません。
結局、いかに人間様が適応するかの問題か……。
ワープロ専用機で長文を書き、「これからはパソコン」と言われてMacを使い、電話機能だけでよかったのにスマートフォンに振りまわされ、「仕事ではこっちが一般的」とWindowsを覚えて。
まだまだ新しいものに適応していけば、道はあるってことなのか……。
わからないけれど、これだけテクノロジーがいろいろ進んでいるんだから、食わず嫌いはせずに、いろいろ試してみよう。と改めて思いました。
AI、アプリ、クラウドサービス。いろんな道具が世の中にはあるんだから。思ったほど有能でなくても、とりあえず手のバカっ早い、なんでも頼める相手が、身近にいるんだから。
新しい道具に、こちらがもう少し付き合う気持ちで、やってみよう。
昔も今も本当に欲しい「テープ起こシャー」は、あともう少し、もう少し待ったら、登場するかもしれません。