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ビューティフル・ネーム〜カフェで出会った小さな物語

先日、こじんまりしたカフェに行ったときのこと。私は一人で、隣に家族が座って穏やかに過ごしていました。西洋の方のようで、英語で家族で話をしていました。

人形のようにかわいらしい、小さな女の子がいます。
カフェの店員に「いくつ?」と聞かれると、小さい手をパッと開いて出していました。

お母さんと思しき女性が、娘を見ながら店員さんに何か言っています。
同じ言葉を何度かくりかえすのが聞こえました。名前かな?
隣で口の中でつぶやいていたら、お母さん、こちらを向いて私の目を見て、今度は私に繰り返しました。

「Olivia」

「……オリヴィア? ですか?」
無茶苦茶ジャパニーズイングリッシュで、「おにぎり」みたいなイントネーションで、しっかり4音節で。ヘンな発音で言っちゃったのですが、女性は「そうそう」というようにうなずいてくれました。

向かいに座っていたお父さんらしき男性が、「Shakespeare name」と言いました。あっ、それぐらいの英語なら私にもわかります。

「シェイクスピア・ネーム?」

またまたジャパニーズイングリッシュ全開ながら、わかったのがうれしくて言いました。

シェイクスピアかあ。わかるのもあるけれど、オリヴィア、オリヴィア……何の話かな?
子どもにつける名前なら喜劇からかな?

「シェイクスピア、シェイクスピア……」とつぶやいていると、男性は、ぽんぽんとスマホをタッチして、Wikipediaの見出しを私に見せてくれました。

「ああ、Twelfth Night! 『十二夜』……ですね」

男性は、そうですそうですと笑ってくれました。

『十二夜』は喜劇(コメディ)。双子の兄妹セバスチャンとヴァイオラが嵐で生き別れ、妹のヴァイオラは男装して、小姓として仕えたオーシーノ公爵に思いを抱くが、オーシーノは伯爵の娘であるオリヴィアのことが好き。そのオリヴィアは、男装したヴァイオラに一目惚れしてしまう……。

なんだか、今なら韓ドラにもありそうなドタバタ恋愛劇です。男装や勘違いが入り乱れ、誤解、混乱、別れと出会いを越えて、最後には二組のカップルが誕生する。そんな明るい物語。

文学から名前をつけるなんて、粋だなあ。

名前に込められた思いと、家族の穏やかな愛情が伝わってきてほっこりした、午後のひとときでした。

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