第8話 社会人時代(エレベーターコンサルタント編)

赤字で売っているから絶対にメンテナンス契約を取らないといけない使命を負っているが、メーカーを退職した人間が集まり、どこのエレベーターでもメンテナンスを請け負うという会社が格安で現れたことで、メンテナンスで儲けるというビジネスモデルが崩壊している状況であった。

赤字で売るからメンテナンスは絶対に死守しなければいけない、でも失注は許されないから値引き交渉があれば応じなければいけない、という負の鎖である。

それで行きついた先に起こったことは、とても懇意にしていただいている優良なお客様から満額の料金を徴収し、値引き交渉するお客様から定価の半額程度で契約をしていたりもした。

本質として誰を大切にしなければいけないかを真に考える必要があるのに、その課題には目を向けず、目先の利益、目先の契約を優先するようなことが常態化していた。

また、先ほどエレベーターのメンテナンス料金は「定員、速度、停止階数」で決まっていると言ったが、たまたま近隣で「定員、速度、停止階数」が同じ建物があったとしても、値引き交渉次第では区別が行われていた。

なぜ場当たり的なその場しのぎの行為を当然のごとくするのだろうと私は常々思っていた。
そこには価格に対するプライドというものは無く、取れる人からお金を取れなければいけないという発想しか残っていなかった。

これは本体を売るときも同じであるが、良い人ほど東芝さんが言うなら仕方ないねと信じてくれるため定価で契約を頂き、交渉が厳しかったりお金が無いお客様には安く売るということが普通であった。

自分はお客様が差別されるようなそんな仕組みを変えたいと思いエレベーターコンサルをしようと思った。

これで儲かりたいということではなく、目指していたものはデータを収集するということをしたかった。
もし世の中の全部の物件の契約内容が分かれば、同じ仕様なのに値段が違う異常な状況に対して問題提起を行うことができるため、付加価値を生めない会社は淘汰されるだろうが、本質的な終着点として適正料金というものが確定値として構築されると考えた。

それにより、誰かが得をしたり良い人ほど損をするという現実を変えたいと思っていた。

実際に数百万かけて福岡の新聞にエレベーターコンサルのチラシを入れたりもした。
ビル所有者のデータも買ったりし、直接手紙を送ったりもした。

実際には予測していたよりも反応が薄く、毎月高いお金を払わされているのに疑問に思うことなく現状維持を行うのか理解不能な結果になってしまった。

会社としての信用力が無いことが1番の要因だろうが、目の前に大きなコストダウンの種があるのに、信用に値するかどうかすら見ないという結果が予想できず驚いてしまった記憶がある。

そんな中でも情報をきちんと拾いその情報が使えるか使えないかを判断してくれるリテラシーが高い人達もおり、いくつか仕事も取れた。

目立つところで言えば、福岡の有名高校の荷物用エレベーター2台を、ひと月数万円減額させたりもした。

ただ、こちらと高校で契約書を取り交わす前に三菱が値段を下げてきたこともあり、高校の担当者から、大変感謝はしているが契約書を取り交わす前だったので報酬は無しでと言われたのはとてもショックな出来事だった。

実際に私が動いたから三菱が減額をしたわけだが、報酬を全額出せないとしても人情的な面があれば悲しい気持ちにはならなかっただろう。
ここでもお金という世の中の悲しい現実を学んだ。

ひと月数万円の削減だったので、学校を取り壊すまでを考えると1000万円くらいの削減となるだろうが、結局コスト削減をしたというやり切った感のある成果というよりも、人のことを思って対応してもこのような結果となるというという、ある種の反省としての結果が残った。

それにしても私が値引き交渉に行くだけで値下げをする三菱、いえば値下げをするが言えない人は損をする現実が本当に悲しいなと感じた。

別に三菱がどう、東芝がどうという低い次元の話ではなく、人間は頭の良い生き物なんだ、技術も発達して凄いんだ、と皆が思っていることが盲目であり、現にこれだけ進化しているのに自分さえよければいいというお金概念に縛られている社会の構造に大きな欠陥を感じざる負えない。

日本は私の見立てだと、今のままでは数十年先にかけて数パーセントのお金持ちと90数パーセントの貧乏人の2分化された世の中になると思っている。
年収1000万あろうが誤差の範囲として一緒に貧乏人の仲間入りになってしまう。

ただ発想を変えると、お金さえあれば幸せになれるという概念自体が間違っていることに気づき、人間として本当に幸せの定義となるものが何なのかを世界で最初に作れるのではないかとさえ思っている。

超円安になるかもしれないので世界旅行をするとかは難しくなるかもしれないが、別にそこに行かなくても世界の端っこは今でもネットで見ることはできるし、翻訳機能がちょっと進化すれば世界との垣根も無くなるだろう。

その時に大切にするべきことは、たまたま日本という場所で生まれ、日本の歴史を感じて生きてこれたということに感謝し、日本って良い場所なんだよと言うのを世界の人に伝え、日本人って素敵だよねと思われるような、誇りみたいなものを自己満足的に持つことが出来たら、一つの幸せのパーツになるのかなと感じる。

お金の概念を無くすことが人の生き方を楽にする方法の一つと捉えているので、すぐに全ては出来なくても、少しずつお金の依存度を下げて行きたい。

お金を持っていたって自殺する人はいるし、お金で人に恨まれてしまえば殺されてしまうこともある。
生きることって不確定要素の塊であるので、お金という概念から脱却し、毎日生きていられることに感謝できるようになる世の中になって欲しい。
そして人を喜ばせることが幸せのバロメーターになるような、そんな世の中の構造が作れたら良いなと思う。

話は横道にそれてしまったが、エレベーター業界もだいぶグレーの仕組みで成り立っているが、これは今やっている不動産業界でも同じことが言えるし、新聞業界でも言えることである。
みんなお金というものに縛られ、グレーなことをしないとお金が稼げない構造となっている。

良いか悪いかという2分された意見をよく聞くが、私はGoogleのような会社になりたいと思っている。

少なくとも一般ユーザーに対しては様々なサービスを無料で提供し、変わったところで言えば、スーツを着ないということをモットーとしているようなことをネットで見たが、まさにそのようなことが大切だと思っている。

見た目で仕事を取るようなしょうもないことはしたくない。
真夏のこんなに暑いなか会社の言いなりでスーツを着るような非合理的なことはしたくない。
大手だから安心と思う人が圧倒的にいるが、大手になるというのはどういうことか考えてほしい。
大きなビルを持てるということがどういう事か考えてほしい。

もし本当に皆に寄り添っていたら1円でも安く商品を提供するだろう。
そして皆に寄り添う思いがあるなら、リスク分散としての多角経営ではなく、人々と繋がり続けるために様々なサービスを開発し、各々のサービスで少しずつ利益を頂くことを目指す本当の意味での多角経営を目指すだろう。

残念ながら大手は資本力を生かし有名人を起用したCMを流し良い会社アピールをして上手に搾取をしている。
そして皆は大きなビルを持っていることが信用のステータスだと思い込んでいるが、それは本来もっと安くできるサービスをそのようにしなかったということを理解して欲しい。

私自身は、Googleのような広告という分野で誰に迷惑をかけることなく利益を上げる形が理想だと思っている。
個人情報を勝手に抜き取っているんだという人間もいるが、個人情報などグーグルがしなくてもどの企業からでもあふれるほど流出している。

当社が目指すところは、お金の概念というものを少しでも無くし、出来るなら誰かに感謝すらされないくらい空気のような存在で人を幸せにしたいと思っている。

誰もグーグルに感謝はしていないと思う。
大きな定義ではしているかもしれないが、グーグルのお陰で仕事が楽になった。
Google様ありがとうとはだれも思わないと思う。
ストリートビューひとつとっても、とてもすごい技術を無料で提供しているが、誰も意識して感謝などしていないと思う。

私は空気くらいの感じで必要とされる存在でありたいと思っている。
そして死ぬときにここまでやり切ったと自分の中で自己満足をして終われるように出来たらいいなと思っている。

どんなに何かをしたとしても、自分が出来ることなど世の中のほんの一瞬の水の波紋みたいなものである。
例え世界を変えたスティーブジョブスだとしても、死んでしまえばそれで終わりである。
人がいくら感謝しようが、本人には届かない。
ただ、想像ではあるが本人はやり残したことがあったとしても、自己満足はしていると思う。
常にベストを尽くしてきたから世界を変えたと思うので、ベストを尽くして最期を迎えられるなら生き切ったということになるのかなと思う。

毎日悩み、毎日壁にぶち当たり、毎日失敗し、毎日チャレンジをしているが、いつか空気のように人に寄り添える何かを残せたらいいなと思う。

その一つとして、いつかエレベーターの料金データーベースを作るかもしれない。

あの頃は時期尚早であり、今も会社の信用度は低いのだが、それでもあの頃の思いは変わらずある。

エレベーター業界は私ごときが情報を集めたことで何か変わる訳でもないし、皆が知識を持つことが出来たら新たな仕組みが再構築されると思っているので、その一助となるように、今もエレベーターの相談が来たら乗ろうと思う。

自分が持っている知識は全てオープンにし、誰かのお役に立てたらと切に願っている。

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