💞とことんユーミン💞ひこうき雲

1972年　「返事はいらない」でデビューした荒井由実は翌年シングルアルバム「きっと言える」（B面にひこうき雲）をリリースしました。

ジャケットデザインは教会音楽を多く扱う「アルヒーフ」にインスパイアされたものと正隆さんがおっしゃっています。
当時フォーク全盛時代にこのジャケットは異色でしたが、手に入れたときのときめきと興奮は忘れることができません。

バックバンドにはキャラメル・ママ。
松任谷正隆さんがキーボード、細野晴臣さんがベース、ギターは鈴木茂さん、ドラムは林立夫さんという豪華メンバーでした。

A面

♪ひこうき雲

♪曇り空

♪恋のスーパー・パラシューター

♪空と海の輝きに向けて

♪きっと言える

B面

♪ベルベット・イースター

♪紙ヒコーキ

♪雨の街を

♪返事はいらない

♪そのまま

♪ひこうき雲（short version)

【ユーミン考察】

酒井順子さん

「ユーミンの罪」という言葉を聞いたとき、なになに？と思った記憶があります。

「小説現代」2012年1月号から2013年8月号に連載されていた酒井順子さんの「文学としてのユーミン」を改題して文庫本になったときのタイトルです。
当時、さっさく手にとって読んでみました。

酒井順子さんは1966年生まれで小学校から立教女学院で学び、そのまま立教大学社会学部観光学科を卒業しました。
高校時代には『オリーブ』（マガジンハウス）に「マーガレット酒井」のペンネームでエッセイを寄稿していました。

立教女学院のことを英語ではSt.Margaret’s School と呼びます。ちなみに立教大学はSt.Paul です。

立教大学はモデレーターのよしこさんの母校でもありますが、イギリス国教会聖公会のミッションスクールです。マーガレットは11世紀のスコットランド王妃、聖マーガレットに由来しています。

聖マーガレット
マーガレット王妃は、病人や寡婦など弱者の援助に献身して人々に慕われ、人々から厚く尊敬されていました。イエス・キリストを愛し、その一生を隣人に奉仕し、人々を助けるために過ごしたマーガレット王妃は、1250年にローマ教皇インノセント四世により聖人に列せられました。
聖マーガレットは立教女学院の目指す女性像そのものです。

立教女学院HPより

酒井順子さんは生粋のマーガレット生でした。
2003年に「負け犬の遠吠え」で講談社エッセイ賞と婦人公論文芸賞を受賞しています。
30代、未婚、子供なしの彼女は「独身で子供がいないという自分」を幸せだというと「反感を買いかねない」と判断して、「30代以上、未婚、未出産」の女性をあえて「負け犬」と自虐的に定義し、実は思い切りエールを送っていました。

その酒井順子さんが立教女学院先輩のユーミンについて徹底的に調べて書き上げたものが「文学としてのユーミン」でした。

このテキストをもとに「とことんユーミン」で色々な視点で取り上げていきたいと思います。

ひこうき雲　

〜誰も気づかず　ただひとり
あの子は昇っていく　
何もおそれない。そして舞い上がる。
空に憧れて　空をかけていく
あの子の命はひこうき雲〜

明らかに「死」を扱っている曲ですよね。
1972年11月26日に母を亡くした私は死をとても身近に感じていました。
ちょうど12月31日、ちあきなおみさんは「喝采」でレコード大賞を受賞しました。
この歌も恋人の死をも乗り越えて、ステージで歌う女性歌手の心情を歌ったものでした。
そして、カルメン・マキさんの歌う「時には母のない子のように」を口ずさんでいた16歳の私。母の死で私は精神的に10歳くらい年をとってしまった気がして、級友たちと表面的には騒いでいるフリをしても、心に空洞がポッカリ開いていました。

その心の空洞に「荒井由実」がすっぽり入ってきました。

「ひこうき雲」の「あの子」はユーミンの小学校時代のクラスメイトで筋ジストロフィーの男の子でした。彼はお金持ちでわがままな御坊ちゃま、やはりお金持ちのお嬢様のユーミンから見ると、かなり気になる子だったのではと思います。
　小学校を卒業して4年後に届いた訃報。葬儀に参列すると、4年の歳月で、その子は見知らぬ高校生となって遺影の収まっていました。
ユーミンは『ルージュの伝言』の中でこう言ってます。

「そのとき思ったの。ああ、結局昔のことっていうのはフローズンになっちゃうんだな、と。写真とかだけが大人の顔しててさ、高校生の顔しててさ。
　それでそのことがけっこうインパクトがあってつくった歌が、『ひこうき雲』って歌。
高校の終わりか大学の頭に作ったのよ」

ユーミンの罪

私が考えていた「生と死」についての言葉にならない感覚をユーミンは言葉にしてくれたのです。

〜誰も気づかず　ただひとり
あの子は昇っていく　
何もおそれない。そして舞い上がる。
空に憧れて　空をかけていく
あの子の命はひこうき雲〜

1972年、田中角栄が首相になり、日本列島改造論のもと、日本中、新幹線や高速道路が建設され、沖縄も返還され、今とは比べられないほど活気付いていました。
私は16歳、フォークソング全盛期でした。
吉田拓郎が「結婚しようよ」を歌って四角桂子と軽井沢の教会で挙式した年です。

1973年、ヒット曲

1位「女のみち」宮史郎とぴんからトリオ
2位「女のねがい」　　〃
3位「学生街の喫茶店」ガロ
4位「喝采」ちあきなおみ
5位「危険なふたり」沢田研二
6位「神田川」かぐや姫
7位「心の旅」チューリップ
8位「恋する夏の日」天地真理
9位「若葉のささやき」　〃
10位「赤い風船」浅田美代子

演歌、フォーク、歌謡曲、レコード全盛時代です。

ここにユーミンの登場です。
『四畳半フォーク』って言葉もユーミンが作りました。

　「日差しがこうだとか、波の具合がこう」（ルージュの伝言）といったシチュエーションは、幸福な人しか切り取ることができないし、また幸福な人しか享受することができないものです。喰うや喰わずの人にとって、日差しとか波の具合など腹のたしにもならぬでしょうし、健康でない人にとっても然り。すなわちユーミンの歌は、平和で満ち足りた世であるからこそ誕生し、そして人々に受け入れられていったものではないでしょうか。」（P14 3行目〜7行目）

プロコル・ハルムやミッシェル・ポルナレフの影響を受けた作品は、今ではごく当たり前に聞いていますが、当時は本当に画期的でした。

八王子と横浜

八王子の老舗呉服店の第三子と誕生したユーミン。お兄さん、お姉さん、弟と兄弟に恵まれ、親の目を盗むこともできる余裕も有馬そた。



「荒井由実ってどこに住んでいるの？」まだ今のようにネットで調べることもできなかったころ、情報はわずかでした。
八王子の荒井呉服店・・そうなんだあ。
私は横浜生まれの横浜育ちですが、本籍は中央区京橋1丁目。そこには父の構える割烹料理店があり、私の幼少期、母は毎日、横須賀線の一等車の定期で通っていました。
そして、1972年にくも膜下でなくなりました。
境遇は全く違うのですが、私はなぜかユーミンに近いものを感じていました。

さて、八王子と横浜は「絹のみち」で繋がっているのです。
江戸幕末から明治時代にかけて、八王子から横浜までは生糸や絹織物を運んだ道がありました。八王子は「桑の都」と呼ばれるくらい養蚕が盛んでした。
特に1859年、横浜港が開港されてからは絹の貿易が盛んになりました。
ちょうどヨーロッパで蚕の病気が蔓延して、養蚕は壊滅的になり上質な日本に絹は大変な人気となっていたのです。
1908年に八王子ー東神奈川を結ぶ横浜鉄道（現在のJR横浜線）は開通すると、絹のみちは廃れていきました。

ユーミンは横浜に来るときには横浜線で菊名で東横線に乗り換えたのかしら、終点東神奈川までいったのかしら。と思ったものですが、実際ユーミンは横浜線で終点の東神奈川まで行き、京浜東北線に乗り換えていったようです。


車を運転できるようになると国道16号線で八王子にいきました。
16号線の起点もうちから歩いていける距離ですが、八王子に行くにしても三浦に行くにしてもお世話になった国道です。

もちろん荒井呉服店にもいきました。
半衿一枚買った遠い記憶があります。

空と海の輝きに向けて

デビューシングルB面の「空と海の輝きに向けて」を聞いたとき、私はその光景をはっきり見える気がしました。

「この人生の青い海原に
　おまえはただひとり帆をあげる　
　遠い波の彼方に金色の光がある
　永遠の輝きに命のかじをとろう」

「人生」「永遠の輝き」「命のかじ」　
母を失い人生の航路のかじをどうとっていこうと思っていた私に言葉がふってきました。

サイモン＆ガーファンクル「明日にかける橋」と同様に、心の響きます。

Sail on silver girl, sail on by
Your time has com to shine
All your dreams are on their way
See how they shine, oh
I’m sailing right behind
　（Bridge Over Troubled Water）

少女は永遠の方向に向かって、かじをとっています。たいていの少女が、まだその刹那刹那でしか生きていない年頃に、一人の早熟な少女は、誰よりも刹那の重要性を理解していながらも、遥か彼方にある永遠を夢見ていました。
　刹那を切り取り、積み重ねていくことで、永遠を目ざす。そんな意識が込められているような気がする、ユーミンのごく初期の歌。

（ユーミンの罪　P17 9行目〜14行目）

荒井由実はいつも私の前を歩いていました。
50年、同じ時代を生きてきました。
そしてこれからも永遠を目指して歩き続けると思います。

パンドラの箱

ユーミンファンの女性達は、ユーミンが提示したお洒落なシチュエーションにばかり惹かれたわけではありますまい。刹那の輝きと、永遠の魔力。両者を手に入れようとするユーミンの姿勢と時代が合致したからこそ、彼女はスターになりました。
　ユーミンは女性達にとっての、パンドラの箱を開けてしまったのです。ユーミンという歌手が登場したことによって、成長し続ける日本に生きる女性達は、刹那の快楽を追求する楽しみを知りました。同時に「刹那の快楽を積み重ねることによって、『永遠』を手に入れつことができるかもしれない」と夢想するようになったのです。
　日本の女性達にそのようなうっとりとした気持ちを与えたのは、ユーミンの大きな罪です。刹那と永遠、両方を手に抱こうとした女性が大量に出現したことは、世の中にも少なくない変化を与えたのだと思う。

（ユーミンの罪　P17 15行目〜P18 8行目）

【グリンタイム】

緑さんと酒井順子さんは同じ年です。
1966年生まれは丙午。出生率は落ちていたのになぜか私の周りには10才年下の方がいらっしゃるのですね。

今夜も緑さんのお話伺い、
「9月には帰らない」を聞かせていただきました。

10月1日にライブありますよ。

空をみて、
雲を眺め
風に吹かれ
雨を感じ
ひとりで過ごすことを愛し
淡い恋を失ったばかり
そんなあの頃。

どんなに月日が流れても
切り取られた一瞬はいつまでも
「名付けて保存」してあります。

とことんユーミンはもう一度　ユーミンの原点に帰って、
より深くユーミンを味わっていきたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。















 よかったらぜひ聞いてください。

緑さんのライブ情報です！

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