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#4 平和を考えるポリティカル・アート10選

こんにちは。

 先週から急展開を見せる世界情勢に、鬱々とした気持ちになられている方も多いかと思います。私たちには戦争を非難し、できる支援をし、自分の経済活動を全うすることが求められています。だけどそれでもやり場のない暗い気持ちになるとき、アートに触れることが気持ちの処理を助けてくれるかもしれません。

 ということで、前回記事の予告内容を思いっきり無視し、ポリテティカル・アートを10点紹介します。すでに有名なものも多いけれど、今でも私たちの目を覚まさせ、ときに癒してくれる作品たちです。

掲載するアートワークには、一部の不快に感じるおそれのある刺激的なものを含む可能性があります



1. Tracy Emin - I Want My Time With You (2018)

ヨーロッパ本土からユーロスターで毎日到着する何千人もの旅行者が目にするであろう、
ロンドンのキングス・クロス駅に設置されました

「I want my time with you(もっとあなたと過ごしたい)」

ロンドン生まれ・育ちであるアーティストであるTracy Emin(トレーシー・エミン)が書いたこのラブレターは、彼女の恋人などではなくEUに宛てたもの。

Brexit(イギリスのEU離脱)が決定された際に制作を思いついたそうです。


2. Archie Boston - Boston & Boston self-promotional poster (1966)

ビジュアルの下には「差別的なデザイン組織」のために
「BOSTON KLAN(BOSTONはアーティストの苗字)」に電話するよう書かれています

KKK(クー・クラックス・クラン)と同じローブを着た黒人の姿。

 このショッキングなポスターは公民権運動の最中に発表されたそう。被写体にもなっているアーティストのArchie Boston(アーチー・ボストン)は「ポジティブであろうとネガティブであろうと、見る人の注意を引かなければならないと思った」と語っています。


3. John Giorno - Thanx 4 Nothing (2007)

過去の没入型展示会では、スクリーンでジョンのパフォーマンスとともに詩が詠まれた

2019年に亡くなった詩人John Giorno(ジョン・ジョルノ)が70歳の誕生日に創ったポエム。

 この作品は「すべての人とすべてに対する感謝」、として詠まれつつ、愛と喪失、友人と敵、セックスとドラッグ、鬱と精神、そしてアメリカに対する率直な洞察とユーモアで自分の人生を振り返っています。

 詩と音声は、こちらからどうぞ。


4. Marina Abramović - The Crystal Wall of Crying

ウクライナの鉱山で採れる無煙炭と、ブラジルのロッククォーツクリスタルを選んだそう

パフォーマンスアートの母と言われるMarina Abramović(マリーナ・アブラモビッチ)は、第二次世界大戦中のホロコーストで殺されたユダヤ人を追悼するために、ウクライナの首都にこの壁を建立しました。

 エルサレムの「嘆きの壁」にオマージュを受けたこのアートワークは、「癒しの壁」をイメージしているといいます。

"Whatever we are doing, there is always violence, there is always a war somewhere, there is always something that we should not do as people. And I love to create images that teach us: 'stop that'"
何をするにしても、常に暴力があり、どこかで戦争があり、人としてやってはいけないことがある。それを止めるための作品を創りたい。
- Marina Abramović(マリーナ・アブラモビッチ)

https://www.usnews.com/news/world/articles/2021-10-06/artist-marina-abramovics-crystal-wall-of-crying-commemorates-jews-killed-in-babyn-yar-massacre



5. (数々の)トランプ・インスピレーション

風刺画に始まり、抵抗運動からZINEカルチャーが蘇り、ネット上では数えきれない量のmeme(ミーム)が生み出され…

 アーティストだけでなく一般人の手からも、ドナルド・トランプを揶揄する作品は今日に至るまで生み出され続けています。


6. JR - Kikito (2017)

ドナルド・トランプが建てた、メキシコ移民の流入阻止のための壁

フランス人アーティストJRは、非正規移民の子供である未成年者を保護する制度「Deferred Action for Childhood Arrivals」を廃止したドナルド・トランプへの批判として本作品を創りました。

 この巨大な2歳児の写真インスタレーションは、メキシコ側に1ヶ月間展示されたそうです。


7. AWC - Q. And babies? A. And babies. (1970)

現在はSmithsonian American Art Museum所蔵

ニューヨークのアーティスト・アクティビストのグループ、The Art Workers’ Coalition (AWC)によるもの。

 写真はベトナム戦争中の1968年に行われたソンミ村の虐殺の様子を、陸軍写真家のRon Haeberle(ロン・ヘーベル)が現場撮影したもので、コピーは虐殺に参加した兵士のインタビューから引用されたもの。

 戦争の恐ろしさを一目で伝えたこの作品はあらゆる場面で掲示され、その後の抗議デモに火をつけました。


8. Güney Soykan - Face of A Nation (2016)

北朝鮮(上)とイタリア(下)

本コラージュはGüney Soykan(ギュネイ・ソイカン)により作られました。アムステルダムのWieden+Kennedyで現在もシニアアートディレクターとして働きながら、創作活動をしています。

 本作品はシンプルなデータビジュアリゼーションながら、世界のさまざまな国についての興味深く新鮮な洞察を与えてくれます。


9. Yoko Ono - Imagine Peace Tower (2007)

アイスランドのレイキャビク沖にあるヴィジィ島に設置されたパブリック・インスタレーション。「世界平和のための道標」として、光の塔の形をしている

平和な世界を実現するための創作活動を行なっているYoko Ono(オノ・ヨーコ)。

 彼女が世界中の人の願いを勇気とインスピレーションに変えるために制作したのが、このインスタレーションです。常時ライトアップされているわけではなく点灯スケジュールがあり、また有事の時も光が灯されるそう。

つい3日前の2/25にも、ライトアップされました。


10. Ai Weiwei - Study of Perspective(1995-2017)

世界中の「言論の自由や人々のエンパワーメント、あるいは私たちの社会における民主的な価値を止めたり守ったりする傾向にある組織」に向けて、中指を立てている

最後に、中国の芸術家・人権活動家であるAi Weiwei(艾未未)の作品を。シンプル明快ながら、強いメッセージング!


ここで挙げたような有名な作品をながめて、そのメッセージ以外にも気づくことがたくさんあります。

 暗い時代にもインスピレーションはあること。アーティストを並べてみると、まだまだ人種の多様性が欠けていること。もしくはそれが私の視点や特権の問題であること。たくさんの人が、生まれた国ではない場所で創作活動をしていること。

 鬱々とした気持ちが晴れるわけではないのですが、とりあえず学ぶことと自由を求めることをやめずに、今日もがんばって働こうと思えます。

 皆さんの一週間にも、平穏な時間がありますように!


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