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双極性障害と私
私は元来、元気ハツラツ!という人間ではない。
文章や写真を見てくれている人なら何となく感じてくれてはいると思うが、どちらかというと静かな人間である。
しかし、消極的という訳ではない。
チャンスを逃すまいとギラギラしている時もあるし、写真の仕事や特に音楽のライブ演奏など人前で何かする時はよく喋るし、自分で言うのも何だがそれなりに人を惹きつけるパワーが出るらしい。
行動力だって、過去にクラウドファンディングで個展を開いた時もそうだし、ライブを毎月のようにやっていた時も、「自分で行動を起こさないと」と謎のパワーが働いていた。
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ところが、20代の終わり頃から鬱状態が頻発するようになる。
様々なストレスから仕方のないことだと思っていたが、なかなか大変ではあった。
抑鬱状態になると、当然全てのパフォーマンスは落ちるし、仕事に行く事すら出来ない時もある。だが、この当時は休職などはせず休んだり遅刻したりしながら何とか働いていた。本当にいろんな方に迷惑をかけてしまったのが申し訳ない。
当然写真へのやる気や情熱も下がってしまい、写真を撮る上で一番大事な外へ出る事が出来なくなる。ただ一方で、少しでも調子のいい日に無理矢理にでも外に出て写真を撮る事で、心を安定させていた節もあった。
こういった時に撮る写真は暗い。本当に。だから2021年や2022年辺りの写真は見返してみると暗い写真が多い。だが、こういった時の写真は今見返すとなんだか愛おしく思えてしまう。不思議なものだ。
そんな抑鬱状態も、数週間ぐらい経つと落ち着き元通り元気になる。「よかった、いつもの俺だ」と安堵して生活を送る。そんな二面的な状態を繰り返すような生活が続いていたので、仲間内から冗談で「貴田さんには生理がある」と言われていた。
しかし今思うとそうやって認知してもらえるのはありがたい事でもある。
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これまでちゃんと病院に行かなかったのは休職するのが怖かったからというのがある。収入が減るのはいろいろな面を考えて避けたい。しかし周りに頼ることも出来ないのでどれだけコンディションが悪くても何とか働くしかない。(死んだ顔の人間と一緒に過ごさないといけないのだから、周りはさぞ気を遣っただろう。本当に申し訳ない)
しかしここ最近で収入面など安定したことと、さすがにもう行かないと長いスパンで考えてもまずいと思ったので、今年の6月、ようやくちゃんと病院に行くことにした。
そこで医師に自分のことを話した。
現在のことだけでなく過去の話も聞かれるので答えていく。
とりあえず話せることは全て話す。
そうした上で出てきたのは意外な言葉だった。
「聞いたお話からすると、貴田さんの状態は双極性障害にあたると思います。」
双極性障害。
詳しくは知らないが、言葉からして何となくどういう状態かは想像が付く。
「とりあえずこの冊子をどうぞ。」と医師から双極性障害についてのパンフレットを渡され、ざらっと見てみる。挿絵もついていて鈍った頭でも理解しやすい。どうやら中にはこんなことが書いているらしい。
「双極性障害とは気分が高揚する躁状態と気分が落ち込む鬱状態を繰り返す精神疾患です。治療は薬を使って気分を安定させることを目的とします。」
次に医師から補足というか、説明をいただく。
それらを聞いて過去の自分の行動などを顧みてみると、「たしかに」と思うことが山ほどあった。
いや、ほぼそうやん。そうか。俺が。そうか。
とりあえずすぐに確定の診断を出す訳ではないとのことだったが、抗うつ薬などではなく気分を安定させる薬を服用して且つ定期的に病院に通うことになる。
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医師からの話を聞いて、ショックを受けて落ち込んだ…などは無かった。むしろ冷静に自分を俯瞰できるようになった気がする。
鬱状態の時の説明がつくのは簡単だし、エネルギーに溢れていろいろやっていた時期があったのも説明がつく。
思うとそれまで比較的それぞれのスパンが長かったのが、ここ数年はストレスなどのせいで短くなっていたのではないかと感じる。情緒不安定な人間が出来上がっていた訳で、冷静に考えると恐ろしい。
そしてその後見事だと思ったのが、夏頃に躁状態に入ったのだろう、心も身体も元気でもう大丈夫だろなどと思って1ヶ月通院をサボった。
そしてその後現在、見事にやられている。
バカみたいな話だが、本当にそうなってしまう。
重度の人は躁状態になると攻撃性が増し、その結果暴力をふるうようなこともあるらしい。そうやって周囲の人や社会的な信頼を失う…それがこの疾患の怖いところとなる。
幸い私は暴力をふるうような事はなかったが、確かに発言などに攻撃性が増える時もあったような気もする。向かうところ敵無し、みたいな。若さ故かもしれないが。
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パンフレットを読んでいて「双極性障害において間違いやすいのが、鬱状態から躁状態に変わった時に『元の自分に戻った』と思う事です。」という内容に目が止まる。私が一番ショックを受けたのはここだった。まさにそう思っていた。
パワフルで何でも出来たあの時、実はあれは本来の自分ではなかった?
その時もある意味「異常な状態」だった?
そしてそう考えていくと、こんなことを考えるようになる。
「じゃあ、本来の自分とはどんな時なのか?」
「いつが本来の自分だった?もしくはそんなものは存在しなかったのか?」
「どんな時も君は君だよ」みたいなセリフは思い浮かぶが、実に簡単だと思う。今の私には納得のいくものではない。誰かに言ってもらえたら少しは違うのかもしれないが。
一応明るい自分も暗い自分も両方自分として認識は出来ている。暗い自分は芸事に関してはプラスに働く面があると思っている。だが自分というアイデンティティは本当はどこにあるのか、というのはどうしても考えてしまう。
しかし何にせよ、とりあえずは治療を続けないことには始まらないと、最近は冷静になれるようになった。
鬱状態になると頭が鈍るし(鬱の人が本を読めなくなるのは本当です)いろいろ行動出来ないのは辛いので、それを解消はしたい。結局これからも生きていかないといけないのだ。
ではこれから順調に行ってアップダウンがなくなるとしたら、自分はどうなるのだろう?
ひょっとすると少し悟りを開けるか?
もしくは何ともつまらない男が出来上がるのか?
どちらにせよ、それを自分だと認めることが出来るだろうか?
一旦はその時が来るのを楽しみに待っていようと思う。
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