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きをく

すこし前だけど、すてきな短歌へ、アンサーエッセイをかきました。よかったら読んでください。



「遠回りしたらしただけ遅くなる」
「たかが地球で?面白い人」

                奈良 啓佑


忘れてしまいたい記憶と、ずっと大切に覚えていたい記憶が、わたしのなかに同じにあるなんて不思議だ。

あのひとが好きになってくれたわたしと、あのひとを傷つけてしまったわたしが同じわたしだなんて、不思議だ。


そういうのを、陰と陽とにわけられるんだとしたら、いいのにな。



水曜日は水の日だから、近所のコインランドリーが少し安い。

行くたびに、わたしも洗ってくださいと、洗濯機に声をかけそうになるけど、安い日はやっぱりお客さんも多い。

おねがいです、プレミアムコースでなくていいから、すっかり洗い流して、乾燥までかけて、ふかふかにしてください。

テレパシーはうまくなかった。



わたしがわたしになるための条件は、わたしの中に随分多い。

二十数年ため込んだそれらに、重い腰を上げて、最近やっと断捨離をはじめた。

最初こそ手が止まったものの、あとは意外と楽なもんで、シャワーを浴びるたび、古い皮膚は勝手にペリペリ剥がれ落ちていった。

ジャーーーーー(排水口に流れ込む音)。

ため込んでた割にはあっけない。



朝、両手いっぱいの泡で顔を洗う。
伸ばしていた髪を肩の上まで切る。
ウクレレを弾くから爪を短く切る。



そういう地道なことでしかない。

毎週火曜日と金曜日になったら、燃えるゴミを出すだけ。水曜日はペットボトルで、木曜日はプラスチック。月曜日は隔週で段ボール。


いっこずつ、すこしづつ。

気づいてなかっただけで、実は毎日すこしずつ、わたしはちゃんと新しかった。

でもほんとうは髪を切ったとき、ちょっと近道しようとした。大掃除のつもりだった。


長い髪が好きだったのに、陰のとこだけすてちゃって、ふかふかになろうとしたけど、爪を切るのとさほど変わらなくて拍子抜けした。




遠回りはとにかくこわかったから、やるべきことは怠らない。だけど毎日ちゃんと歯を磨いていても、虫歯になる時もある。

そういう虫歯を受け入れられるわたしになったら、歯医者さんにいったらいいだけで、その途中にあるケーキ屋さんによることだってできちゃう。



じゃあいっか、たかが地球の中でなら、わたし、今のうちに回り道しておこう。

この道でしか見られなかった花の匂いをたっぷり嗅いでおこう。
ここでしか寄れなかったお店のミルクティーの甘さを、ねっとり舌に絡ませて味わっておこう。
こっちでしか出会えなかった友だちの声を、しっかりと抱きしめておこう。



そんなふうにわたし、たかが地球で、たかが遠回り、しておこう。



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