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『お転婆三人姉妹 踊る太陽』(1957年・井上梅次)

 石原裕次郎躍進の年となる昭和32(1957)年の正月映画『お転婆三人姉妹 踊る太陽』は、井上梅次監督が得意とした音楽入り喜劇、いわゆる“ミュージカル大作”として鳴り物入りで製作された。戦後、アメリカによる占領政策の一つとして、映画によるデモクラシーの浸透を目的として、CMPE(セントラル・モーション・ピクチャー)を通じて、1940年代に作られたハリウッドの西部劇やミュージカル映画が大量に公開された。

 戦後間もなくは、こうしたミュージカルで歌われる歌曲や、ポピュラー音楽も含めて“ジャズ”と呼んでおり、次々と上映されるハリウッド製の音楽映画は、さまざまな影響を与えることとなった。戦後、空前と呼ばれたジャズ・ブームのなかから出て来た、フランキー堺やジョージ川口といったドラマー、ビクターオーケストラを率いていた作曲家の多忠修・・・そして井上梅次監督もまたその一人だろう。

 井上は、昭和29(1954)年、新東宝で雪村いづみをフィーチャーした『東京シンデレラ娘』を演出。MGMミュージカルのような、ゴージャスな世界を目指した、ナンバーの数々を見せ場に、フランキー堺たちの至芸が堪能できる、独自の音楽映画のスタイルを創出、昭和20年代のジャズ・ブームの立役者たちの貴重な記録映像となった。その副題には“ジャズ・オン・パレード1954年”と銘打たれていた。その後、日活に移籍してからも、江利チエミを主演にした『ジャズ・オン・パレード1956年 裏町のお転婆娘』(1956年)を演出しており、その間も井上は東宝系で、江利チエミ、雪村いづみ、寿美花代の『ジャズ娘乾杯』(1955年宝塚)を作っており、年に一回“ジャズ・オン・パレード”シリーズを発表していた。

 この『お転婆三人姉妹 踊る太陽』のクライマックスのショウの名が“ジャズ・オン・パレード1957年”というのは、まぎれもなく井上自身の“年一回”という思いの現れである。さて、本作は残念ながら原板が存在しないためモノクロで収録されているが、公開時は総天然色(コニカラー)のカラフルな映像で上映された、音楽と笑いに溢れた夢のページェントだった。

 井上は、昭和30(1955)年、日活初のカラー大作音楽映画『緑はるかに』を手がけており、本作は“ジャズ・オン・パレード”シリーズ初のカラーということで製作開始時から大きな話題となっていた。

 ヒロインは、田園調布に住んでいるお転婆三人姉妹。長女は城南大学三年生でジャズシンガーの春子(ペギー葉山)、次女はバレリーナを目指す・夏子(芦川いづみ)、三女はおきゃんな女子高生・秋子(浅丘ルリ子)。ミュージカル作曲家の父・滝信太郎(三橋達也)は既に亡く、母・冬子(轟夕起子)は、洋装店を切り盛りしながら三人姉妹を女手で育てている。

 しかし、この映画の登場人物には屈託がない。ひたすら明るく楽しく、歌って踊って、人生を謳歌している。音楽シーンを成立させるための、物語設定というのも、黄金時代のハリウッドミュージカル的である。三人姉妹にはそれぞれボーイフレンドがいる、春子には大学の同級生でジャズ・バンド“ファイブジョーズ”のドラマー公仁夫(フランキー堺)、夏子にはバレエダンサーの鉄夫(岡田真澄)、秋子には近所の酒屋の息子・大助(石原裕次郎)。三人姉妹と三人のボーイフレンドの愛すべき関係と、母・冬子を秋子の学校の副校長・轟先生(安倍徹)と結びつけようとする三人姉妹の奮戦が、明るい笑いで描かれている。

 ナンバーも充実している。滝信太郎が残したミュージカル・ショウ「♪GO!GO!GO」、そして三人姉妹が自宅で再現する「♪ROMANTIC FANTASY」や、レコードリリースもされた主題歌「♪三人姉妹マンボ」などは、まさしく井上ミュージカルの味。そして、銀座のテネシー(という設定)のステージで展開される、ファイブジョーズのショウ! ペギー葉山、フランキー堺、青山恭二、津川雅彦らが繰り広げるラテンナンバーの最後に、場面をさらうのが日活の二枚目、葉山良二というオチ。そして、日本を代表するドラマー、ジョージ川口のドラムとフランキー堺のパーカッションによるリズム合戦! 前半の白眉だろう。裕次郎、フランキー堺、岡田真澄の「♪こんにちはマドモワゼル」のユーモア。

 後半、登場人物がカメラ目線で観客に向けて、ショウの開幕を告げる“踊る太陽 ジャズ・オン・パレード1957年”は、三景で構成されている。第一景はフランキー堺とジャズピアニストの市村俊幸の「♪神様と田舎者」。市村とフランキーは日活で「フランキーとブーチャンの」シリーズでコメディ・チームを組んでいた。MGMの『巴里のアメリカ人』(1951年)を意識したナンバー構成で、ゲストとして南田洋子が登場する。

 第二景「三つの恋の物語」。ACT1は月丘夢路のヴァンプな魅力が堪能でき、シンガー武井義明の歌声をフィーチャーしたアダルトなナンバー。『雨に唄えば』(1952年)のシド・チャリースを彷彿とさせる月丘の妖艶さ! ACT2は、新珠三千代のダンスとシャンソン歌手・高英男の歌が楽しめる。ACT3は、北原三枝と石原裕次郎による元気いっぱいな♪黄色いマフラー。歌劇出身の三人のヒロインのそれぞれのタイプの違いが楽しめる。

 第三景「裏町のお転婆姉妹」は、三人のヒロインの魅力がつまった楽しいナンバーとなっている。ここで唄われる「♪三人姉妹マンボ」の屈託のなさこそ、昭和30年代の“夢”にあふれている。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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