『馬賊芸者』(1954年11月17日・大映東京・島耕二)
京マチ子主演、火野葦平原作『馬賊芸者』(1954年・東京・島耕二)。大正時代、九州博多で「馬賊芸者」として慣らした鉄火芸者たちの心意気を描いた作品。「花と龍」や「新遊侠伝」など映画化作品が多い、火野葦平が「小説新潮」に掲載した原作を、島耕二監督が脚色・演出。とにかく京マチ子さんがいい。
「馬賊芸者」といえば、森繁久彌の『社長太平記』二部作(1956年)で、三好栄子さんをすぐに思い出す。その鼻息の荒さに、森繁社長が辟易するのがおかしかった。また『続々々 番頭はんと丁稚どん チャンポン旅行』(1961年)では清川虹子が「馬賊芸者」として登場、一文なしの昆松(大村崑)たちに豪快にご馳走する。「豪放磊落」というイメージで描かれている。
大正時代、博多の花街で、第一次世界大戦バブルの成金連中から、泡銭を搾りとる馬賊芸者たちの爽快さ。嫌なことは嫌、たとえお客でもピシャリ、というのが気持ちいい。京マチ子は、リーダー格の信吉。その相棒に清川虹子の清香。信吉を姉と慕う若い芸者・梅丸に白井玲子。この三人を中心に、さまざまなエピソードが展開される。
座敷で歌舞伎役者・坂東京之助(春本冨士夫)に、非礼な態度をされて、ギャフンと言わされた信吉たち「馬賊芸者」の面々。その復讐をすべく、新聞社の「九州若手歌舞伎役者人気投票」に、馬賊芸者たちは京之助の対抗馬・市川小十郎(高松英郎)を一位にすべく画策。身銭を叩いて、質屋に通って資金を作ってまで、小十郎を応援する信吉。これぞ「馬賊芸者の心意気」が描かれる。
市川小十郎を演じた、高松英郎が若く、シュッとしていて、なかなか様子がいい。その小十郎は、信吉に惚れ込んで、二人は夫婦約束。信吉は芸者をやめて堅気になるが、旅先でなんと小十郎が急死してしまう。悲しみのなか、清香の口利きで芸者に復帰した信吉は、酒に溺れる。この辺りから「世話もの」的展開となる。衣笠貞之助監督なら「ひとり寝の悲しさ」「芸者の哀れ」をしっとりと描いていくのだろうけど、そこは島耕二監督。ストーリーを推し進めていくだけでいっぱいいっぱい(笑)でも悪くない。
ある日、信吉は、人形師・白石貞次(高松英郎・二役)に、小十郎の面影をみてぞっこん惚れる。その情熱に押し切られるように、貞次は信吉の「博多人形」を創る。しかし貞次は、信吉の妹分・梅丸と相思相愛だったた。
というわけで、京マチ子の「馬賊芸者」っぷりを眺めているだけで楽しい。梅丸への嫉妬、貞次への想いを断ち切って、若い二人の駆け落ちに、ひと肌もふた肌も脱ぐ馬賊芸者・信吉の心意気がいい。そんな信吉に惚れている旦那・山辺幸太郎を演じる志村喬(東宝)がいい。この年『七人の侍』(東宝・黒澤明)、『ゴジラ』(東宝・本多猪四郎)に出演した志村喬さんのもう一つの顔が味わえる。
また、若き日の中条静夫が、梅丸の置き屋の親父を演じているのが意外や意外。信吉の朋輩芸者に目黒幸子。馬賊芸者たちが団結するクライマックスは、なかなか楽しい。1900年の廃娼運動を背景にした、芸者たちが「自由廃業」を訴えてストライキをしたことを唄った明治の流行歌「東雲節」を思い出した。