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『裸の大将』(1958年10月28日・東宝・堀川弘通)

昨夜は、ようやくDVDリリースとなった堀川弘通監督『裸の大将』(1958年10月28日・東宝)をスクリーン投影。考えてみたら「絵の出るレコード」レーザーディスクでリリースされて以来(キネマ倶楽部があったか)の円盤化であります。

もともと、成瀬巳喜男監督が演出予定だったが、シナリオ準備中に降板、門下の堀川弘通監督がメガホンを取ることに。藤本真澄プロデューサーが力を入れた「秋の芸術大作」で、東宝娯楽映画のスターがずらりと顔を揃えているのが嬉しい。エノケンさんと森繁さん以外は総出演(笑)ラストには、フジテレビ開局番組「おとなの漫画」でブレイクする半年前のハナ肇とクレイジーキャッツも登場する。

僕は小学校に上がる前、テレビで観たのが最初で、その時のインパクトが強烈で、今でも山下清=小林桂樹さんのイメージが大きい。

水木洋子のシナリオも、微苦笑のエピソードを重ねながら、戦時中から戦後にかけて「自由すぎる天才」山下清の放浪記を賑やかに描いていて、文芸作品というよりは「駅前」「社長」シリーズなどの東宝娯楽映画、通俗映画の楽しさに溢れていて、それ以上でもそれ以下でもないのがいい。だから子供の時に楽しかったのである。

山下清の物語であるが、家族や養護学校の先生との交流、細かいエピソードは娯楽映画的に脚色されていて、それゆえファンタジーとして楽しめる。つまり、観客に「重いもの」を持たせないのもいい。

八幡学園を抜け出した清(小林桂樹)は、行く先々で「自分の不運」を大胆に脚色して、その日の「おにぎり」をもらいながら放浪の日々を過ごしている。時は、太平洋戦争まっただなか、東京では外米が多くてまずいからと、白米が食べれられる地方をぶらりぶらり。

千葉の方の農家で、饅頭をご馳走になるシーンがおかしい。金持ちの爺さん(高堂国典)に「教育勅語を言ってみろ」と言われても、食べることに忙しいので、大胆に端折ってしまう。縁側に座って、清にツッコミを入れる若者(石井伊吉、ノンクレジット)の言い回しが、今の毒蝮三太夫さんのマムちゃんそのもの。

というわけで、世話焼きのおばさん(沢村貞子)の紹介で、弁当屋(有島一郎、一宮あつ子)に住み込むのだけど、その途中のバスの車掌が団令子さんで、案内する巡査が内海突破さんと、本当に次々といろんな人が出てくる。

21歳になると徴兵検査を受けなければならないので、年が明けると弁当屋から逃げ出して、次につとめるのが、軍隊御用達の食堂・魚吉(加東大介)で、この加東大介がケチで、清を利用するだけして涼しい顔。「お前のためだから」という雇主による搾取の「あるある」で、こういう役を演じると加東大介は抜群である。

それでも徴兵逃れはできないので、徴兵検査を受けるも、東條英機そっくりの中佐(上田吉二郎)に、ありがたくも「不合格」の判定を受けて・・・ 

弁当屋→魚吉に続いて、清が厄介になるのは精神病院。現在のコンプライアンスでは、このシーンは地上波放映は難しいだろうけど、千葉信男や千石規子、賀原夏子などなどの芸達者が賑やかに楽しませてくれる。

というわけで「ストーリー」を楽しむというより「裸の大将放浪記」を眺める楽しさと、昭和30年代、メディアにおける「山下清」がどんな風だったのかを体感できる。

ラスト、真岡での自衛隊のパレードのシーンに「戦争が終わったのに、なんで鉄砲を持っているのかな?」と自衛隊そのものへの疑問を呈する清。このシーンが、6歳のぼくには強烈な印象だった。すぐにコロムビア・トップ・ライトと、クレイジーキャッツによる時代の寵児への追っかけが始まるのだけど・・・

ともあれ、遅すぎたDVD化だけど、まずはめでたい、めでたい。
花火大会でおはぎを次々と平らげる小林桂樹さんの「食事芸!」それを物欲しげに見つめる三木のり平さんの表情が素晴らしい!


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