太陽にほえろ! 1973・第39話「帰って来た裏切者」
この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。
第39話「帰って来た裏切者」(1973.4.13 脚本・石松愛弘 監督・竹林進)
裕次郎さんとは日活時代からの盟友・宍戸錠さんゲスト回で、かなり日活アクション度の高いハードな作品。のちにジーパンの母を演じる菅井きんさんが錠さんの母親役でゲスト出演。
刑務所で、かつて逮捕した元戸川組の幹部・白木剛(宍戸錠)に面会するボス。「あれから5年か、長かったろ?」あとひと月で出所の白木に、ボスは九州での就職先を用意する。白木は戸川組の秘密を警察にバラした裏切り者、だから命を狙われているのだ。白木は恋人・みどりも九州に連れて行きたいと申し出る。ボスと殿下が、みどりの勤め先、新宿のバー「黒猫」に行くが、その頃みどりは来栖(川辺久造)に監禁され、その配下に針金で絞殺されてしまう。来栖は果たして何者なのか?
「ガイ者は白木の女だ」。事情を知らないマカロニに、長さんが戸川組の幹部だった白木が抗争の犯人として、自首してきた時のことを語る。回想シーンの裕次郎さんによる宍戸錠さんの取調べシーンがいい。白木の母・房江(菅井きん)が呼ばれてから、白木の態度が少しずつ軟化していく。
ボスは粘るだけ粘って、白木を落としたのだ。それに影響を受けて「落としの山さん」が誕生した秘話も。白木は出所してからみどりと一緒になることが夢だった。「警察に協力した人間が、仕返しに殺されたらどうなるんですか?」マカロニのいうことも尤もだけど「アクション映画」の世界ではそうはいかない。
やがて白木が出所する。太陽を眩しそうに見上げる錠さん。うまいねぇ。裕次郎さんと錠さん、刑務所前でのツーショット。「わざわざありがとうございます」「おめでとう」「みどりは?」「ちょっと歩こうか?」刑務所の塀の外で、ボスが火をつけたタバコをうまそうに吸う白木。「白木、みどりさんとは行けないぞ」
みどりの死を知らされる白木。顔色が一変した。「組の奴らだ!」「ホシはきっと挙げる。余計なことを考えるな」。フィルムノワールの味わい。白木がみどりのアパートを訪ねると、母・房江がみどりの供養をしている。「余計なことはするな。親子の縁は切ったはずだ」。みどりは戸川組に殺された。「俺のせいだ」とボス。「こんなことになるなら喋るんじゃなかった」と悔しがる白木。
みどりの祭壇の前に、白木の遺影を模した写真が・・・。戸川組の脅迫と思われる。「白木に組織を裏切らせたのはこの俺だ。これ以上、白木にもしものことがあると、これは俺だけの責任じゃない。この先、警察に誰も協力しなくなる」警察の威信にかけて捜査一係が本格的に動き出す。
バー「黒猫」に現れる白木。マダム満智子を演じているのは「魔法使いサリー」の声優でもある平井道子さん。このあと「宇宙戦艦ヤマト」のスターシャを演じることになる。「みどりを誰がやったのか、心当たりはねぇのかい?」首を横にふるマダム。そこへ白木に男から電話がかかってくる。「お前は、まだまだ苦しまなくちゃな。今度はおふくろさんの番だ」
母・房江の屋台に、常連客がやってくる。男はみどりを絞殺した来栖の配下である。そこへ白木が「酒くれ」。この緊張感。白木は母を心配してきたのだけど、ぶっきらぼうな態度。屋台を引きながら帰る母子。それ尾行する殿下。若い男が爆発物を仕掛ける。屋台が大爆発! 異変に気づいた白木の機転で母は助かる。若い男を追う殿下。
新宿西口の地下道から歌舞伎座へ。ミラノ座では、3月6日公開のスティーブ・マックィーンとアリ・マックグロウの『ゲッタウェイ』(1972年・監督・サム・サムペキンパー)を上映中。男は、バー「黒猫」に逃げ込む。バックに流れる、ちあきなおみさんの「喝采」。錠さんのゲスト回に、この曲! 殿下はその男・川本次郎(村井宏)をしょっぴく。面通しをするが、白木は「あんな男じゃなかった」。憤然とする殿下「次郎に間違いありませんよ」。
七曲署から釈放された次郎を尾行する長さん。その後を白木がつける。新宿から井の頭線で明大前に向かう次郎。構内のミルクスタンドで牛乳とアンパンを頼む次郎に、若い女が「ねえ、あんた刑事につけられてるよ」。女は知らない人に千円で頼まれたという。次郎は長さんを巻いて、京王線の線路に降りて向かいのホームへ。
明大前駅の乗り入れを使った追跡劇。結局、次郎は井の頭線で西永福寺駅へ。そこで白木に「ちょっとそこまで付き合ってもらおうか」。貫禄が違うね。空き地で、白木は次郎に怒りのパンチを食らわせる。さすが宍戸錠さん!「みどりをやったのもお前か!」「知らねえ」さらにパンチ。ダイヤモンドライン仕込みのアクションが炸裂。
「俺を知らなきゃ、どんな奴か教えてやる!」「もういいだろう」とボスが現れる。「白木、自分で仇を取ろうなんて思うな。お前をしょっぴくのは、もうごめんだぜ」「大人しくやられるのを待て、っていうんですか?」ボスは白木を守りたい。それがひしひしと伝わる。
一方、銀座4丁目の三愛ビル。来栖がなんと、バー「黒猫」のマダムと会っている。なんとマダムが黒幕だったのだ。戸川組の連中を使って、刑事の注意をそらしているうちに白木を殺ればいいと。そこで来栖は戸川組の西田(内田勝正)に白木の情報を流す。つまり来栖は戸川組ではなかったのだ。
西田たちは、母・房江の前で白木を連れ出し、お礼参りをする。「みどりを殺ったのは、てめえたちか」「違う」と西田。そこに母・房江が「私をお殴り」と割って入る。
しかし西田は「うるせえ」と房江を殴る。そこで白木の怒りが爆発する。逃げ出す西田たち。そこへ拳銃を持った来栖が現れ、白木親子を殺そうとする。「誰に頼まれた?組長か?」「まあ、そんなところだな」。間一髪、ボスたちが駆けつける。白木は犯行をおかさずに済んだのだ。
取調べで、来栖は、昔、戸川に恩があり、犯行に及んだことが判明する。しかし恩義だけで、みどりを殺し、執拗に白木親子を狙うのはおかしい。と山さんとボス。「執念じみてしつこいか。となると男より女の神経だな」「それですよ。このやり口は女ですよ」。そこで、もう一押し、戸川組関係の女を洗うことになる。
喪服姿のマダムが、毒を持った餌で飼猫を殺してニヤリ。もちろん黒猫である。その頃、捜査二係の刑事(玉川伊佐男)が、戸川の愛人・エトワールのホステス・満智子をリストアップしてきた。本名・木村知子。バー「黒猫」のマダムである。白木は九州に出発する前、みどりの墓参りに。小田急線の車内で白木の隣にいるのはマダム!その手には先程の毒の入った水筒が・・・
霊園へ急ぐボスたち。「みどりは幸せね。死んでからも、こんなに愛されて」「けど人間、死んだら元も子もない」「そうね、死んだらおしまいね」ああ、怖い。毒婦とはこのこと。松崎みどりの墓に花を手向ける白木。マダムは水筒からコップに酒を入れる。錠さん、それ飲んだらダメだ! 殿下の運転するクルマが霊園に到着。走るボス。
マダムに感謝の言葉を伝える白木の手には毒入り酒。走るボス。「白木!それよこせ」。ボスがマダムに飲まそうとする。逃げるマダムを殿下が逮捕!「お前は、みどりさんの霊前で自殺したことになるところだった」「あの女が事件の張本人。戸川の女だった」。ああ、女の恨みは怖いねぇ。「さあ、おふくろさんと一緒に九州に行くんだ。親孝行するんだぜ」と白木に餞別を渡すボス。去っていく後ろ姿がかっこいいね!『赤いハンカチ』(1964年)を思い出す。
今回は、宍戸錠さん、石原裕次郎さん、二人の映画スターを立たせるための「過去をめぐる現在の闘いの物語」という日活アクションではお馴染みのパターンを「太陽にほえろ!」で展開。見せ場もたっぷり。かつて娯楽映画が持っていた「面白さ」をスターのイメージとともに、テレビ映画に受け継いでいる。こういう作品に少年時代に出会えたことは、本当によかったなぁと、しみじみ思う。
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