見出し画像

『大暴れ風来坊』(1960年・山崎徳次郎)

「流れ者シリーズ」第4作!

 昭和35(1960)年の秋は、マイトガイ映画が最も充実していた。9月に「流れ者」第三作『南海の狼火』が登場し、10月には「渡り鳥」第五作にして最高作の誉れ高い『大草原の渡り鳥』が公開されている。「渡り鳥」「流れ者」両シリーズを通じ、マイトガイ小林旭と好敵手の宍戸錠の名コンビぶりがエスカレート。いわばそのピークである11月に公開されたのが、「流れ者」第四作『大暴れ風来坊』である。当初『海峡を跨ぐ風来坊』という題名が用意されていた。

 ファーストシーン。主題歌「アキラの炭坑節」にのせ、連絡船が高松に向け瀬戸内海を航行。狛林正一アレンジによるアキラ節も好調で、活劇の主題歌としてのリズム民謡も全く違和感がない。これもシリーズの成熟の一つ。タイトルが明け、藤村有弘と宍戸錠が登場。錠は、藤村のサイフを掏り、そこへ流れ者が「火を貸してくれ」とそのサイフを取り戻す。山崎徳次郎監督の演出は、荒唐無稽であるこのシリーズの本質をとらえ、ほとんど喜劇的なシチュエーションでオープニングを飾る。

 今回の錠の役は「呑む打つ買う」で僧籍を剥奪されたズーズー弁の「十字架の政」。牧師のスタイルで四国巡礼の笠を被っているのが実にユニーク。流れ者=野村浩次も赤いシャツにアイビールックのハーフコート、そして煙草をくわえて、どうみてもヒーローというより、兄ちゃん風である。叙情性を第一にしている「渡り鳥」と違って「流れ者」は、実にコミカルでファンタスティッックである。錠とアキラのコンビネーションも『大草原の渡り鳥』で頂点を極めている後だけに、ノリが違う。「アキラ節」で培ったイメージと、無国籍映画の荒唐無稽さ。キャストもおなじみ、浅丘ルリ子の可憐なヒロイン、白木マリのヴァンプぶり。ルリ子の一家を狙う悪の奸計。ルーティーンの楽しさ、それぞれに拍車がかかっているようでもある。

 例えば、十字架の政と白木マリの関係。毎回、どちらかがどちらかを追ってやってくるというパターンのなかで、二人は「清い仲」を貫こうとする。殺し屋と情婦なのに、流れ者についた「兄と妹」という嘘を貫くためプラトニックな関係でいようとするおかしさ。

 悪役の藤村有弘のユニークさもシリーズ随一。四国高松に東洋のモナコを作ろうと、ルリ子の父親の石油コンビナートの土地を狙っているワルなのだが、ドジョウ髭の怪紳士ぶりは、コメディーリリーフ的存在でもある。

 「流れ者」「渡り鳥」の類型を崩しているのは、ルリ子の父親役の北沢彪。戦前からのベテラン演劇人だが、本作ではただの善人的被害者ではなく、愛人であるマダムに店を出させ、ギャンブルも嗜む柔らかい面も持ち合わせている。逆にそれが仇となり、事態は深みに嵌ってゆくのだが。

 そしてキャバレーで、悪漢たちが待ち構えているなか、マイトガイがギター片手に「アキラ節」を歌うシーンも、本作でついにピークを迎える。白木マリがチンピラに「アタシの相手になれるような男はそこらへんに転がっているもんか!」とタンカを切ると、「ここに一人だけいるぜ」と錠。運命の二人の再会である。襲い掛かる悪漢に十字架をチラつかせ「俺は根からの平和論者なんだ」と錠。大乱闘が始まり、錠が銃をかまえると口笛。そして足のアップからギター片手の流れ者が「サノヨイヨイ〜」と「アキラの炭坑節」を歌い出す。

 この瞬間、観客もチンピラも唖然としながら、その歌声に惚れ惚れとする。ルーティーンもここまで来ると天晴れで、呆然とするチンピラから白木マリが拳銃を回収する細かさ! 流れ者は「炭坑節」を二番まで歌い、ライバル同士のコミカルなやりとりで事態が収束していく。これこそマイトガイ映画の醍醐味。さらに再会した錠と白木マリが競輪場でデートをするというおまけまでついているのだ!

 本作では『海を渡る波止場の風』で初登場した「ズンドコ節」も再登場するが「ズンズンズンドコ」というレコードの歌い出しを映画でするのは、64年の『さすらいの賭博師』まで待たねばならない。

 さて、十字架の政の言語感覚のおかしさなど、シリーズの中で、もっとも喜劇度が増し、レギュラー陣の親和力もグッと増した本作は、幸福なクライマックスを迎える。なんとライバルである十字架の政と白木マリが「グッと仲良く」駅まで見送りに来る。毎回、慕情をたたえて見送りに来るルリ子を探す流れ者。汽車は出発し「サノヨイヨイ〜」と「アキラの炭坑節」が流れる大団円。

 宍戸錠のダイヤモンドライン参加により、二人の喜劇的なコンビネーションは実質的に本作が最後となるが、「流れ者」は61年4月の『風に逆らう流れ者』へと続くことになる。

日活公式サイト

web京都電影電視公司「華麗なる日活映画の世界」


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。