『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』(1960年・野口博志)
原作は、都会的な活劇やユーモア小説を得意としたモダン感覚あふれる城戸禮。なかでも竜崎三四郎を主人公にした「三四郎」シリーズは代表作となり、1955年の「地下鉄三四郎」から1995年の「勇猛ダイナミック刑事」まで40年、書き続けた。1956(昭和31)年には、東映で堀雄二主演の『竜巻三四郎』『地下鉄三四郎』『浅草三四郎』と立て続けに映画化された。この「三四郎」シリーズを、日活アクションとして映画化したのが『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』だった。ちなみに『大学の暴れん坊』(1959年)も城戸禮の「三四郎」シリーズの映画化で、赤木は竜崎三四郎を演じている。
脚本は小林旭の「渡り鳥」「流れ者」で日活アクションの一時代を築くことになる山崎巌。主人公は竜崎三四郎から剣崎竜二と改名され、日活らしいアレンジで、ファンタジックな世界が作られる。「渡り鳥」「流れ者」の好敵手役として絶好調の宍戸錠が、ここでもライバルの殺し屋・コルトの銀を演じている。トニーとのコミカルな会話、敵対しながらも交わす友情など、早くもシリーズ化を匂わせるようなルーティーンの魅力に溢れている。
剣崎竜二は、相手を殺すことなく、肩を射ぬくだけで利き腕を不自由にさせてしまう“抜き射ちの竜”の異名を持つ遣い手。「殺し屋」ではなく「拳銃のプロ」。銃を捨て、堅気になろうと思っているが、過去の事件やヒロインをめぐる状況がそれを赦さず、暗黒街で戦いを続けざるおえない。一方、コルトの銀は、「殺し屋のプロ」で、竜を最大のライバルと目している。自分の手で竜を仕留めること、それがプロの誇りでもある。
この年、日本の若者たちに空前のガン・ブームが席巻、その端緒となったのが日活アクション。この「拳銃無頼帖」は、拳銃のディティールを、実にマニアックに描いている。竜の愛銃は、ルガーのオートマチック。敵対する錠はもちろんコルト45口径。
開巻、組織のボスを倒すため竜二が、夜の雨の中、相手の肩を射ぬこうとすると、物陰から何者かがボスを射殺。竜二は、その場で麻薬の禁断症状で倒れてしまう。その竜二を助けるのがコルトの銀。銀が「よろしくな」と挨拶すると、竜二「ダチ付き合いは迷惑だ」と答える。銀「迷惑?」。その時の宍戸錠の表情がいい。このシーンで、二人の関係性がはっきりする。
銀は竜二を銀座の洋装店“ルガー”へ連れてゆく。そこで美しい女性・みどり(浅丘ルリ子)とぶつかり、みどりがルージュを落とす。竜二がそれを拾って渡そうとすると、コルトの銀が制する。「きっかけってものは最大限に利用するんだ」。なんと竜に恋愛指南するのだ!
この洋装店は、銀のクライアントの中国人ボス・楊三元(西村晃)の店で、楊は「“抜き射ちの竜”いうレッテル、あなた死なない限り消えませんね。あたくし、そのレッテル買いたいです」と持ちかける。しかし断る竜二。このシーンの西村晃の怪演は、実に魅力的だ。日活アクションでは定番のカタコトの日本語を使う外国人の冷酷なボスを、西村晃が時にはユーモラスに演じている。喜劇的状況スレスレなのに、妙なリアリティがあるのは、登場人物のキャラクター造型が豊かだから。ユニークな登場人物たちにより、日活アクションのファンタジックな空間が彩られている。
それは、楊の片腕で、なんと中華料理店の名コックである張に扮した藤村有弘もしかり。藤村の怪演を眺めているだけでも楽しい。竜二の手をとって「アンタの手相、申し分ない手相してる。まともに行けば、アンタ王者になれる」と手相を見る。そこへ銀が「インチキな手相に騙されるな」と横やり。張「私の手相、嘘ないよ!。あんた(銀)の手相、一番タチの良くない手相してる。この人(竜二)の手相、イイ星してる」と反論する。
敵対しながらも協力関係にある竜二と銀のやりとり。堀田重四郎(二本柳寛)殺しを命じられた二人だが、銀が堀田の愛人まで殺したことに原を立てた竜二が、銀を「馬鹿野郎」と殴る。顔から出血する銀、「俺のツラに色を着けたのは、おまえで三人目だぜ。前の二人は墓の下でオネンネしてらあ。やるかい?」。ここで竜二と銀の対決か、と思いきや、車のクラクションが鳴って、銀「どうやらお預けらしいな」となる。
クライマックスの対決でも、横から邪魔が入ると、銀は狙撃者を倒す。「お前を他の奴に殺させたくないのさ。卑怯な手でな」。今までのことを全部水に流そうという竜にも「俺はいいんだよ。だがこのハジキが承知しねえんだ」。どこまでもコルトの銀としてのプライドを守る好敵手。
ラスト、絶命の瞬間「恋人によろしく」という囁く銀のダンディズム。このシリーズの魅力は、竜と錠の魅力的な会話、ディティールの豊かさにある。
ちなみに、主題歌「黒い霧の町」(作詞・水木かおる 作曲・藤原秀行)は赤木のデビュー曲。ポリドールに全25曲(宍戸錠とのデュエットも含めて)の録音が残されている。
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