『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』(1963年・鈴木清順)
日活ダイヤモンドライン第四の男として『ろくでなし稼業』(1961年・齋藤武市)でコミックアクションの新境地を拓いた宍戸錠。以来、数多くのアクションに主演。鈴木清順監督とは『踏みはずした春』(1958年)以来のコンビ作となったのがこの『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』である。原作は大藪春彦。脚本は「渡り鳥」「流れ者」シリーズの山崎巌。これぞ日活アクションの楽しさが詰まった一編となっている。
このすぐ後に宍戸錠主演で『野獣の青春』を撮ることになる鈴木清順だが、本作は作家の映画というよりプログラムピクチャーの楽しさを追求している。オープニングの派手な銃撃戦。危険屋の異名を持つ「探偵事務所23」の所長・田島英雄(宍戸錠)の初登場場面は、007もかくやのカジノで可愛い子ちゃんとヨロシクやっているというのもいい。その踊り子・サリーには、ダンサー出身の星ナオミ。
ユニークといえば、事件の真相をともにさぐる金子信雄の熊谷警部。いつもの「渡り鳥」「流れ者」の悪役とは違い、マンガチックで飄々とした味の警部を好演している。「探偵事務所23」をめぐる人々も一癖も二癖もある。助手の堀内はどこか間抜けのお人好し。名バイプレイヤー土方弘が実に楽しげに演じている。原作では男性という設定の実話雑誌「週刊スキャンダル」社長には初井言栄。ニックネームはオバチャン。警察署の前で行われる銃撃戦をテレビ中継で、酒盛りしながら観るシーンの可笑しさ。この役を女性に置き換えたのは清順監督のアイデアだという。
ファンキーなテイストのジャジーなテーマ音楽は、日活ムードアクションなどでその冴えた感覚を見せた名手伊部晴美が担当。宍戸錠の軽みとファンキーなサウンドが実に魅力的。
清順映画では屈折したキャラクターが多い川地民夫が演じた、事件の鍵を握る真辺のキャラ作りも凝っている。警察から久々に釈放され、情婦・楠侑子のもとへシケ込んだ真辺はサディスティックで嫉妬深い。そこに田島が現れても怒るどころか、観られると興奮するのか、そのままコトを続ける。田島は一言「お前、案外悪趣味だな」。
悪のボス・畑野にはベテラン信欣三。六本木のクラブ「エスカイア」がそのアジトになっている。老獪なボスの情婦として登場するのがヒロイン千秋の笹森礼子。錠とは共演作の多い笹森礼子は、赤木圭一郎や小林旭映画の清純派ヒロインとして活躍してきたチャーミングな女優。大きな眼が印象的で、この映画の翌年に結婚して映画界を引退。この千秋のキャラクターは、コメディ感覚あふれる本作のなかでも異質な存在。男性機能を果たさないボスの情婦ということで、その純潔が守られている。男を知らない情婦。
『オペレッタ狸御殿』(2005年)で本格的ミュージカルを完成させた鈴木清順のミュージカルセンス溢れる名場面が「♪63年のダンディ」のシーン。田中一郎という偽名で信欣三の配下となった田島が、クラブ「エスカイア」で、ファーストシークエンスで置き去りにした踊り子サリーとバッタリ。そこでサリーがうたうのは、「♪誰かに良く似た男が来ている〜」と田島への恨みつらみ、バレてはマズいと田島も一緒にチャールストンを踊り出す。このシークエンスは延々4分もある。サリーの歌とダンスが始まってからの、ボスたちのドラマの展開と、ダンスに興じる主人公の心情交換が、歌と踊りでリンクする幸福な瞬間。本作のハイライトの一つである。真っ赤なドレスの星ナオミが実にチャーミング。日活脇役女優の一人として活躍した人だが、コメディエンヌとしてのセンスも抜群。こうした場面がもっと観たかった。
音楽シーンといえば、中盤に田島が千秋にジャズ喫茶でキスを強要するふりをシーン。女性歌手がツイストを踊りながらうたっているのは、牧村旬子の「ロンリー・ラブ・ウイズ・ユー」。小林旭の『夢がいっぱい暴れん坊』(62年)でもうたわれていた。その時の音源を流用している。
後半、ガソリンスタンド地下のアジトに閉じ込められ絶対絶命の田島と千秋が、脱出する手も清順監督らしさに満ちている。マシンガンで地下から路上を射抜くという発想自体、ガンファイターである宍戸錠にはなかったもので、錠自身は抵抗があったとか。しかし、その「あり得ない」シーンを成立させてしまうのが、コミックアクションの楽しいところ。
本作の好評を受けて、日活はこの年の7月7日にシリーズ第二作『探偵事務所23 銭と女に弱い男』を封切ることとなる。監督はこれがデビュー作となった柳瀬観。
宍戸錠と鈴木清順は、この映画から三ヶ月後の4月21日公開の傑作『野獣の青春』で再びコンビを組み、日本映画の伝説を作ることになる。
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