『続社長千一夜』(1967年・松林宗恵)
「社長シリーズ」第27作!
正篇から五ヶ月後、昭和42(1967)年6月3日、三船プロダクション製作の小林正樹監督『上意討ち 拝領妻始末』と二本立てで公開されたシリーズ第27作。「社長シリーズ」は基本正続篇で、間を開けずに公開されていたが、シリーズでは最長のロングタームとなった。
前作に引き続き、ドラマの中心となるのが、フランキー堺演じる日系ブラジル三世、ぺケロ・ドス・荒木。曽祖父生誕の地、九州熊本は天草に外国人向けホテル(台本や資料ではホテル・パーランド)を、庄司観光会社とのプロジェクトで建設することが決定。さらには、高崎山自然動物園で出会った、九州の芸者・はる美(藤あきみ)との結婚も決まり、万々歳のハッピーエンドで前作は終わったが・・・
庄司観光会社では、社長・庄司啓太郎(森繁久彌)、常務・金井鉄之介(加東大介)、開発部長・木村信吾(小林桂樹)、本社営業部長となった飛田弁造(三木のり平)たちは、来るべき大阪万博に備えて、外国人誘致対策を練っていた。
C調な飛田部長は、日本中の芸者を集めて、富士山の麓に芸者ハウスを建てて、リゾートホテルに外国人を誘致する「芸者ガールとマウント富士のドッキング」という珍妙なアイデアを出す。のり平さんらしい無茶苦茶な発想で、社長たちは一笑に付すが、意外な展開となっていく。
そこへ、ブラジルから愛妻・はる美を連れて再来日したぺケロが、庄司観光会社を訪ねてくる。庄司社長と、秘書課の若手社員・小川次郎(黒沢年男)に、荒木家秘伝の南米原産の強壮剤「ガラナエキス」を手土産に持ってくる。これは「浮気にバッチリ」と庄司社長が服用するシーンがおかしい。怪しい照明に音楽。フランキーの声で「ガラ~ナ。ガラ~ナ。いろいろガラ~ナ」それだけなんだけど、怪しさ満点でおかしい。
飛田部長は「ガラナ」がもらえずに大いにクサるが、26歳の独身青年・小川には必要ないだろうと「3000円で譲ってくれ」と持ちかける。しかし社長も同じことを考えていて、結局、社長が5000円で「ガラナ」を独り占め。
お座敷で、昔馴染みの芸者・和歌代(草笛光子)と再会した庄司社長。アフターにホテルのラウンジへ。これはチャンスと社長、準備万端「ガラナ」を服用して、いよいよという時に、和代は「今日はダメなの」とあえなく振られてしまう。ならば家に帰って女房・邦子(久慈あさみ)にモーションをかけるがこれも不発。
浮気が未遂に終わるので「社長シリーズ」は奥様方にも安心して観てもらえた。と松林監督。成功しなければ、どんな展開でもOKと、様々なバリエーションが生まれ、それがこのシリーズの「お色気」となってきた。
『社長紳士録』(1964年)で小林桂樹とゴールインした司葉子。昭和40年代に入ってからの「社長シリーズ」では、小林桂樹&司葉子夫妻の物語がサイドストーリーで展開される。『社長忍法帖』(1965年)で出産、『社長行状記』(1966年)では、桂樹夫妻の息子が目黒区八雲幼稚園に入園。社長の孫も同じ幼稚園に入って、久慈あさみと司葉子は「ママ友」となり、夫たちの浮気に対する防衛線を張り共闘関係となる。ちなみにこの八雲幼稚園は『クレージー黄金作戦』(1967年)の冒頭で植木さんが「万葉集」を歌うシーンに登場することになる。今回は、社長の孫と、木村夫妻の息子が同じ小学校に通っていて、運動会に社長と木村も参加して父兄の騎馬戦に挑戦する。
さて、なんとしても成功させたい社長、次のチャンスに和代とランチタイム・アバンチュールを楽しもうと、和歌代の誘いで築地本願寺裏の旅館「小川」にしけこむ。シリーズには、しばしば築地の「東家」旅館が登場してきたが、この「東家」は、各社の映画監督やシナリオ作家が「缶詰」になってシナリオを執筆していた旅館。「社長シリーズ」の笠原良三も、ここに籠もって執筆。その取りまとめをしていたのが、東宝文芸部の社員・田波靖男。笠原担当だった田波は、「サザエさん」「社長」「お姐ちゃん」シリーズのシナリオの取りまとめを通してシナリオ修業して、笠原とともに東宝娯楽映画を支えていくシナリオ作家となる。
社長室に和歌代からの電話がかかってくるシーンがおかしい。本社営業部長となり連日の宴会三昧の社用族・飛田部長が経費の承認をもらいにやってくるが、社長はにべもない。そこへ和代からの電話。社長がデレデレしている間に、飛田部長が勝手に判子を押させてしまう。まったくイイ加減だが、それがおかしい。
さて築地の旅館で、和歌代としんねことなり、いよいよ男子の本懐!というときに、またしても邪魔が入る。
ぺケロの妻・はる美が失踪してしまう。もともとぺケロを生理的に受け付けていなかったはるみは、ブラジルに嫁入りしたものの、嫌で嫌で仕方なく、でもカソリックで離婚はできない。ならば日本に帰国したときにと失踪。再び花柳界に戻って、ぺケロを困らせようと計画をしていた。
愛妻が行方不明のぺケロの意気消沈ぶりがおかしい。社長は手を焼き、仕事にならない。「パンドラ」のマダム・鈴子(新珠三千代)を頼って大阪にいるとの情報で、庄司社長は小川、ぺケロとともに飛行機で大阪へ向かう。
今回、ビジネス上のシリアスな展開はなく、ただただ、ぺケロの狼狽振り、それにほとほと困り果てる庄司社長の物語が展開される。つまりフランキーさんの珍妙な演技をただただ楽しむための展開で、小林桂樹の開発部長の存在感は薄い。
で、結局はるみは、大阪の鈴子ママのところから、東京の芸者・和歌代のもとへ行き、お座敷に出る準備をしていた。おそるべし社長の浮気ネットワーク。結果的にマダム、芸者が連携しているのだ(笑)
こういう時に役に立つのが、C調な社用族・飛田部長。みずから置家に交渉に行き、身体を張ってはるみとお座敷遊びで勝負。無事、勝利をして、はるみはぺケロと元の鞘におさまる。
さらに、はるみの夢をかなえるべく、飛田が提案したのが、くだんの「芸者ガールとマウント富士のドッキング」プラン。「ペケロ夫人が芸者にカムバックしたなら、いっそのこと、新ホテルに一流のゲイシャガールを集め、彼女らの指導をしながら経営に当ってもらおう」となる。ナントモハヤだが、娯楽映画なのでノープロブレムである。
さて、シリーズの笑いを支えてきた三木のり平とフランキー堺は、この『続社長千一夜』を、最後にシリーズを降板してしまう。厳密には次作『社長繁盛記』にも出演予定だったが、製作準備中に二人の降板が決まる。プロデューサーの藤本真澄が、何かの折に「(社長シリーズは)高いギャラの役者ばかりだが、みんなが束になっても植木(等)一人にはかなわない」と失言。それに対して、フランキーが憤然となり「ならば降りる」と宣言、それを聞いた三木のり平も意気に感じて、一緒に藤本に「降りる」と降板を告げに行ったとか。
ともあれ、次作『社長繁盛記』は、さらなる「若返り」を狙って、谷啓、小沢昭一が参加して、三木のり平とフランキー堺のポジションを演じることになる。