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『ギターを持った渡り鳥』(1959年・齋藤武市)

「渡り鳥シリーズ」第1作!

 昭和34(1959)年、舛田利雄監督の『女を忘れろ』で、純情可憐なヒロイン浅丘ルリ子の慕情を断ち切り、彼女のために東南アジア某国の秘密情報員(!)となった小林旭の主人公。続く『南国土佐を後にして』(齋藤武市監督)では、ダイスの眼と呼ばれるすご腕のギャンブラーを演じ、日活アクションに「無国籍」というジャンルを芽生えさせたスターである。『南国土佐を後にして』は、ペギー葉山のヒット曲をフィーチャーした歌謡映画として企画されたものだが、風光明媚な地方ロケのローカリズム、賭博とアクション、そしてヒロイン浅丘ルリ子などの構成要素は「渡り鳥シリーズ」の原型的作品となっている。

 そして昭和34年10月に公開された『ギターを持った渡り鳥』は、マイトガイ・アキラの世界を確立した記念碑的作品であり、「渡り鳥=滝伸次」の活躍は八本に及ぶシリーズへと発展。九本目の『渡り鳥故郷へ帰る』(62年・牛原陽一)はタイトルこそ「渡り鳥」であるが、主人公が全く別の人物「滝浩」でパターンも違うため、便宜上シリーズということにはなっているが、ここではカウントしない。

 フラリと地方都市に現れた渡り鳥が、ヒロインの実家の農場などの利権が悪のボスに狙われている状況に遭遇。それを超人的活躍で解決し、彼女の慕情を断って去ってゆく。これが「渡り鳥」シリーズのパターンである。同時期、山崎徳次郎監督によって連作された「流れ者」シリーズ(5本)もほぼ同じ。宍戸錠(ダイヤモンドライン参加後は、藤村有弘・郷鍈治)のライバルとの決着のつかない戦い。キャバレー(ほとんど悪の組織の経営)で、ギター片手に自慢のノドを披露し、抜群の運動神経で繰り広げるアクションなど。シリーズものならではのルーティーンを確立して、理屈抜きの娯楽活劇として、ほぼ三ヶ月に一本ずつ(「流れ者」を加えればほぼ毎月)のハイペースで製作されていた。

 小林旭のヒーローは『南国土佐を後にして』で故郷を喪失してから、孤独な放浪者として旅を続けている。旅先でヒロイン浅丘ルリ子と心を通わすことがあっても、決して定住したり、結ばれることはない。その孤高性の出発点は『南国土佐を後にして』で語られている「主人公と戦争」という問題。国家に殉じて戦死した兄を持つ主人公が、個人として生きるためにギャンブラーとなる。家族や社会との関わりを断絶した上での“個”なのである。

 渡辺武信氏の名著「日活アクションの華麗な世界」(未来社)で指摘されているように、その「個」を貫くため、故郷を喪失して放浪を続け、やがて毎回のルーティーンを通じてそれがファンタジックなヒーローにまで昇華されてきたのが「渡り鳥」であり「流れ者」なのだ。

 ファンタジックなヒーロー。渡り鳥=滝伸次は非現実的なキャラクターである。ギターを片手に自慢のノドを披露している間、悪漢達はファイティングポーズをしていても決して手を出すことが出来ない。脳天を突き抜けるような旭の歌声の素晴らしさは、悪漢をも魅了してしまう! 大抵は馬に乗って現れ(第一作では馬車の荷車だが)、船に乗って去ってゆくヒーロー。昭和30年代という時代を考えても、それは極めてファンタジックなことである。

 この第一作では滝伸次はまだ背広を着ていたり、神戸で麻薬捜査官だったという過去が描かれているが、回を追うごとに「渡り鳥」は現実離れしたヒーローとなってゆく。

 『ギターを持った渡り鳥』の舞台は函館。金子信雄のボスがレジャーランド建設をもくろんで、妹・中原早苗と義弟・木浦佑三の土地を奪おうとする。浅丘ルリ子は金子信雄の娘。父が暗黒街のボスだということを知らない。渡り鳥は、金子信雄の用心棒となるが、麻薬取引のためにやって来た神戸からの客人・宍戸錠にその正体を疑われる。

 麻薬取引の船上で渡り鳥と錠の拳銃による対決が行われようとするが、保安庁の巡視艇によって中断されてしまう。以後、旭と錠の対決は繰り返されるが、決着を見ることはない。そのルーティーンは、やがて好敵手同士の不思議なシンパシーとなって、観客を魅了していく。

 主題歌「ギターを持った渡り鳥」はタイトルバック、エンディングの他、劇中でも唄われる。毎回、滝がギターのソロでメロディを奏でる場面はロングショットで、ヒーローの孤独感が強調される。船上で唄う「地獄のキラー」はシングル主題歌のカップリングとしてコロムビアから、この年の10月20日リリースされた。

 この作品の成功がシリーズを発展させ、小林旭は文字通り、石原裕次郎ともに日活のリーディング・アクターとなり、日活アクションの世界が花開くことになる。

日活公式サイト

web京都電影電視公司「華麗なる日活映画の世界」


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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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