『続社長繁盛記』(1968年・松林宗恵)
「社長シリーズ」第29作!
昭和43(1968)年、映画界は空前の「やくざ映画」ブームだった。前作『社長繁盛記』(1月14日)と同日に、東映では鶴田浩二の『博奕打ち 総長賭博』(山下耕作)、その前日の日活では石原裕次郎・高橋英樹・小林旭の『遊侠三国志 鉄火の花道』(松尾昭典)と渡哲也の『無頼より 大幹部』(舛田利雄)、大映は市川雷蔵の人気時代劇『眠狂四郎 女地獄』(田中徳三)と勝新太郎の『悪名十八番』(森一生)と、やくざ映画やアウトローの男性活劇ばかり。
「明るく楽しい東宝映画」だけが明朗娯楽映画を連打していた。『続社長繁盛記』が公開されたのは2月24日。同時上映は、中村吉右衛門主演、脚本・監督新藤兼人の『藪の中の黒猫』だった。映画の斜陽に歯止めがかからなくなっていた。そうしたなか、石原裕次郎と三船敏郎はそれぞれのプロダクションの製作による超大作『黒部の太陽』(熊井啓)が、前週2月17日にロードショーされて大きな話題となっていた。
映画界も大きく変わりつつあったが、森繁久彌の「社長シリーズ」だけは「変わらないこと」を身上に「大いなるマンネリズム」を貫いていた。前作から、三木のり平のポジションである谷啓の第二営業部長・赤間仙吉、フランキー堺からバイヤーを引き継いだ小沢昭一の范平漢の悪ノリぶりはますますエスカレート。さらに黒沢年男の秘書課のヤングパワー・田中徹の生真面目な直情径行ぶりが、森繁社長の不真面目ぶりと正反対で、笑いもエスカレート。
今回のテーマも「若返り」。総合商社・高山物産社長・高山圭太郎(森繁)は、会長にして義父・柿島伝之助(宮口精二)に檄をとばされ、幹部社員に「若返り」のための方策を命じる。秘書の田中は、伝之助の影響で少林寺拳法に夢中。そうしたなか、総務部長・有賀勉(加東大介)の発案で、幹部社員の体力テストを開催。
行きがかり上、高山社長もハッスルしているかのように見えるが、本当は辟易していた。体力テストの前夜、高山社長は自宅で、長女・典子(松本めぐみ)、次女・照子(池戸良子)とともに反復横跳びの練習をするも、妻・厚子(久慈あさみ)の大事にしていたチェコ製のランプを壊したりと大騒ぎ。
ヒステリックに怒る厚子から逃げる社長がおかしい。庭にの灯籠に隠れてやり過ごそうとする姿は、まるでいたずら小僧。今回の森繁社長は、会長や妻から逃げてばかり。物語もいつもより他愛なく、喜劇映画として笑っているうちに展開していく。
さて高山物産株式会社体力テストで、張り切って好成績を残した高山社長は、その翌日、かねてからネゴシエーションしてきた四国の火力発電所を明治村に寄贈する地鎮祭のため、明治村に向かう。
プライベートでも「若返り策」を実践しようと、高山社長、銀座の美人マダム・秋子(浜木綿子)と犬山のホテルで密会の約束をする。しかし、地鎮祭の鍬入れでぎっくり腰、結局、浮気はまたしても未遂に終わってしまう。
さて後半は、四国の今治にある造船所へ、第一営業部長・本庄健一(小林桂樹)懸案の船舶レーダーを売り込むために、高山社長と本庄部長、田中秘書が今治へ乗り込む。久しぶりに小林桂樹と森繁のコンビネーションが楽しいシークエンスだが、先方の指定で向かったのが奥道後温泉のホテル奥道後。
1960年代から70年代にかけての映画やテレビでは、この「ホテル奥道後」がタイアップでよく登場している。昭和38(1963)年に開業、近接の奥道後遊園地とともに、一大レジャーランドとして、東京五輪から万博にかけての四国最大のテーマパークだった。この映画には奥道後遊園地名物のロープウェイ、錦晴殿、ジャングル風呂が登場する。特に京都の金閣寺を模した「錦晴殿」のシークエンスが、小沢昭一の范平漢の最大の爆笑シーンとなる。偶然、赤間部長と商談で奥道後にやってきた范平漢。「キンカクシ」を連発して、なんとか中に入ろうと大騒ぎする。柵を乗り越え、金箔をナメて、ほとんど小沢昭一のアドリブで、ムチャクチャなことになる。
そこへ居合わせた高松芸者・小花(沢井桂子)に、「ワタクシは知ってるョ。あれは高松の接客婦だ」「接客婦、一同に集めて奥道後に遊ぶ。いずくんぞ楽しからずや」と大はりきり。さすが「寝食のために働く」男である。夜の宴会では三味線を胡弓のように弾いて、中国民謡を歌う范平漢。誰も見向きもしないのがおかしい。
で例によって、棚ボタで、小花から混浴のジャングル風呂に誘われた高山社長、なんと風呂の入り口で妻・厚子と義母にバッタリ。大変な一夜となってしまう。
こんな社長の行状に付き合わされてプライベートが犠牲になるのは、小林桂樹時代から秘書の悩み。田中秘書も、意中の中山めぐみ(酒井和歌子)との関係が怪しくなって、それゆえ、だんだん荒れてくるのもおかしい。この映画の一ヶ月後、3月27日、黒沢年男は酒井和歌子とのコンビで、傑作青春映画『めぐりあい』(恩地日出夫)に主演。この年の東宝青春映画を、内藤洋子とともに担っていた、酒井和歌子のアイドル的な可愛さがここでも炸裂している。
谷啓さんに話を聞いたときに、クレージー映画で若者役が多かった、この時期に『社長繁盛記』で部長役を演じたのは楽しかったと、もっとシリーズに出たかったと話してくれた。「釣りバカ日誌」シリーズで佐々木課長を演じるきっかけも、この赤間部長役だったと伺った。
時代は変わっても「社長シリーズ」は次作『社長えんま帖』(1969年)へと続こととなる。