見出し画像

『拳銃無頼帖 明日なき男』(1960年・野口博志)

 1960年のトニーの快進撃は、留まるところを知らなかった。8月の『不敵に笑う男』に続いて、9月17日公開の『海の情事に賭けろ』、10月22日公開の和製ウエスタン『幌馬車は行く』でも三作連続で野口博志監督とコンビを組み、「渡り鳥」シリーズの斎藤武市監督とは11月22日公開の『錆びた鎖』で顔合わせ。一作ごとに、トニーの存在感、魅力、そして演技力は増して、スタッフや共演者たちも、その急成長ぶりを実感していた。

 さて、この年、早くも四作目となる『明日なき男』は、こうした状況のなか、満を持して作られた。前作『不敵に笑う男』のラストで、好敵手・宍戸錠扮する謙は、自首をして、ファンの次回作への期待も高まっていた。

 開巻、“抜き射ちの竜”こと壇竜四郎(前作と同じ役名)が、海に拳銃を投げ捨てたところでタイトル。第1作『抜き射ちの竜』以来の主人公が拳銃との訣別を決意するも、状況がそれを赦さない、というパターンを踏襲している。 

 今回の舞台は岐阜市。ライバルの“コルトの謙”(宍戸錠)が入院したとの報せを受けて、壇竜四郎が、岐阜駅に降り立つ。ライバルのお見舞い、という設定そのものがいい。トニーと錠のコンビネーションで、このシリーズが成立しているのを、作り手が理解している。プログラムピクチャーの良さである。

 しかし謙の入院はガセネタで、竜四郎はこの土地の暗黒街のトラブルに巻き込まれてゆく。拳銃不法所持で、留置所に入れられてしまう竜四郎。牢の中にはもうひとりの男がいる。

 男は竜四郎が拳銃不法所持で挙げられたと聞くと「ほお、お前、ハジキが使えるのか?」、竜四郎「前には多少いじったことがあるが、今は辞めた」。

そこで男は「おまえ程度の男はやめといたほうが良いだろう。拳銃でメシが食えるようになるのは大変な苦労だから」。

竜四郎「そんなくだらねえ事でメシ食ってる馬鹿野郎がいるのかい?」。

男「“抜き射ちの竜”とか“コルトの譲”とかいうクラスになりゃ、大したもんさ。おまえだって名前ぐらい聞いたことがあるだろ?」。

竜四郎「ああ、名前ぐらいは聞いたことがある。だけどそいつら、そんなにうめえのか?」。 男「うまいの何のって、4年後の東京オリンピックに出してえくらいさ」。

 ほとんど清水次郎長の「三十石舟」の森の石松のような会話。もちろん、ここで登場するのが、入院していた筈のコルトの謙。留置所で顔を見合わせる二人、思わず、懐に手を入れる。このゲーム感覚を楽しむのが、このシリーズの味わい。

 かつて竜四郎に撃たれ、恨みを持っているのが清流会の親分・辻堂(水島道太郎)。対立するのが有村興業。この二つの組織の間を行き来するのが、竜四郎と謙だが、今回は謙もヒーローのような存在感であるのがいい。そしてシリーズ四作連続登板の悪役、藤村有弘が扮するのは、有村興業のボスの中国人・有村。例によって怪しげなカタコトの日本語で、ユーモラスに演じている。その有村の屋敷でピアノを魅いているお嬢様が、ヒロイン道子(笹森礼子)巻頭で、有村興業の三島(郷エイ治)と岐阜駅から逃げようとしていたところ、竜四郎とぶつかった女性だった。

 日活アクションの定石通り、二つの暗黒街組織の対決のなか、ヒロインを護るためのヒーローの活躍が展開される。そうしたメインストリームもさることながら、本作では、宍戸錠の存在感がさらに圧倒的になっている。バーのカウンターで、バーテンに譲は「“抜き射ちの竜”にツケとけ」とタダ酒。バーテンに「もし、あなたは?」と問われると、譲はすかさず「親友だよ」。

 やがてクライマックス。悪漢たちの大掃除が終り、いよいよ二人の対決の時が来る。譲「約束、守ってくれなきゃ、困るじゃねえか」。竜四郎「何が」。譲「一騎打ちだよ」。竜四郎「あいにくだな。俺はまたハジキを捨てたんだ」。譲「だろうと思って、こっちはちゃんと用意してきたぜ」。竜四郎「いくら俺だって、いい加減にしねえと、本当にブッ放すぜ」。譲「そいつを待ってたんだ」。

 第1作から連綿と続けてきた、トニーとジョーの“決着のつかない対決”は、またしても悪漢の横やりにより、お預けとなる。譲「二人きりには、なかなかなれねえな」。竜四郎「はははは」と大笑いで、エンドマークとなる。

 この二人の遊戯的な相棒感覚は、プログラムピクチャーを観る愉しみに満ちている。今回の主題歌は「明日なき男」、そのカップリングとしてリリースされたのが、本編には登場しないが、宍戸錠とのデュエット「トニーとジョー」。この曲の楽しさは、このシリーズのファンへの大きなプレゼントでもある。

 さて、年が明けて、赤木圭一郎は1月9日公開の『俺の血が騒ぐ』(山崎徳次郎)、2月11公開の『紅の拳銃』(牛原陽一)に立て続けに主演。アクションスターとして揺るぎない地位を築いていった。そして、運命の2月14日が訪れることになる。歴史にもしもがあれば、「拳銃無頼帖」シリーズは続いて、トニーとジョーの対決に決着がついたのか、とファンは夢想してしまう。

  日活では1964(昭和39)年、高橋英樹主演で『抜き射の竜 拳銃の歌』(*野口晴康)を製作、好敵手・コルトのジョーに宍戸錠を迎えることとなる。

*野口博志監督が改名

日活公式サイト

web京都電視電影公司




いいなと思ったら応援しよう!

佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。