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『怪談累が淵』(1960年6月26日・大映京都・安田公義) 妖怪・特撮映画祭で上映

角川シネマ有楽町「妖怪・特撮映画祭」で、安田公義監督『怪談累が淵』(1960年6月26日・大映・京都)を大スクリーンで堪能した。

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三遊亭圓朝作の落語「真景累ヶ淵」は、これまで歌舞伎、芝居、映画、テレビ映画と幾度となく「夏の芝居」として親しまれてきた。この夏も「八月大歌舞伎」の演目で「真景累ヶ淵 豊志賀の死」が、東銀座歌舞伎座で上演されている。

さて、昭和35(1960)年に、大映京都で作られた本作は、この物語のハイライトを巧みにシナリオ化、複雑な因縁で結ばれた男と女の生々流転を、89分に凝縮。しかも駆け足ではなく、タップリ!という感じで、怪談映画としても、時代劇としても良く出来ている。

脚本は犬塚稔さん、演出はこの時点で二十年のキャリアとなる安田公義監督。2代目・中村鴈治郎さんが「宗悦殺し」の主役・高利貸しの按摩・宗悦。中田康子(東宝)が、宗悦の娘で「狂恋の女師匠」「豊志賀殺し」の豊島志賀。その妹でのちに柳橋芸者となるお園に三田登喜子さん。「宗悦殺し」をする深見新左衛門に杉山昌三九さん。その息子で、豊志賀と情を交わす深見新五郎に北上弥太郎さん。

登場人物は多いが、おなじみの物語展開であり、安田公義監督の演出が分かりやすいので、グイグイと引きこまれる。

江戸、寒い冬の夜。高利貸しの按摩・宗悦(中村鴈治郎)は、食い詰めた旗本・深見新左衛門(杉山昌三九)に貸金の取り立てに行くが、開き直った新左衛門に斬殺されてしまう。新左衛門は下男・三右衛門(寺島雄作)に命じ、宗悦の亡骸を葛籠に押し込め、始末するように命じる。

中村鴈治郎さんの殺されっぷりが見事。その懐の財布を新左衛門が奪おうとすると、財布の紐がマリオネットの糸のようになり、死んだ宗悦が身を起す! これは怖いですよ。小判を奪った新左衛門は、下男・三右衛門に7両を報酬として投げ渡す。畳に拡がる小判。血塗れの宗悦の手が小判を触るように、覆い被さる。恐怖に慄く、三右衛門。大映京都の怪優・寺島雄作さんのリアクションがバツグン!

怪談映画としては、この前半がハイライト。三右衛門が累ヶ淵に、宗悦の亡骸を遺棄しに行く。安堵の新左衛門は、水茶屋上がりの妾・おくま(村田千栄子)に、肩を揉ませるが、刀で斬られたような痛みにのたうち回る。いつしか、おくまの手が宗悦のものになり、宗悦の幽霊が新左衛門の肩につかまっている。ギャー! 

殺されて、わずかなのに、宗悦の幽霊が現れる。とにかく怖い。メイクや特撮で怖いのではなく、中村鴈治郎さんの芝居と存在感がとにかく怖いのである。『怪談累が淵』の恐怖は、名優・2代目中村鴈治郎さん、その人なのである!

一方、累ヶ淵では、三右衛門の後をつけてきた、おくまの情夫で悪党の佃の吉松(須賀不二男)が、三右衛門の懐の小判を狙って、三右衛門を刺し殺す。ああ!陰惨 さらに怖いのは、宗悦の遺骸の葛籠が、すーっと累ヶ淵に滑り込み、吸い込まれていくショット。葛籠の下に滑車を仕込んで、ワンショットで撮影しているのだが、これぞ大映京都マジック!

翌朝、深見新五郎(北上弥太郎)が、剣の修行の旅を終え、奥州から江戸へ戻ってくると、父・新左衛門が無惨の死を遂げていた…

この段階で被害者は、宗悦、新左衛門、おくま、三右衛門。十分で四人も殺されてしまう。ここから業の深い『怪談累が淵』の物語が始まるのだ。

数年後、富本節の師匠・豊志賀は、弟子・お久(浦路洋子)が、因業な養父母により、好色な旗本の隠居・細川伊織(嵐三右衛門)の妾に御供されそうになり匿う。しかし、佃一家のならずものが、豊志賀の家で狼藉三昧。その気急を救ったのが、宗悦殺しの新三郎の息子・新五郎という運命の皮肉。

仇同士の二人が、情欲に溺れ、さらには豊志賀がお久と新五郎の仲を嫉妬して… ドロドロした因果な物語が展開していく。善悪、幽霊入り乱れての累ヶ淵でのクライマックスは、大映怪談映画史上、驚嘆の「業」の物語。ちらり、ちらりと出てくる宗悦の幽霊。非業の死を遂げ、幽霊となる豊志賀が、お久を水中に引き摺り込むシーンの怖さ。

落語や歌舞伎でお馴染み「宗悦殺し」「豊志賀の死」を89分にまとめあげる、安田公義演出‼️ 昭和43(1968)年に、本作がリバイバル上映されたのがきっかけで、『怪談雪女郎』(1968年・田中徳三)、『牡丹灯籠』(1969 年・山本薩夫)、『四谷怪談 お岩の亡霊』(1969年・森一生)、『秘録 怪猫伝』(1969年・田中徳三)が連作されることとなる。そして昭和45(1970)年、安田公義監督が、北島マヤさんのお志賀、石山律さんの新五郎、石山健二郎さんの宗悦でセルフ・リメイク。大映と日活の共同配給システム「ダイニチ映配」で配給された。これが大映京都怪談映画の最終作となった。

『怪談累が淵』(1960年)は、この夏、妖怪・特撮映画祭で上映!



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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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