『流血の抗争』(1971年・日活・長谷部安春)
日活がロマンポルノへと路線を変更し、一般映画の製作を休止することになる1971 (昭和46)年は、日活アクション史における最後の年でもある。この『流血の抗争』は6月10日に封切られた長谷部安春監督にとっても最後の日活アクションとなった。く新しい資金源を求めて次々と新興都市を喰いつぶす巨大な組織暴力の実態>とプレスシートにあるが、アクション映画そのものも大きく変容していた時代でもある。
才気あふれる長谷部監習は、1968 (昭和 43)年に、小林旭主演の『縄張はもらった』で後のニューアクションの先駆となる集団抗争アクションを確立。望遠キャメラで捉えた生々しいビジュアルと、血なまぐさいリアルなバイオレンス描写のなか、小林旭、宍戸錠、ニ谷英明、川地民夫らの日活スターと、藤竜也、岡崎ニ朗、梶芽衣子といった若手によるコラボレーションの絶妙の按配で、傑作となった。翌、1969 (昭和44)年、小林旭との『広域暴力流血の縄張』では、雑踏のなかに隠しキャメラを据えて、ドスを呑み込んだ小林旭が夜の新宿歌舞伎町を彷徨う、ドキュメンタリーさながらのビジュアルを生み出し、それまでにない生々しい作品カ生した。
このあたりから日活におけるやくさ映画そのものが大きく変わり、それまでの任侠路線から『「無頼より」大幹部』(1968年・舛田利雄) にはじまる「無頼」シリーズなど、反体制のアウトローを描く日活ニューアクションが本格的に始動する。また1969年、長谷部監督は、若手脚本家・永原秀一とコンビを組んで傑作『野獣を消せ』を発表。プロハンターの渡哲也と対決する、藤竜也らアナーキーな若者グループの描写は、そのまま、このコンビの『女番長 野良猫ロック』(1970年)という新たなシリーズへ発展していくことになる。
映画の斜陽に歯止めが利かなくなり、刺激的な題材で観客を誘い込もうという興行的な思惑もあり、1970年代のアナーキーな時代の気分のなか、日活ニューアクションというジャンルが撩乱。その末期に作られたのが、長谷部監督にとって「縄張シリーズ」三部作の最終作となったのが『流血の抗争』である。
舞台は東京にほど近い、架空の地方都市・川田市。秋庭組の代貸・手塚直人(宍戸錠) が出所して来るところから物語が始まる。手塚は志村組の幹部・吉永博(佐藤允)と幼なじみで、その妹・雅絵(梶芽衣子)は手塚のかつての恋人である。そこへ東京から小峰信次郎(戸上城太郎)率いる誠信会の幹部・星野五郎(内田良平)がやってきて傍若無人の振る舞いをして、街を揺れ動かす。さらにもう一方の中央の組織・宇田川組も進出してきて、志村の組に加勢する。
中央の巨大組織の代理戦争に巻き込まれる手塚と吉永。流血の抗争の果てに、秋庭組も志村組も壊滅の危機に瀕してしまう。しかも誠信会は駆け引きをして、手塚たちを始末することを条件に宇田川組と手打ちをしてしまつ。
巨大な勢力に翻弄され、親分は殺され、裏切リ、殺し合いの果て、手塚や吉永、弟分の小沢浩次(藤竜也)、田村徹(沖雅也)らは、満身創痍のなか、巨悪たちへ斬り込みをかけるが・
昔気質の宍戸錠と、好敵手的な親友を演じるのが佐藤允。東宝で岡本喜ハ監督の『独立愚連隊』(1959年)などで活躍してきたアクション俳優。岡本作品のファンである長谷部監習は、これまでも岡本組常連の中丸忠雄を『広域暴力 流血の縄張』や『女番長 野良猫ロック』で起用、『あらくれ』(1969年)ではやはり東宝出身の太刀川寛を起用している。本作の佐藤允も、こうした監督の趣向を反映したキャスティングだろう。無骨なニ人のアクション俳優の競演は、リアルで非情なバイオレンス作品のなかで、フランス映画の男たちのように匂い立つ。そのニ人と対照的なのが、内田良平演じる星野の狡猾さ!
また、その気持ちの弱さから、仲間を裏切ってしまう弟分・田村を演じた沖雅也は、日活最後のスターとして、石原裕次郎主演の『男の世界』(1971年)に続く長谷部作品への出演となる。秋庭組の組長・秋庭辰治(植村謙二郎)の娘で、かって手塚に心を寄せていたが、今では幹部・増沢久雄(三田村元)の妻となっている純子に、三条泰子。幼子をかかえ、運命に翻弄されながら、やくざを否定する純子の存在はドラマの要にもなっている。劇中に流れる当時の流行歌、水前寺清子の「大勝負」(作詞:関沢新一 作曲:安藤実親)や、『ネオン警察 女は夜の匂い』(1970 年・野村孝)の主題歌であり当時大流行していた小林旭の「ついて来るかい」(作詞・作曲・遠藤実)が、時代の記録となっている。
クライマックス、血まみれになった宍戸錠と藤竜也が、半死半生のまま東京へと斬り込みに向かう壮絶さ!車のなかで藤竜也が吐露する「おれは、あったけえところが昔から欲しかった」という孤独な心情。誠信会本部へと殴り込みをするニ人のアウトローたちのカッコ良さ!戸上城太郎たちを待ち受ける宍戸錠と藤竜也のやりとり。意識が遠くなるなかで、男として、アイデンティティのために、反撃の時を待つ二人の姿は、日活アクション映画への鎮魂歌ともとれる名場面だろう。
日活公式サイト
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