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娯楽映画研究所ダイアリー 2021 5月17日(月)〜23日(日)
5月17日(月)『シカゴ7裁判』(2020年・ドリームワークス)『涙』(1956年・松竹)
今宵は、Netflixでアーロン・ソーキン監督「シカゴ7裁判」(2020年・ドリームワークス)を堪能。1968年夏、シカゴの民主党大会の会場近くに集まった、ベトナム戦争に反対する市民グループたちのデモ。平和的だった抗議集会が、警官による黒人少年暴行がきっかけで暴動に。その扇動者とされた7人の運動家の裁判を描いた法廷ドラマ。
ジョンソン政権からニクソン政権に変わったことで、無実の若者たちが政治裁判の生け贄になっていく。マーク・ライランスの弁護士の奮闘、アメリカの民主主義を覆していく政府への憤り。主人公・エディ・レッドメインが、繊細ゆえに、裁判の行方に暗雲が立ち込める。法廷ものとしても、手に汗握る展開。前司法長官のマイケル・キートンが素晴らしい。
陪審員を他の部屋に移して、最重要の証人の証言を聞かせまいとする判事・フランク・ランジュラの、無茶苦茶な進行に、今の日本の国会や司法に感じる矛盾や憤りを感じる。最後の結審での被告側の陳述シーンは、フランク・キャプラ映画のカタルシスと同じく快哉を送りたくなった! あと、マイケル・キートンの見事な旦那芸にも! 素晴らしい作品。
今宵の娯楽映画研究所シアターは、川頭義郎監督のデビュー作『涙』(1956年・松竹)。切なく、優しく、美しい映画。浜松のヤマハ工場で働く、若尾文子さんと石濱朗さんは相思相愛。
しかし幼き日に父親が使い込みで逮捕され、母が亡くなり、叔父・東野英治郎さんと叔母・岸輝子さん夫婦に育てられ、気を遣いながら生きてきた若尾さんは、叔父夫婦の薦める縁談で田村高廣さんと結婚。
石濱さんと悲しい別れをするが、夫は誰よりも優しい人で、若尾さんは初めて幸福を知る。銀座の日本楽器での、石濱さんとの再会。かつての恋人への想いを理解する夫。
無頼の兄・佐田啓二さん、旅役者となり金の無心ばかりしている父・明石潮さん。二人の優しさに涙が溢れる。
誰もが、それぞれの立場からで、不幸な育ちの若尾さんの幸せを考えている。
大映の若尾文子さんの美しさ! そしてその同僚に松島恭子さん、のちの日活の白木マリさん!
川頭監督の師・木下惠介さん作曲の主題歌、木下監督の妹・楠田芳子さんの脚本、弟・木下忠司さんの音楽の美しさ。木下兄弟の故郷・浜松でロケーション。ラストのお祭りのシーンに「涙」ナミダの傑作。
なぜかDVD化されていない幻の名作を、ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で上映! 16ミリしか上映可能なプリントはなく、泣く泣く16ミリ上映ですが、一人でも多くのひとに触れてほしい、美しい、美しい映画です!
6.9(水)~12(土)13:00 涙(1956年/川頭義郎)※16mm
6.16(水)~19(土) 15:00 涙
5月18日(火)『キング・コング エクステンド版』(1976年)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・ギラーミン監督『キング・コング エクステンド版』(1976年・ディノ・デ・ラウンティス)。192分の大ロングバージョン。どこがどう長くなっているか。全体のシークエンスの描写が細かくなっていて、70年代のパニック映画を観ているなあ、と懐かしき幸福感に包まれる。シズラーのステーキみたいに、やたらデカいけど大味な感じは健在で、バケツみたいなカップのコーラで流し込む味わい。
ジョン・バリーの音楽が007と「死亡遊戯」の時代。ケレン味があって、これぞ映画音楽の嬉しさ!
なんといっても、これで御目見得したジェシカ・ラングの美しさ!神がかりと言ってもイイくらい! 中学生のワタシが夢中になる筈。 それにリック・ベイカーのコングの芝居! 着ぐるみモンスターの最高峰。目の演技が素晴らしい。怪獣映画を観ていて切なくなる稀有な体験! ミニチュアも最高!特に電車の破壊シーン。メリメリと天井を剥がして、ヒロインを探すコング。シナリオのザルな部分は、あの頃のパニック映画だからと眼をつぶれてしまう。逃げてる途中で、喉が渇いた、お酒を飲ませて!のシーンは毎度ながら、あれれ?だったけど、バーでコングがヒロインを奪取する前のシーンが見た事がなく、得した気分。というわけで、年末の二夜連続スペシャルドラマを楽しんだ気分。やっぱりコングはキングだね!
5月19日(水)『最高殊勲夫人』(1959年・大映)・『喜劇 日本列島震度0』(1973年・松竹)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、増村保造監督『最高殊勲夫人』(1959年・大映)。源氏鶏太原作、白坂依志夫脚本。うだつの上がらない万年課長の父・宮口精二さんと母・滝花久子さんのような夫婦はゴメンと、玉の輿に乗り船越英二さんの社長夫人に収まった長女・丹阿弥谷津子さん。
次女・近藤美恵子さんを夫の次弟・北原義郎さんに嫁がせ、次は三女・若尾文子さんを夫の末弟・川口浩さんと結婚させようと画策。ハイテンポの増村演出の小気味良さ!
昭和三十年代の空気が気持ちいい。若尾さんは姉に反発して、時代の花形・テレビマンの柳沢慎一さんや、会社の男性陣と交際し、川口浩さんも自由恋愛に励むが… 最高の結婚相手は? という快作コメディ。
丸ビルを望む会社の屋上、お茶の水駅から地上に出るピカピカした丸の内線! 今も変わらぬ新橋の光景。そしてサラリーマン、BGのお腹を満たす地下街のトンカツ屋やお汁粉屋、カウンターキッチン! ああ、晴れがましい1959年型サラリーマンライフ! 楽しいのなんの!
続いては、前田陽一監督『喜劇 日本列島震度0』(1973年・松竹)。東京下町江東0メートル地帯。地域の地震対策委員に任命された町内の世話役・フランキー堺さんが肩入れしている占い師・日色ともゑさんの「12月1日に東京に大震災が来る」という予言に慄き、町内の衆を集めて「八丈島への避難旅行」を計画するが…。
財津一郎さんの悪どい街金の社長、ギャンブル借金で首が回らない石橋正次さん、その婚約者・鳥居恵子さんはフランキー堺さんの娘。灰田勝彦さんがスナックで歌う「東京の屋根の下」に託した、心情戦中派の前田陽一監督の想い。戦後派・あのねのねのナンセンスソング。
果たして大地震は起きるのか? 地震で何もかもリセットしたい庶民の破滅願望と、戦災の記憶。人情喜劇のフォーマットで展開するアナーキーな笑い。なんと、太宰久雄さんと水木涼子さんがここでも夫婦。谷よしのさんの入浴シーンまで!浅草松屋屋上遊園の遊具に、あのスカイクルザーの名残り! 佐山俊二さんは、なんと佃島の老舗・天安の主人!
ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で上映!
7.25(日)~27(火)19:20 喜劇 日本列島震度0
7.28(水)~31(土)17:00 喜劇 日本列島震度0
5月20日(木)『踊子』(1957年・大映)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、清水宏監督『踊子』(1957年・大映)。永井荷風原作、田中澄江脚色。浅草六区の劇場・シャンソン座の楽士・船越英二さんと踊子・淡島千景さんは共働き。浅草で十年苦労している。
ある日、淡島さんの妹・京マチ子さんが上京。アパートで三人暮らしが始まり、振付師・田中春男さんの見立てで、京マチ子さんも踊子に。肉感的で奔放な彼女は、義兄を誘惑、田中春男さんとも関係を持って妊娠。子供のいない淡島千景さんは、夫と妹の関係に怒るも、赤ちゃんを育てる決意。
しかし妹は踊子に飽きて向島の芸者に。優柔不断な夫はずるずると…。荷風の世界でありながら、ドラマは田中澄江さんの世界。しっかり者の姉・淡島千景さんと、だらしない妹・京マチ子さん。くされ縁の男女のような姉妹の物語。救いのあるラストが実に良い。
浅草観音様、六区、西参道、花やしきなどの風景は、さすが清水宏監督。横移動による撮影が映画の空気感となり、浅草という街への愛おしさが湧く。もちろん松屋浅草の屋上でもロケ。
妹は、相当ヒドイ女性なのだけど、京マチ子さんがコケティッシュでチャーミング。よく食べること!清水宏監督は、京マチ子さんが美味しそうに食べるシーンを随所にちりばめている。お好み焼きを食べたり、中華丼をファンにご馳走になった後シウマイを注文したり、サンドイッチをぱくついたり。
芸者に飽きたら、今度は二号さんなったり。ちっとも懲りない。で、その彼女が…のラストは、味わい深い。寂しいけど、不思議な幸福感に包まれる。淡島千景さんと京マチ子さんのツーショットは、かなり魅力的。
5月21日(金)『孫悟空』(1940年・東宝)・『妖怪大戦争』(1968年・大映)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、山本嘉次郎監督『孫悟空』(1940年・東宝)。紀元二千六百年に湧き立つ昭和15年、東京オリンピック、札幌オリンピック、万国博覧会が中止となった年。東宝と中華電影公司が鳴り物入りで製作した「御伽映画」。エノケンこと榎本健一さんの孫悟空、岸井明さんの猪八戒、エノケン一座・金井俊夫さんの沙悟浄。そしてエノケンさんの根岸歌劇団時代の師匠にして、エノケン一座の要・柳田貞一さんの三蔵法師が、天竺まで、妖怪や魔物たちと闘いながら旅をするファンタジー。東宝芸能舞踊隊、宝塚歌劇団による豪華レビュー。藤山一郎さん、服部富子さん、渡辺はま子さん、李香蘭さんなどなどの歌! アノネのオッサン・高勢實乗さんの珍演!
見所タップリの142分。今回は今までのソフト化よりも6分長く、新たに発見された后篇のタイトルと前篇のあらましにあっと驚くシーンが!それだけでもう、ご飯30杯! カンカン感激!
続きましては、黒田義之監督『妖怪大戦争』(1968年・大映)。幼き日に、怪獣に加えて妖怪ブームが到来。水木しげる先生の妖怪が実写化したような「妖怪三部作」の第二部。バビロニアの遺跡から蘇り日本に襲来したダイモン(橋本力)が、伊豆代官所の代官山・神田隆さんに憑依。人の生き血を啜り続ける。迎え撃つは、我らが日本妖怪。河童、油すまし、ぬっぺっぽう、からかさ小僧、二面女、ろくろ首、雲外鏡、青坊主… 大映京都の底力で、最高の妖怪映画に。なんたって神田隆さんに、橋本力さんがシンクロしてしまう。最高の眼力王!懐かしくも楽しい特撮映画!
5月22日(土)『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年)・『七人の刑事』(1963年・松竹)
今宵はNetflixで、ザック・スナイダー監督『アーミー・オブ・ザ・デッド』(2021年)。ザック版『クレージー黄金作戦』として楽しんだ。タイトルバックの“Viva!Las Vegas"にのせて展開する、主要キャラによるゾンビとの戦いが快調!
ゾンビが跋扈し、封印されたラスベガス。32時間後に、大統領令で核爆弾で殲滅される。ホテルの地下金庫にある大金を盗み出す命を受けた傭兵、金庫破りのプロ、逃走用ヘリのパイロット、ゾンビハンターのYouTuberなどなど、一癖も二癖もあるならず者たち。
フランク・シナトラ一家の『オーシャンと11人の仲間』(1960年)のような泥棒アクションのゾンビものだけど、父親が娘を思い、娘が父親を赦す父娘の物語でもある。ザック・スナイダー自身に起きた娘さんの不幸を思うと、切なくなる。ラスト近くの父娘のシーンは、ザック・スナイダーの想いだろう。
娯楽映画としても、みどころもタップリで、ストレートな展開に物足りなさを感じる人もあるだろうが、結構、グッときた。
今宵の娯楽映画研究所シアターは、大槻義一監督『七人の刑事』(1963年・松竹)。「警視庁物語」シリーズの長谷川公之脚本。山下毅雄音楽、TBSの人気ドラマの映画化第1作。松竹スコープのフレームにバッチリ七人が収まるのは、映画版なればこそ!
倍賞千恵子さんの恋人・早川保さんが、コールガール殺しの容疑で、捜査一課にマークされる。状況証拠もあり、アリバイも曖昧。園井啓介さんの事件記者が若い恋人たちに接近、スクープを狙う。
科学捜査至上の佐藤英夫さん、容疑者の無実を直感で信じる城所英夫さん、冷静沈着な主任・堀雄二さん、頼もしきベテラン・芦田伸介さん。それぞれの個性がぶつかり合い、恋人たちの運命の歯車が狂っていく。
倍賞千恵子さんの、健気に恋人を信じ続ける姿に「下町の太陽」の萌芽があり、その姉のファッションモデル・瞳麗子さんとは対照的。後半の倍賞さんの苦しみが観客にも痛いほど伝わり、胸が苦しくなるほど。
東京風景も活写されていて、「有楽町0番地」西銀座デパートを出てくる瞳麗子さんと恋人。倍賞千恵子さんと早川保さんの待ち合わせ場所、銀座の森永エンゼルストアのティールーム(TV版のスポンサー!)。銀座線銀座駅のステンレスの柱! 渋谷ハチ公前などなど。
第二作『七人の刑事 女を探がせ』は、ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で上映!
5月23日(日)『浅草の夜』(1954年・大映)・『七人の刑事 終着駅の女』(1965年・日活)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、川口松太郎原作、島耕二脚本・監督『浅草の夜』(1954年・大映)。レビューの作家・鶴田浩二(松竹)と踊子・京マチ子さんは、すぐに喧嘩するが相思相愛。京マチ子さんの妹・若尾文子さんは、根上淳さんの画家と恋仲だが、姉は猛反対。それには、姉妹の出生の秘密と関わりがあった。ベタな人情ドラマは、川口松太郎の世界。根上淳さんの養父の日本画の大家・滝沢修さんと姉妹の関係、若尾さんに懸想する若親分・高松英郎さんと、父の大親分・志村喬さん。めぐる因果は糸車の物語。
なんといっても浅草ロケ! 若尾さんが働く浦辺粂子さんのおでん屋「田毎」があるのは、公園通り「釜めし春」の並び、ウチのカミさんの叔父さんが、一昨年まで経営していたもんじゃ焼き屋「なんじゃもんじゃ」のあったあたり!セットだけど、その隣にあるバーの名前「サイザンス」にトニー谷ブームの昭和29年を感じる。
銀座線浅草駅の雷門出口の地下鉄ビル。通りの向こうの和菓子屋にしむら。出来たばかりの新仲見世のファサード。今も変わらぬ松屋浅草と、銀座線浅草駅出入り口の破風建物。昼夜の浅草六区。都電が走る吾妻橋。ネオンがまぶしい観音通りや、吾妻橋のたもとから見える地下鉄ビルの偉容。ああ楽しき哉、映画による東京探検!
続いては、日活版というか民芸映画社の若杉光夫監督「七人の刑事 終着駅の女」(1965年・日活)。音楽は渡辺宙明さん。山下毅雄さん作曲のテーマは流れない。
東北からの終着駅、国鉄上野駅ホームで殺された女性。北上行きの切符を持っていた。彼女は東京から出稼ぎに来たまま行方不明になった夫を探しに来た主婦。故買屋・草薙幸二郎さんが盗んだバッグには、子供への土産があった。
捜査にあたる警視庁捜査一課の七人の刑事たち。台東署に本部を設置。終始上野駅とその界隈でロケーション。ドキュメンタリータッチで、高度成長の隙間で苦しむ人々が浮き彫りに。やくざの売春組織が、田舎の貧しい暮らしよりまだしもと、転落していった女性の悲しみ。そこから抜け出せない笹森礼子さんと、平田大三郎さんのチンピラが抱いた故郷への希望。二人が脱出を相談する根岸の旅館に流れる、ザ・ピーナッツの「青空の笑顔」の歌詞が二人の心情とリンクする!
梅野泰靖さんの女衒の狡猾。やくざの親分に、宮阪将嘉さんと大森義夫さん。つまり「事件記者」チーム! 二人ともリアルな芝居で風景に溶け込んでいる。新劇の巨人たちの芝居合戦に酔いしれる!
根岸界隈の曖昧宿。上野陸橋の埃っぽさ。笹森礼子さんと平田大三郎さんが待ち合わせをする、上野駅地下食堂は、のちに「男はつらいよ」第1作で、寅さんが涙とともにラーメンをすする店。
「警視庁物語 魔の伝言板」とともに、上野駅映画の傑作!
苦いラストに流れる、東北出身者の生の言葉の数々に胸が締め付けられる。劇映画だけど、ジュールス・ダッシンの「裸の町」のようにリアルな、リアルな刑事ドラマ! ソフト化、切望の大傑作!
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