『お傳地獄』(1960年11月30日・大映・木村恵吾)
『お傳地獄』(1960年11月30日・大映・木村恵吾)モノクロ、大映スコープで、京マチ子が毒婦・高橋お伝を演じた「明治ヴァンプ一代女」もの。
高橋お伝は、芝居や映画、歌謡曲の題材としてお馴染み。僕らが知っているエピソードは、ほとんど後年、メディアが興味本位に脚色したスキャンダラスなストーリー。その捏造に加担したのが当時の「東京日日新聞」。日本のメディアのゴシップ好きは明治の御世からの伝統芸。
邦枝完二の原作「お伝地獄」も、戯作として「高橋お伝」の生涯と女心をエロティシズムのなかに描いたもの。最初の映画化は1935(昭和10)年新興キネマで、石田民三が演出。お伝を鈴木澄子が演じている。
さて、京マチ子版である。上州高崎で酌婦をしていた貧しい農家の娘・お伝(京マチ子)は、彼女の入れあげた色男・波之助(船越英二)と結婚。しかし波之助は、悪性の皮膚病を患い、手足が思うように動かなくなっていた。治療代が嵩み、金策に困ったお伝は、庄屋の息子でお伝に懸想している大八(殿山泰司)に借金をする。お伝の肉体が目的の大八と揉み合ううちに、第8は腐った橋から谷底へ落ちてしまう。
人を殺してしまった良心の呵責に苛まれつつ、お伝は波之助を連れて東京の名医・後藤昌文(中村伸郎)に診てもらうが、病状は悪化。そこで、またまたお伝の色香に魅せられた、若き医師・杉本喜太郎(川崎敬三)が、彼女のために痛みを和らげる「麻薬」を処方。お伝は、波之助のために杉本に身をまかして「麻薬」を手に入れ続ける。
といった生々流転の物語。川崎敬三の杉本は、お伝に会いたさに薬品棚から悪いと知りつつ薬を盗んで逢瀬を重ねるも、師匠・中村伸郎の知るところとなりクビに。
お伝に関わった男たちは、こうして次々と身の破滅となる。とはいえ、中村伸郎に紹介状を書いてもらい、横浜の名医・ヘボンにかかることに。横浜の軒割長屋で、お伝と波之助の暮らしが始まるが、治療費を稼ぐために、お伝は昼はチャブ屋で働いているが、波之助はそれを薄々時感じて嫉妬に狂って…
さらに、野毛で人殺しをしたスリ・平岡市十郎(菅原謙二)に一目惚れしたお伝、市十郎と逢瀬を重ねるも、市十郎の愛人・お初(水谷良重)が嫉妬して、女の闘いとなったり…
「脂の乗り切った」肉体を持て余し、夫を大事に思いつつも、次々と男たちを虜にしていく。前近代的な「毒婦」のイメージを京マチ子が余裕たっぷりに演じ、『痴人の愛』で京マチ子の魅力を引き出した木村恵吾監督の「王道」演出も味わえる。
京マチ子がスターなので、ラストは「毒婦の最期」ではなく、あくまでも市十郎との別れに徹している。とは言え、二人の男を殺害はするのだけど、あくまでも「愛の終わり」を前面に出して、それが彼女の「身の破滅」になっていくという雰囲気で。
お伝に二度殺される殿山泰司、東京の旅館の親父で、お伝の色香に鼻の下を伸ばす潮万太郎。そして、強烈な個性の水谷良重は、流石のうまさ。