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『007/慰めの報酬』(2008年・英・マーク・フォスター)

 昨夜は、本当に久しぶりに『007/慰めの報酬』(2008年・マーク・フォスター)を娯楽映画研究所シアターに投影。上映時間が106分とシリーズでは、一番短い。それゆえ、キリッと冷えたビールの小瓶のようなスッキリした味わい。コクがないとか、物語が平板だとか、当時は色々と言われていたが、僕は結構お気に入り。

 ヒロインが、好みのオルガ・キュリレンコなので、ポイントが高い(笑)タイトルは、イアン・フレミングの「007号の冒険」(今は「007/薔薇と拳銃」)収録の短編からだが、物語は一切関係ない。前作『カジノ・ロワイヤル』(2006年)の続編として、ミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)の訊問から物語が始まる。トップシーンは、イタリアのシェーナで、いきなりボンドのアストンマーチンと謎の敵との壮絶なカーチェイス。これでテンションが上がる。

 シナリオはポール・ハギス、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイドだが、クランクイン直前に脚本家組合のストライキがあり、シナリオが完成されないまま、撮影に入ったという。なので、現場でプロデューサーのマイケル・G・ウィルソン、バーバラ・ブロッコリ、ダニエル・クレイグ、マーク・フォスター監督が相談しながらお話を組み立てていったという。それゆえ、ボンド映画らしいアクションや”ありそうな”展開になった。

 ミスター・ホワイトは訊問中に、イギリス政府の裏切り者の手引きで逃走。謎の組織は、イギリス情報部にまでスパイを送り込んでいることが明らかになる。で、ル・シッフルが取引に使った紙幣がハイチで使われたことが判明して、ボンドはハイチへ。(のちにボリビアの情報部員とわかる)謎の女・カミーユ(オルガ・キュリレンコ)が、フランス人実業家・ドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)の情婦で・・・

 この辺りは『サンダーボール作戦』のリフレインでもあるが、グリーンはボリビアでクーデターを目論むメドラーノ将軍(ホアキン・コシオ)に資金供与。軍事政権が成立した暁には、とある利権を独占しようとしていた。さらに、好色な将軍に、カミーユを差し出す。というわけで、ボンドがその危急を救うのだが、カミーユは将軍に私怨があって、その復讐のために近づこうとしていたのだ。

 21世紀の「新しいボンド映画」のスタイルで、実は、時代劇のような父母の仇討ちを果たす娘の物語になっている。彼女をサポートするボンドの助太刀が、本作のドラマの要となる。今回も前作に続いて、ルネ・マティス(ジャンカルロ・ジャンニーニ)、CIAのフィリックス・ライター(ジェフリー・ライト)が登場する。

原作「カジノ・ロワイヤル」でボンドの相棒をつとめ、映画では前作の最後でボンドを裏切ってしまうルネ・マティスが、Mに経費のカードを停止されたボンドをサポートして、一緒にハイチへ。

一方、前作の冒頭で殺しのライセンスを得て007となったボンドが、出会う敵、怪しい奴らを、正当防衛とはいえ次々と殺してしまい、それにMが呆れ果てるのがルーティーンとなる。なのでM(ジュディ・ディンチ)が最初から最後まで出ずっぱり。Mの私生活も(前作に続いて)チラリを垣間見える。

 この”やんちゃなボンド”に振り回されながらも、最後は「自分の部下」と身体を張って守るMの、母親的な役割が、前作より強調されている。満身創痍のボンドの守護者としてのM。これが次作『スカイ・フォール』のドラマの前段となっているのもいい。

 ボンドとカミーユが、ボリビアでオンボロ飛行機で、敵と戦うスカイアクションがなかなか楽しい。ボンド映画本来の派手なスタントが楽しめる。珍しくもカミーユとボンドは、プラトニックなまま。彼女は幼い頃、母と姉が将軍にレイプされ、それを目撃した過去がある。それゆえ、プレイボーイの餌食にはならない。

 その代わりボリビアのイギリス領事館のコリーヌ(スタナ・カティック)にはしっかり手を出すも、全身、真っ黒なオイル塗れの死体で発見される。もちろん『ゴールドフィンガー』の金粉まみれのジル・マスターソンのリフレイン。

 というわけで全5部作の「第二話」として観ると、『慰めの報酬』はなかなか良い。あくまでもビールの小瓶のような映画だけど・・・




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