『鯨神』(1962年・大映東京・田中徳三)「妖怪特撮映画祭」で上映
今宵の娯楽映画研究所シアターは、「妖怪特撮映画祭」で上映、田中徳三監督『鯨神』(1962年・大映東京)。宇能鴻一郎の直木賞受賞作を新藤兼人が脚色。
明治初期、長崎県平戸島。鯨取りのシャキ(本郷功次郎)が、祖父、父、そして兄(藤山浩二)の生命を奪った巨大な「鯨神」に挑む。鯨名主(志村喬)は、鯨神を倒すことに取り憑かれていて、その鼻面に銛を打ったものに、娘・トヨ(江波杏子)を嫁にして、鯨名主の身代をそっくり譲ると宣言。
紀州から流れてきた男・キシュウ(勝新太郎)も、鯨神を打ち倒すことを表明し、シャキとことごとく対立する。
シャキの恋人・ヤエ(藤村志保)が本作のヒロイン。彼女の背負う悲しみと、長崎で迫害を受けてきたキリシタンへの弾圧がリンクする。平戸島で藤村志保さん、というと、第20作『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』(1977年・松竹)を思い出すが、寅さんが恋するマドンナ・藤子さんには、こんな悲しい先祖の物語があったのかと、つい連想してしまう。
原作は、メルヴィルの「白鯨」の影響を受けていて、モンスターである鯨神の恐ろしさは、人間の原罪、欲望、妄執、執着の恐ろしさとオーバーラップする。
特撮は、東京撮影所ではなく、大映京都撮影所の大プールで行われた。鯨神の造形は、前年『釈迦』を手がけた大橋史典が担当。撮影は的場徹。全長30mの、実物大モデル、5.5メートルのモデルが800万円かけて作られたが、実際はほとんど稼働しなかった。そこで『釈迦』のバラモン神像を手がけた高山良策がミニチュアを作り、ほとんどのシーンをそれで撮影したという。
冒頭、そしてクライマックスの鯨神と鯨取りたちの死闘は、映画館の大きなスクリーンで観るのがいちばん。実物大鯨神にしがみつく勝新太郎、本郷功次郎の迫真の演技! 伊福部昭の重厚な音楽! 怪獣映画としてもなかなか楽しめる。
この夏、妖怪特撮映画祭で上映!