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『街に出たお嬢さん』(1938年7月31日・東宝東京・大谷俊夫)

霧立のぼる

霧立のぼるの「お嬢さん」シリーズ第二弾『街に出たお嬢さん』(1938年7月31日・東宝東京・大谷俊夫)をスクリーン投影。明確にシリーズとか、第二弾というわけではないのだけど、明らかに『お嬢さん』(1937年7月21日・PCL・山本薩夫)のヒットにあやかっての女の子の自立をテーマにしたモダンコメディである。

 原作は永見隆二、脚色は阪田英一。音楽は谷口又士とPCL管弦楽団。軽快なテーマソングに乗せて、お嬢さんの日常が描かれる。

 東京の住宅街で、父・御橋公、母・英百合子、兄・三木利夫、兄嫁・山縣直代、妹・若原春江、弟・今泉ひろし、お手伝いさん・宮野照子、典型的東宝映画的大家族として暮らしている舟木一家の次女・杏子(霧立のぼる)。この大家族の食事シーンが、のちの「サザエさん」的というか「寺内貫太郎一家」的な賑やかさで、毎晩、大騒ぎ。お嬢さん、箸箱で弟の頭をポカリ、小学生の弟がワーンと泣き出す(笑)

大家族の賑やかな食卓

すぐにお嫁に行きたくないからと、丸ノ内のタイピストとなったお嬢さん・杏子が、デパートの外商の請求書を見て驚いた父から浪費癖を嗜められ、売り言葉に買い言葉で、家を出てアパート暮らし。お嬢さん、思い立ったら行動の人。すぐに怒ったり、泣いたり、激しい性格はどうやらお父さん譲りのようである。

さて、敷金礼金をポーンとキャッシュで払った杏子は、すぐにアパートに入居。世間知らずのお嬢さん、奇妙な連中のコミュニティに、最初は好奇心旺盛で、住人や管理人に引っ越しを手伝わせる。ホイホイいうことを聞いてくれる男たちにチヤホヤされるのが嬉しくて、やれ「夕食をとって欲しい」とか、「パンとバターを買ってきて」とか、女王様気分の毎日。

アパートには、大言壮語の妄想実業家・嵯峨善兵、贅沢志向のモダンボーイ(その実、借金まみれ)のリキー宮川、夫の浮気癖に頭を悩ましているヒステリー主婦・伊達里子、自由気ままな独身サラリーマン・斉藤英男と津田光男など、などなど奇妙な人物ばかり。P.C.L.初期のモダン喜劇『三色旗ビルディング』(1935年・木村荘十二)のパターンで、リフレインでもある。

 ところが、愛人稼業の音羽久米子(旦那は職人の親方風の山田長正)が、お嬢さん人気に嫉妬してから、事態は急変。お嬢さんのお父さん・御橋公が訪ねてきたのをパトロンと勘違いして、「なんだタイピストじゃなくてお妾さんなのか」と、話に尾鰭がついてしまう。

 そんなお嬢さんの唯一の理解者となるのが、ダンサーのモダンガール・雪枝(堤眞佐子)。彼女は両親が居なくて弟・伊藤薫の面倒をみえている。しかしその弟が、不良仲間に入って、友人のお金500円を盗んで大事に。彼女は、その借金を返すために、北京へ行くことになり・・・

といった賑やかなエピソードで、お嬢さんが出会った「初めて触れる世間」が描かれていく。

 監督は大谷俊夫なので、吉屋信子原作、山本薩夫監督による「お嬢さん」のような、テーマもドラマのコクもない。東宝コメディ、しかも行き当たりばったりのエノケン映画的な面白さである。カメラアングルも均一的で、クローズアップもすくなく、撮りっぱなしという感じ。まぁ、この時代のコメディはどれも、こんな感じなのだけど。

 通勤シーンの丸の内ロケは、やっぱり東宝らしく、ピカピカしていてモダン。アパートの周辺の商店街には、風月堂もあり、なかなか賑わっている。

地下鉄バスでいつもいがみ合うサラリーマン・佐伯秀男。
アパート近くの商店街。昭和13年の空気が味わえる。

 というわけでお嬢さん、奇妙な住人たちとの人間関係に疲れ果て、ほうほうの体で、アパート暮らしを返上する。

 杏子がアパート暮らしに憧れたのは、やはりタイピストで親友の椿澄枝が、気ままな一人暮らしで、恋人・北沢彪とうまくやっているから。でも、お嬢さんは恋人もいなくて寂しい毎日。

 通勤のバスや電車で、ことごとくぶつかり合うサラリーマン、佐伯秀男のことが次第に気になり始めてゆくが、椿澄枝たちと出掛けたピクニックで偶然、佐伯秀男が女の子と睦まじい姿を見てショック。

 でも、近所の叔父さん・榊田敬治が持ってきた縁談の相手が佐伯秀夫で、ピクニックの女の子は彼の妹だったことがわかってからのオチも、ラブコメの萌芽として楽しめる。

 結局、女の子の幸せは、親が決めた結婚、という昭和13年のモラルで、女性の自立はポーズだけ。なのだけど、霧立のぼるのツンデレぶり、天真爛漫ぶりが、あまりにも可愛いので、それが何よりの魅力でもある。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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