大空に乾杯(1966年・齋藤武市)
この映画が作られた昭和41(1966)年。旅客機の客室乗務員はスチュワーデスと呼ばれ、女の子の憧れの花形職業。東京の空の玄関である羽田空港は、単なるエアターミナルではなく、観光やデートなどで訪れるスポットでもあった。吉永小百合主演の『赤い蕾と白い花』(62年)では金子信雄と高峰三枝子がランデブーと楽しみ、『風と空と樹と』(64年)では、集団就職で上京してきた吉永小百合と浜田光夫たちが遊びにやってきて、海外への憧れに胸を膨らます、というシーンで、羽田空港や飛行機が登場する。
昭和30年代、吉永小百合映画では、そうした憧れのスポットだったのが、昭和42年の本作になると、ついに吉永小百合は全日空の客室乗務員となり、さっそうとしたスチュワーデス姿でスクリーンに現れる。この『大空に乾杯』は、この年のお正月映画『四つの恋の物語』(1965年12月28日公開)に続いて、2月25日に公開されている。吉永小百合、十朱幸代、和泉雅子に加え、テレビで活躍し、日活では小林旭映画のヒロインをつとめていた広瀬みさ、四人の女性が、仕事に生き、恋や結婚について考える、華やかなオールスターの女性映画。当時の映画界で使われていた言葉でいえば「明朗青春大作」ということになる。
ヒロイン滝村ゆり子(吉永小百合)は、全日空スチュワーデスの研修生から晴れて飛行機に乗務することができたばかり。明るい性格で、一見良家の子女であるが、家庭に問題を抱えている。庭の手入れにやってきた園芸大学の学生・北倉誠(浜田光夫)の花へのひたむきな姿に、少し心を惹かれる。そんなゆり子を暖かく見守る先輩・矢部朝子(十朱幸代)は、高級マンションに住み、高級外車に乗っている、今で言う「セレブ」的独身生活を謳歌している。
ボーイフレンドも数多く、ハウスキーパー変わりに大学生・太郎クン(花の本寿)を家に置いている。いわば先端的現代女性。ゆり子の教官でもある先輩スチュワーデスの工藤冴子(広瀬みさ)は、機長・関名俊太郎(葉山良二)と婚約中であるが、母が病気のため、婚期がおくれている。冴子の妹・ミチ子(和泉雅子)は、ダンディな俊太郎に「憧れの男性」を見つつ、姉への反撥からモーションをかける。
四人の女性の生き方を描くスタイルは、日活オールスター女性映画のパターンでもあるが、そこはスター映画、ヒロインゆり子のキャラクターが実にいい。
アバンタイトルで父・健造(下元勉)とビールで祝杯をあげるシーンがあるが、タイアップとはいえ「アサヒスタイニー」と、自らビールを注文する。初フライト先の大阪で、怪しげな関西芸能人・町田にバーで薦められても「レモンスカッシュ」と、下戸のような顔をして、寄宿先のホテルでは朝子と一緒にウイスキーを空けてしまうほど酒に強い。「大酒飲み」のヒロイン! これが実にチャーミングなのである。これこそ吉永小百合映画の良さであり、日活青春映画の味でもある。
お見合いの席とは知らず、財界の大立物・立花啓左衛門(清水将夫)宅にお招ばれをしたゆり子たち。息子・啓介(平田大三郎)を運転手と勘違いして、コップに酒を注がせる。晴れ着姿にコップ酒! そんなゆり子は、生活力はないがロマンがある誠と、毛並みの良さが魅力な啓介のどちらを選ぶか? という局面に立つ。先輩の冴子も朝子にも、それぞれ過去に男性と別れたというエピソードがある。誠か? 啓介か? ゆり子は、二人の男性への想いを自らためす。酔っぱらったふりをすると、介抱した男は、自分に何をするのか? 公園のベンチのシーンは、本作のハイライトの一つである。
監督の齋藤武市は、小林旭の「渡り鳥シリーズ」などを手掛け、吉永小百合と浜田光夫主演では、名作『愛と死をみつめて』(1964年)を演出している。『東京の暴れん坊』(1960年)や『ろくでなし稼業』(1961年)などのコメディも得意とした人で、本作でもコミカルな笑いが随所に用意されている。特に和泉雅子。「夢見るユメ子さん」の世代であり、何かつけ、ロマンチックな妄想をする。その妄想シーンがアクセントのようにインサートされ、観客の笑いを誘う。ここで歌うのが「二人の銀座」のカップリン曲「踊りたいわ」(作詞・作曲・ヘンリー・ドレナン)。このメロディはのちに、岩谷時子が詞を書いて、吉永小百合の「みんなで行こう」としてリニューアルされる。
原作は明朗な青春小説を得意とした若山三郎の同名小説。「お嬢さん」シリーズで幅広い読者の支持を受けた大衆小説作家。『大空に乾杯』は、ニッポンが元気だった昭和40年代という時代の空気にあふれ、吉永小百合のフレッシュな魅力がいっぱいの、プログラムピクチャーならではの楽しい作品となっている。
web京都電影電視公司「華麗なる日活映画の世界」
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