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『拳銃無頼帖 電光石火の男』(1960年・野口博志)

 『抜き射ちの竜』の後、赤木圭一郎は3月20日公開の『打倒』(松尾昭典)でボクサーに扮し、4月16日公開の『邪魔者は消せ』(牛原陽一)でサスペンスに挑戦、そして5月14日にシリーズ第二作『電光石火の男』が公開された。


 シリーズ全作を手掛けた野口博志監督は、小林旭の「銀座旋風児」シリーズの演出家でもあるが、やはり代表作は「拳銃無頼帖」。アキラの「渡り鳥」「流れ者」同様、“無国籍アクション”と呼ばれたジャンルであり、好敵手役の宍戸錠も同じ。違いといえば同じ地方都市を舞台にしても、「渡り鳥」「流れ者」は風光明媚な観光名所、『電光石火の男』の舞台が四日市のように、地方都市の内部に限定されているということ。

 トニーの愛称で呼ばれた赤木圭一郎のスクリーンでのヒーローぶりを定着させたのが第一作『抜き射ちの竜』で、キザでクールな錠のライバルぶりと、その会話の呼吸、決着のつかない対決、それらのカッコ良さは、こうした娯楽映画、特にシリーズものにはディティールが命ということを証明している。

 『電光石火の男』のみ、主人公の名前には竜の文字はなく丈二。前作の“抜き射の竜”とは異なるキャラクター。かつて組織に属していたアウトローであるという部分は受け継いでいる。オープニング、用心深く四日市の一つ手前の駅で降りる丈二は、ボスの身代わりで刑務所に入っていたハイライト興業の元幹部、いわばやくざである。

 主人公をめぐる暗い過去と設定は、赤木の陰影を湛えたムーディーなマスクのイメージによるところも大きい。オープニングの四日市に向う汽車で、チンピラに絡まれているジーナ(白木マリ)を颯爽と助ける姿は、ヒーロー登場にふさわしい。タイトル文字が出た瞬間、赤木の顔はストップモーションとなるが、デッキからの車窓風景は動いている心憎い演出。

 ほどなく、浜辺で貞夫(杉山俊夫)と五郎(宍戸錠)が対決していると、銃口を五郎に向け「ただの通りがかりのもんだ。仲裁しようってだけさ」と割り入る不敵さ。ここで五郎と丈二の出会いのシーンとなる。五郎も過去を持つ男。帽子のヒモを鼻の下にかけ、ジージャンにジーパンのラフな姿は、『抜き射ちの竜』のダンディなコルトの銀とは、また異なるテイストのキャラ作り。これは宍戸錠自身のアイデアだという。

 三年前、恋人・圭子(ルリ子)に別れを告げ、刑務所に入った丈二が四日市に戻ってきたのは、圭子への未練もあってのこと。絶ちがたい、ヒロインへの慕情。刑務所へ手紙を出し続けた圭子に返事を出さず断ち切ろうとした丈二が、再び圭子の前に姿を現した事から、過去の恋愛と現在の感情が交錯し始める。「渡り鳥」シリーズで純情可憐なヒロインを演じ続けていた浅丘ルリ子が和服姿でマダムを演じているのも異色というか意外。

 その二人が再会して言葉を交す橋の袂のシーン。丈二は「君をあきらめた」、圭子は「あきらめなかった」とうつむく。圭子は歳月によって、忘れようとしていたが、丈二の刑期が早まったことで心が乱れる。あと三ヶ月もすれば、結婚をしていたのに。すれ違う感情。圭子が婚約した相手は、丈二の組織と敵対する大津組組長・仁作(菅井一郎)の息子で、丈二の旧友である大津昇(二谷英明)という運命の皮肉。

 ヒロインをめぐる過去の物語は、『紅の拳銃』(61年)での吉行和子と赤木の関係や、『赤いハンカチ』(63年)、『夜霧よ今夜も有難う』(67年)など後のムード・アクションのモチーフへと連なる。二谷英明が現在のルリ子の恋人という設定もまた定石。この三角関係のドラマは、大津刑事が暴力団一掃のためにこの街に赴任してくるところから、より陰影を増してくる。

 そうした人間模様とは別に魅力的なのが、五郎のキャラクター。丈二の後釜としてハイライト興業の幹部に収まっている。大津刑事が家宅捜索に訪れたキャバレーのバックヤードで、素っとぼけてホルンを磨きながら吹いたり、と渋目のキャラながら相変わらずユーモラスに好演。ジーナの気持ちを丈二から聞いた五郎は「俺は女に親切にしたことがない男なんだ。何をどうやっていいか全然見当がつかない」とうろたえる。そのおかしさ。

 それでも勝負にこだわる五郎は「必ずどっかでおめえのドテッ腹に風穴をあけてやる」と息巻く。丈二は「俺の言うことも聞いてくれたおめえだ、一つくらい言うことを聞いてやんなくちゃ悪いや」。五郎「勝負はいつやる?」。丈二「慌てんなぃ。気が向いたらだよ」。この呼吸。

 風光明媚なロケ地もプログラムピクチャーの魅力の一つ。丈二と圭子がロープウェイで向かうのは、鈴鹿国定公園の中にある御在所岳。ここで、突然あらわれる五郎と丈二の対決は、またしてもお預けとなるが、二人のやりとりがいい。タバコを投げ、ビールの空き缶を射ち合う場面の相棒感覚の楽しさ。

 また、第二ヒロインには、60年代日活最大のヒロインとなる吉永小百合が抜擢され、日活映画に初出演。貞夫のガールフレンド節子として清純なキャラクターを演じ、なんとキスシーンまである。当時のプレスシートには<小柄で、純情可憐で浅丘ルリ子に似た彼女は・・・>と新人として紹介されている。

 主題歌は「夕日と拳銃」と「野郎泣くねぇ!!」。「夕日と拳銃」は開巻、夜の浜辺を歩くシーンに流れるウエスタン風の曲。「野郎泣くねぇ!!」は後半、圭子を物陰から見つめる丈二のシーンに流れる。

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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